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杭のデータ流用は全業者共通の問題です

杭のデータ流用は全業者共通の問題です

データ流用は多分全業者共通です

 横浜市のマンションで傾きが見つかったことから火がついた、杭データの流用問題。最初にマスコミで報道された瞬間から、これはこのマンションの現場代理人ひとりの問題ではなく、他の現場代理人にも広がり、最後は、全業者に共通の問題として広がるだろうと予想していました。
 なぜなら、私自身、ある程度建設業界というものを見てきた人間として、また、一時期、建設工事紛争の電話相談を担当した経験から、業界における「重層下請構造」や「下請負人のおかれた苦悩」というものの実態を知っているからです。

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 重層下請というのは、元請け業者の下に一次下請け、二次下請け、三次下請けというように、多層構造で業務が分散される作業構造のことを言います。建設業というのは、その業種が実に広く、大工、左官、とび・土工・コンクリート、屋根、電気、管、鋼構造、鉄筋工事など、工事の種別は28業種にも区分されています。
 しかも、それぞれの業種ごとに専門業者がおり、これらの専門業種の資格を複数取得しているのが普通です。今回問題になっている三井住友建設のようなスーパーゼネコンは、これらの専門業種の許可を個別に取得しているのではなく、土木一式工事、建築一式工事というように、すべての工事を一括して施工できる業種の資格を取得して工事を行っているわけです。
 つまり、元請けとして一括して工事を請け負い、さまざまな専門業種について許可をもった業者を下請として使っているのです。
 杭を打つ業者などは、元請けどころか、一次下請けになるようなことは少なく、三次あるいは四次下請けとして仕事をするのが一般的です。元請けとして工事を請け負ったスーパーゼネコンから見れば、下の方にいる業者なのです。つまり、元請会社の社員が、直接、杭を打つなんていうことはないということです。言い方を変えれば、元請け業者の社員は、下請業者にあれこれ指示することはできますが、直接、杭打ちの作業などできないのです。高齢のサラリーマンが再就職に際して、「私、部長はできます」と言うのと同じです。管理職としてあれこれ指図はできるが、実務は殆んど何もできないということです。

重層的な下請契約関係

 今回の重層下請構造は、販売業者が三井不動産レジデンシャル、元請け業者が三井住友建設、一次下請けが日立ハイテクノロジーズ、二次下請けが旭化成建材ということになっています。でも、このラインは、もっと下にも五次下請け、六次下請けの業者がぶら下がっていると考えるのが常識です。

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 しかも、これは杭打ち工事というものだけを前提とした重層下請構造だけですから、杭打ち工事以外の業種でも、さまざまな小規模企業が下請として関わっている筈です。末端まで行くと、「ひとり親方」と言われるような、ひとりで「社長兼小間使い」というような人間にまでたどり着く筈です。
 要するに、ひとつのビッグ工事を施工するためには、クリスマスツリーのように、元請け業者を頂点として、多くの業者が下請としてぶら下がっているのです。これが建設業というものの実態と言ってよいでしょう。例えば、福島原発の処理作業現場でも、発注者は日本最大級の東京電力であっても、現場で作業をしているのは、大阪のあいりん地区あたりで掻き集めてきた日雇い労務者に辿り着く。その構図と同じです。
 建前上は、下請業者は、自分が請け負った業務の範囲でのみ責任をもつ、ということになります。下請契約は、一次下請け業者と二次下請け業者、二次下請け業者と三次下請け業者というように、形式上、それぞれ個別に下請契約を結ぶということになります。もっとも、4次下請け、5次下請けというレベルになると、口約束で済ませ、きちんとした契約書すら取り交わさない、ということが非常に多いのが実情です。

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 このことから分かるように、契約上、旭化成建材は日立ハイテクノロジーズに対してのみ責任を負うということです。今回は、マスコミに大きく取り上げられたことで、この系統図にない三井不動産や旭化成といった親会社が登場しています。彼らは、本来は、契約当事者ではありませんから、法的には何ら責任を負う立場にはないのです。
 マスコミで大きな問題にならなければ、これらの親会社は表面には出てこなかった筈です。息子が不始末をしたというので、みのもんたが表に出てきてお詫びをしたのと同じです。通常は、サラリーマンの息子が会社の金を使い込んだからと言って、親が出てきて謝罪するなんてことはありません。それと同じ構図です。社会的問題としてクローズアップされたので、やむを得ず出てきたに過ぎないのです。

