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オバマ大統領の核先制不使用宣言は愚策です

オバマ大統領の核先制不使用宣言は愚策です

安倍総理の懸念表明は当然

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 アメリカのワシントンポスト紙が、今秋に大統領を退くオバマ大統領が核の先制不使用を宣言することを検討している、と報じました。同紙のジョージ・ロージン評論員が匿名の消息筋からの情報として報じたものです。これに対して、安倍総理から「懸念」を表明したとのことですから、かなり角度の高い情報なのでしょう。
 私は安倍総理の懸念表明は当然だと思います。なぜならば、今の国際情勢の下で、「世界の警察官」である米国が、核の先制不使用宣言をすることは、今の不安定な国際情勢を、より一層不安定化させるものだと考えるからです。

喜ぶのは中国、北朝鮮

 アメリカの核先制不使用宣言によって一番喜ぶのは誰でしょう。それは中国であり、北朝鮮です。ロシアも歓迎でしょう。

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 世界の無法国家、中国や北朝鮮が喜ぶということは、これらの国によって脅威を受けている国家、つまり日本や東南アジアの国々は喜ばない、ということです。なぜ今の時点で、中国や北朝鮮が喜ぶような宣言をする必要があるのでしょうか。
 そもそも現在の国際情勢は、いたるところで不安定化の度合いが増しています。イラン、イラク、シリア、トルコ、サウジアラビアなど、中東情勢は混沌としており、難民としてさまよう人々も増加しています。ISIS(イスラム国)によるテロ活動も、収まる気配は全くありません。加えてロシアによるクリミア半島占領など、力による実効支配も世界の不安定要因になっています。
 また、力の信奉者である中国の横暴も、目に余るものがあります。南シナ海や東シナ海における暴虐無人な海洋進出。北朝鮮による核開発とミサイル開発も、もうどうにも止まらないレベルまで進んでしまっています。

アメリカの弱体化が世界不安定の原因

 このような世界の混乱はなぜ生じているのでしょうか。その大きな要因の一つがアメリカの弱体化にある、と言わざるを得ません。これまでは、軍事的にも経済的にも、世界の警察官であるアメリカの力が圧倒的でした。米ソの冷戦も、ソ連の自壊によって幕を閉じました。アメリカの圧倒的な力によって、樽のタガがしっかりと締められていたのです。世界のどこかで紛争が生じても、アメリカが乗り出すことによって、ほぼ解決されてきたのです。核を含む突出した軍事力と経済力を背景にしたアメリカの力は圧倒的だったのです。
 しかし、オバマ政権になって既に7年、世界の混迷は深まるばかりです。オバマ大統領は「核なき世界」に向けた国際社会への働きかけによって、ノーベル平和賞を受賞しましたが、皮肉にも世界情勢は、平和とは逆の方向に進んでいるような気がします。

核なき社会は超理想論

 ノーベル平和賞に酔い痺れたのでしょうか。オバマ大統領は、退任間際になって、今度は「核先制不使用宣言」を出そうというんですから驚きです。前述したように、喜ぶのは北朝鮮や中国など、無法国家ばかりだということを理解しているのでしょうか。
 そもそも核兵器はいったん開発されてしまった以上、地球がなくならない限り、地上から消滅することはありません。人間とはそれほどに愚かな存在なのです。核兵器は実際に使用できる武器ではありませんが、「持っている」というだけで、確固たる力の源泉になるのです。如何に大国といえども、最終的に弱小国から核攻撃を受けたらすべて終わりです。

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 今の北朝鮮の立場を考えれば明らかです。現在の能力では原子力潜水艦に核装備をするレベルまでは達していないと見られますが、近い将来、その能力も備わってくるでしょう。
 その段階になれば、もはやアメリカといえども、北朝鮮には絶対に手出しができません。最終報復をうけたら、いかなアメリカといえども破滅的な被害をこうむるからです。核兵器というものはそういう性質のものなのです。それが「核抑止力」なのです。
 このように核兵器は後ろにしまっておくべきもので、使うことはできませんが、暗黙裡に絶大な力を持っています。中国がこれほどまでに傲慢不遜に振る舞うことができるのも、共産党一党による独裁国家という特殊性もありますが、その背景に「核」という隠し玉を持っており、そのことを世界が十分に知っているからです。
 ですから、北朝鮮の金正恩がどのように非難を受けようと、体制維持のためには、核を手放さず、より一層その能力を高めようとしているのは、彼の立場から見れば当然なのです。核を持たず、経済の疲弊した北朝鮮など、赤子の手を捻るも同然の劣等国家です。

