時事寸評 書評コーナー

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また起こるバスツアーの悲劇

また起こるバスツアーの悲劇

事故の陰には重層下請構造が

 高速バスの事故、本当に悲惨でしたね。こういう事故が起きると、必ず、マスコミでは「けしからん、安全がないがしろにされている。厳しく取り締まるべきだ。」とか言って怒ります。それを受けて、警察や監督官庁もここぞとばかり月光仮面のように居丈高になって、バス会社や運転手の自宅を家宅捜索したりします。日頃の怠慢なんておくびにも出さずに。
 私は、この事故が起きたとき、「この高速バスの運転手は、相当の過重労働を強いられていたんだろうな。多分、日雇いの運転手だったんじゃないのかな~」と直感的に思いました。というのは、今の日本では、口では法令順守(コンプライアンス)とか何とか綺麗ごとを云いますが、実態は、末端の労働者が一番割りを食っていることが多いからです。何か事故があると、必ず、元請、下請、孫請、彦請という重層構造が暴かれ、一番おいしいところを元請けが先取りしていたということが判明することが多いからです。

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 数年前、埼玉県で少女がプールの排水溝に引き込まれて亡くなったという事故がありました。管理者である市は元請けに任せっぱなし、元請会社は、一次下請会社に任せっぱなし。一次下請会社は二次下請会社に任せっぱなし。更に、二次下請け業者は三次下請け業者に任せっぱなし。要するに、実際の管理は、彦請けである三次下請け業者の会社が、学生アルバイトを使って管理をさせていたという事実が明らかになりました。元請けは記者会見をして、一応形ばかりお詫びはしますが、「なんで俺たちが責められるんだ。事故を起こしたのは下請けだろうが・・・」という悔しい想いが顔から滲み出ています。少なくとも私にはそう見えました。

原発事故も同じ

 原発事故のときだって、なぜ事故が起きたのか、当初、東電社員は実態をつかんでいませんでした。ですから菅総理も、東電に聞いても、事情が何も分かりませんでした。みんな日立や東芝といった元請けの原発企業に任せていたからです。枝野官房長官も、全く資料がないまま記者会見に臨まざるを得なかったという真実が、1年以上も経ってから明らかにされました。
 このような重層下請構造によって、多くの産業が運営されているというのが今の日本の実態だと言ってよいと思います。試しに、ヘルメットを被って建設現場で働いている労働者にこっそり聞いてみて下さい。「正直に答えてくれたら1万円あげます。あなたは本当にヘルメットに書いてある会社の社員ですか?」と。多分、本当の社員なんて半分もいない筈です。つまり、これは法律で禁止されている「もぐり」です。法律で一定の資格を有する「自社の!」技術者を現場に配置しなければいけないことになっているから、それらしい施工体制図を作って施主に提出しますが、実情は、下請の人間にヘルメットだけ被せ、現場を任せているだけなのです。日本は資格社会ですから、資格を持っている下請け企業に人間に一時的にヘルメットだけ被せ、元請け企業の社員を装わせることが多いのです。公共事業ですらこれですから、民間事業なら何をかいわんやです。そんな馬鹿な、と思う方がいるならば、私のこのホームページ内の「元原発監督員の手記」をご覧下さい。この手記は、福島原発事故が起きる前に書かれた、生々しい記録です。

 ツアーバスも、間違いなく重層下請構造の下、低賃金で運転手を雇用しているはずです。今回も、ツアー会社の下に元請けのバス会社が存在し、一次下請け、二次下請会社があり、事故を起こした運転手は、いわば三次下請けの日雇い労働者だったということです。

1人親方という摩訶不思議な制度

 こういう人のことを業界では「一人親方」なんていう言い方をします。「親方」なんて名前が付いていますが、決して親方ではありません。法の保護を受けない単なる日雇い労働者という意味です。本当はきちんとした雇用契約を結ぶべきなんですが、雇用関係になると、きちんと雇用契約を結ばなければいけません。そうすると、雇用保険やら社会保険やらをかけなければいけなくなります。それに労働基準法もずばり適用されます。労基法が適用されると、賃金の不払いや遅延が生じると労働基準監督署から厳しい指導もなされます。

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 こういった諸々の法規制や費用負担を免れる方法が、運転手を「一人親方」という体裁にして、「相互に対等な関係」として「運転の請負契約」をさせることなんです。勿論、対等なんてものではありません。多分、請負契約書もないはずです。実質は日雇いなんですから。現在の道路運送法では、このようなシステムは違法ですが、裏ではこのような違法な重層下請構造が蔓延しているとみて間違いありません。
 日本の法制度の建前、つまり契約自由の原則の立場に立てば、このような個人間の契約が直ちに違法となるわけではありません。また、そのような契約形態を望む一部の人達がいることも事実でしょう。しかし、このような契約自由の原則を悪用して、法の盲点をかいくぐる悪質な業者が後を絶たないというのも、また厳しい日本の現実です。そして、これからも今回と同じような事故が、今後も連綿として続くことになるでしょう。

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