警察を糾弾しないマスコミ
警察を糾弾しないマスコミ
台湾留学生の殺害事件
1月10日の読売新聞に、「容疑者 任意同行中に自殺」という記事が出ていました。二段組みの地味な扱いでした。台湾から留学生として来日していた二人の女性が何者かによって殺害されたというあの事件です。
事件は1月5日に台東区内のマンションで発生し、犯人は9日に逮捕されたのです。警視庁の捜査員が、名古屋市内の劇場にいた張容疑者を発見して身体検査をして車で任意同行中、容疑者が隠し持っていたナイフで自殺したというのです。
この事件は、被害者が台湾からの留学生だったということもあって、日本人として心を痛めていた人も多いはずです。台湾は世界で一番の親日国であり、東日本大震災の際にも、多くの義捐金を提供してくれました。従って、容疑者が同じ台湾からの留学生だったと聞いた時は、内心、少しホッとしたものでした。
何のためのボディチェックか
しかし、せっかく容疑者を捕まえ、身体検査までしたその大事な容疑者だというのに、ボディチェックでそのナイフを見つけることができなかった。そのうえ、両側から抱え拘束していた捜査員が、自殺を阻止することもできなかった。このニュースを聞いたときの私の感想は、「またか!」という一言でした。それは、これまで数多くの警察官のお粗末な対応を嫌というほど見せつけられてきたからです。サリン事件で指名手配されていた平田信が、警察に自首するまでの顛末には、思わず笑ってしまった人も多いのではないでしょうか。電話で指名手配犯の平田信だと申し出たら、いたずらだと思って無視された。警察署の入り口が分からずウロウロし、已むなく大きな署なら受けてくれるだろうと思って丸の内署に出頭したなど、何だか虚しくなるようなことの連続でした。
台湾人留学生の殺人事件は、社会的にも大きな反響を呼んだ重大事件であるにもかかわらず、容疑者をみすみす死なせてしまう。一体警察は、日頃どのような訓練をしているのか、ボディチェックひとつ満足にできないで警察官が務まるのか、怒り心頭です。薬物検査というなら見落とす可能性もありうるでしょう。しかし、ナイフで殺したという犯人に対してのボディチェックなら、ナイフを隠し持っている可
能性のあることを前提にチェックをするのは当たり前のことです。それを見落としたというだけで、職務怠慢、二階級降格くらいには十分に値します。そのうえ、両側から抱えていた警察官は自殺を阻止できなかったというんですから、もう十分に懲戒解雇処分には値するはずです。余りにも警察の規律が緩み過ぎています。
おとなしすぎるマスコミ
加えて、マスコミが猛然と噛みつかないのが不思議でなりません。政治問題では、威勢よく噛みつくのに、警察の不祥事には急にほっかむりを決め込んでしまう。
本当は、その理由は分かっています。警察に楯ついたら、意地悪をされて必要な情報が取れなくなってしまう。だから正面切って警察権力には歯向かわないんです。だけど、マスコミを志望し、報道のプロを目指して入社した人間なら、「政治は批判するけど、警察は非難しない」なんて、プロのマスコミ人とは言えません。早々に報道の世界からは身を引いて頂きたい。それがマスコミ人としての矜持というものでしょう。