不使用宣言などすべきものではない

 このように、核兵器というものは「使えない兵器」ではありますが、強大な力の源泉になるものなのです。ですからこれを「使う」とか「使わない」とか、「先には使わない」などと宣言すべき性質のものではないのです。
 嘗て、先制不使用宣言をした国が二つあります。中国とソ連です。しかし、中国が先制不使用宣言をしたからといって、安心する国は皆無でしょう。国民の自由な言論を封じ、国際司法裁判所の判決を「ゴミ屑だ」と公言してはばからない国。日本の大使館ばかりか多くの日本企業に対して暴虐の限りを尽くし、一切の補償もしない野蛮な国家。このような国の宣言を誰が信じるというのでしょうか。
 またソ連もゴルバチョフの時代に宣言しましたが、これは、アメリカとの核開発競争に敗れ、経済的にも疲弊したことから、ペレストロイカによって、国を建て直す必要に迫られた末に宣言したものでした。つまり、経済力を回復するまで「一時休戦」をしたに過ぎないのです。その後を継いだプーチンやメドベージェフは、一切このことに触れようとはしていません。それどころか、プーチン大統領はウクライナとの国境付近での衝突の際、「核兵器の準備をしろ」なんて物騒な発言さえしたことが伝えられました。
 このように全体主義国家においては、基本的に政策は一代限りです。大統領が変わったら、基本的な政策はご破算です。ご破算の宣言すらもしないのです。

政権末期の症状

 それにしてもオバマ大統領といえ、バイデン副大統領といえ、政権末期の正副大統領のレベルの低さ、能力の低下は目を覆うばかりです。数日前、バイデン副大統領は、「日本の憲法はアメリカが作った」と発言しました。これについては、既に別の欄でも論評しましたので、ここでは触れません。

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 オバマ大統領も、ノーベル平和賞がよほど嬉しかったのか、世界一の大国の指導者としての素養が欠如しています。悲しいことですが、人類がこの世に誕生して以来、私たちの社会、いや世界は、常に力関係で動いてきました。弱い人間、弱い地域、弱い国は、常に力の強い者からの攻撃に晒されてきました。
 アメリカという国でさえ、最初は、コロンブスの新大陸の発見から始まり、清教徒たちがアメリカ大陸を西へ西へと進み、その過程で1億人もの「インディアン」や「インディオ」を大虐殺して建国した歴史を持っているのです。(1億人という数字の根拠については、1992年、オックスフォード大学出版局刊、D・スタナード著「アメリカン・ホロコースト」参照)
 現在のように、民主主義国家が支配的になった時代でも、世界は、常に、力関係を軸にして動いています。日本国憲法はその前文で「日本国民は・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と定めています。しかし、隣国北朝鮮は、国連の決議などどこ吹く風、日本の国民を拉致し、国家主席がその事実を認めているというのに、言を左右にして人質を返そうとはしません。それどころか、しきりに核兵器を開発し、弾道ミサイルを盛んに発射し、日本の領海内にさえ撃ち込んできます。
 中国だって、自分が欲しいとなったら、勝手に線を引き南シナ海全体が俺のものだと主張し、国際司法裁判所の判決さえ、「そんなもの紙屑だ」と公言して憚りません。尖閣諸島も、ある日突然「俺のものだ」と言い始めたと思ったら、すぐに「国の革新的利益」と宣い、あからさまな侵略行為を行ってきます。そんなゴロツキ・ヤクザのような国が、国連の常任理事国なんです。自国に都合の悪いことはすべて「拒否権」が発動できるというんですから、たまったものではありません。

憲法前文は現実離れの理想論

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 日本国憲法に定める「平和を愛する諸国民」とは、一体、どこにいるというのでしょうか。「公正と信義」はどこにあるというのでしょうか。日本の近場ですらこの状態ですから、世界では同様の理不尽な行為によって苦しみ喘ぐ多くの民がいます。
 大量破壊兵器があると称して一方的にイラクに侵攻し、多くの人々が犠牲になりました。しかし、大量破壊兵器は一つもありませんでした。それなのに、侵略されたイラクのフセイン大統領は死刑に処され、言いがかりをつけて侵攻したブッシュ大統領はじめアメリカ側の人間は、誰一人罪に問われませんでした。
 そういう国際情勢の背景にあるものは何か。それは、すべて「力」。軍事力・経済力を背景にした「力関係」に集約されるのです。
 それなのに、オバマ大統領は、核の先制不使用宣言をしようというんですから、まさに「平和ボケここに極まれり」と言っても過言ではないでしょう。このような宣言をすることによって、中国や北朝鮮をどれほど力づけるか分かりません。まさに利敵行為そのものなのです。安倍総理が懸念を表明したのは当然です。友人としては、懸念ではなく、明確に「異議」を申し立てるべきケースです。



<後日記>

 新聞報道によれば、ベン・ローズ米大統領副補佐官が9月6日、オバマ政権が核兵器の「先制不使用宣言」を採用しない方針であることを明らかにしたと報じました。
 米誌ニューヨークタイムズ紙も同じ6日、複数の米政府高官の話として、オバマ氏が先制不使用宣言の採用を諦めたようだと伝えたとのことです。
先ずは、何よりというべきでしょう。(後日記のみH28・9.8記)
 

 
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