法的な責任は

 今回のようなケースにおいて、買主が責任を追及する場合は、売主である三井不動産レジデンシャルに対して行うということになります。「売主の瑕疵担保責任」を追及するということです。
 従来は、契約書の定めや民法の瑕疵担保責任の規定に基づいて責任を問うという仕組みになっていましたが、これでは消費者保護に欠けることが多くなります。消費者は、契約書の内容をきちんと読まないことが多いですし、業者側は、読まないのをいいことに業者側に都合のいいように契約文書を「定型文言」だと言って押しつけてしまうからです。

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 そこで、平成11年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(略して、品確法)が制定され、「構造耐力上主要な部分」と「雨漏り」に関する瑕疵(キズのこと)については、特例規定が設けられたのです。請負契約の場合も、売買契約の場合も、これらの不具合が生じた場合、10年間は瑕疵担保の責任を負うこととされたのです。
 これに違反する場合、施主又は買主に不利な契約は無効とされていますから、今回のような売買契約の場合、10年間は、当然、売主である三井不動産レジデンシャルは、売主としてその責任を負うということになります。
 旭化成建材の責任は、形式上、日立ハイテクノロジーズに対して負うということになりますが、実際は、関係者が協議し、その責任割合を定めるということになるでしょう。損害賠償など買主への金銭の支払いは、直接、契約関係に立つ三井不動産レジデンシャルが支払いますが、請負者側の内部関係として、実質的な負担は旭化成建材が負うということになるでしょう。その場合でも、お金の流れとしては、旭化成建材が直接三井住友建設に支払うことはないでしょう。直接の契約関係がないからです。直接支払うとすれば、損害賠償金という名目になるのではないでしょうか。

他のマンションにもあるのか

 問題は、このような杭のデータ改ざんが他のマンションなどでもあるのか、という点です。これは端的に言って、もっとひどい事例はいくらでもある、と断言して間違いないと思います。

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 なぜならば、旭化成という企業は、建設業の分野では、比較的優良な企業で、これまでに大きな施工ミスなどを生じることはなかったからです。先の鬼怒川の堤防決壊時に、直下にあった住宅のうち、流されずに残った住宅もへーベルハウスであったことでも知られています。この優良会社でさえ、この程度の管理体制であったということは、他社の管理体制は推して知るべし、ということです。
 でも、だからと言って、あまり神経質になる必要はないと思います。これまで高層マンションにおいて、今回のような傾きが露見したのは稀有な例です。稀有な例だからこそ、ニュースになったのです。別の言い方をすれば、他のマンションでは、特段、支障を生じていないということです。マンションの傾きは物理現象ですから、ある程度の傾きが生じれば分かります。また、杭が1本や2本、堅い支持層に到達していなくても、目に見える障害が生じない、ということも多い筈です。過度に神経質になる必要はないのです。
 もちろん、具体的に何らかの事象が生じているならば、きちんと再調査などはすべきでしょう。

再発防止のためには

 再発防止のために、急にこのような業界の重層下請関係を改めろと言っても、出来ることではありません。次善の策は、どのようなシステムにすれば、データの流用などができないようにするかです。
 今は殆んどのデータがコンピュータで管理されています。このような杭打ち工事の現場でも「専用ソフト」が使われることが多くなったようです。従って、今後は、データの差し替えができないような専用のソフトを開発し、その使用を徹底するなど、今の時代に合った手法により、再発防止を図っていくというのが、一番合理的な方法なのではないでしょうか。

マンション購入を考えている方へ

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 これからマンションを購入しようとする人にお勧めなのは、中古マンションではないでしょうか。なぜなら、中古マンションは、年月の経過によっても特段の支障を生じていないということが証明されているからです。仮に、建設時の杭のデータに流用があったところで、現実に支障が生じていないんですから、目くじらを立てる必要もないのです。
 しかも、中古マンションは、ロケーションのいいところに建っていることが多く、しかも割安の物件が多いものです。人口の高齢化に伴い、空き家になるケースが多く、価格的にも割安になっている物件が多いからです。
 マンション購入の希望者は、どうしても新築物件に目が行き、中古物件は後回しにされ勝です。それが盲点です。安心して住むならば、傾きなどの心配がなく、地理的にも便利な中古マンションはかなり狙い目だと思いますよ。

蛇足ですが

 旭化成だけでなく、三井住友建設も立派な企業なんです。例えば、同社がカンボジアで建設したネアックルン橋(つばさ橋)。この橋は今年平成27年1月に完成した橋ですが、カンボジア国内の主要幹線道路である国道1号線が大河メコン川を跨ぐ橋として建設されたものです。従来はフェリーでしか渡河できなかった道路が、

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この橋により繋がったのです。大幅な時間短縮が図られ、カンボジア国内の物流の活性化に、大きく役立つものと期待されているんです。
 この橋の完成を記念し、同橋が描かれたカンボジアの新500リエル紙幣(約15円)が発行されるなど、日本とカンボジアの友好のシンボルになると期待されているんです。
 しかも、この紙幣には、日本に感謝の意を表し、何と日本の国旗まで印刷されているんです。日本のマスコミだけを見ていると、悪いことばかりが強調されますが、このような国際貢献もしている立派な企業であるということも、押さえておいてもよいのではないでしょうか。



後日記

 この記事を書いたあと、今日(H27・12・25)辛坊治郎さんのメルマガを読んでいたら、次のようなことが分かりました。辛坊さんのような有名人のところには、さまざまな情報が届くでしょうから、何が真実で何が虚偽なのか分からないことが多いでしょうが、このメルマガは、信じても良さそうに思います。
 このメルマガは有料ですが、裏情報として、ホントのことを教えてくれるので、愛読しているんです。

辛坊治郎さんのメルマガより
 このニュース報道が始まった当時、真っ先にやり玉に挙げられたのはくい打ち工事を担当した旭化成建材でした。そりゃ確かに、長さの足りない杭を打った上にデータを偽装し、杭が堅固な地層に到達していたように偽ったのは悪いですよ。でもね、今思えば、下請けの旭化成建材に全責任を押し付けて、あたかも自らが被害者であるかのように装った三井不動産の責任が最も重かったのは明らかです。だって、あの場所に14メートルの杭を打つように旭化成建材に指示したのは三井不動産だったんです。

くい打ち工事に当たって、下請け業者はあくまでも仕事の発注者の指示の下で工事をする権限しかありません。で、あのマンションを設計して、地盤強化のために打つ杭の長さを決めたのは三井不動産で、旭化成建材は三井不動産の指定した長さの杭を打っただけですからね。それもタチが悪いのは、あのマンションの建設場所って、元々どこかの工場が建っていたらしいですが、その工場建設の時に使われていた杭の長さは18メートルだったって三井不動産は知っていながら、「14メートルで足りるだろう」って根拠なく決めていたんです。杭の長さ一つで建設コストが変わりますから、短い杭を指定したのは、工期短縮とコスト削減のためでしょう。

仕事の発注元が「現場の地盤を調べて設計したから14メートルの杭を使うように」って指示してきた時、どうでしょう、仕事をもらっている下請けが断れますかねえ。そりゃ職業倫理としては、「14メートルの杭では堅固な地層に届きません。もっと長い杭を使わせてください。」って言うのが正解です。でも工期とコスト管理を厳命されている下請けが、親会社にそんなことを言い出した時に考えられる反応を想像した時、「全部の杭が利いてない訳じゃないから、データ改ざんでごまかして穏便に済まそう」ってなるのは、仕方ないとは言いませんが、あり得る話ですよね。等々、現場で起きていたことを知ると、ホントに悪いのは杭打ちデータを偽装した旭化成建材じゃなくて、旭化成建材に短い杭を打つように指示した三井不動産だったんです。

これらの事実はその後の報道を丹念に追っかけている人にとっては常識のレベルでしょうが、当時の嵐のような報道しか記憶にない人の多くは、「杭打ちデータを偽装した旭化成建材が悪い。下請け業者にデータを改ざんされ、不十分な工事をされた三井不動産は被害者」って思っている筈です。理不尽ですよねえ。

今だから言いますが、この問題が発覚してすぐに、「杭打ち業者は、親会社が運んでくる杭を打つだけの仕事だから、下請けには責任は無い。」と記した手紙を、私、受け取ってるんです。ただ手紙の差出人が匿名だったのと、決して下請けに全く責任が無い訳じゃないですから、オンエアでは取り上げなかったんですが、結果的にこの指摘は概ね正しかったんですよね。私、ちょっと不明を恥じています。

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