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何か変だよ電通過労死事件

何か変だよ電通過労死事件

かなりの違和感を覚える [#cc80386c]

 12月28日、厚生労働省東京労働局が労働基準法違反の疑いで、法人としての電通と過労自殺した女性新入社員の当時の上司を書類送検した、というニュースが流れました。そして、同日夕方に、石井直社長が一連の責任をとって、来年1月の取締役会で辞任するとの意向を表明しました。
 この事件は、新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)が、昨年(平成27年)12月、過労自殺したことについて三田労働基準監督署が今年9月に労災認定していたというものです。うつ病を発症する前の1か月間の残業時間は105時間になり、その前の月の約40時間から2倍以上になっていたというものです。

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 私は、最初、この事件のニュースを聞いたとき、かなりの違和感を覚えました。なぜなら亡くなった彼女は東大卒の才媛、職場は人も羨む電通です。当然、仕事もきついだろうけど、給料も高い。電通は平均年収で1,200万円を超えています。死ぬほど苦しいなら、自殺する前にやめればよかったのに、と誰でも思いませんか?今は人手不足の時代です。東大卒、前職が電通、しかも写真で拝見する限りかなりの美形です。再就職先なんていくらでもあります。それなのになぜ、という疑問が生じるのは当然です。

過労死事件はいくらでもある

 過労死事件は年間どれくらいあるのでしょうか。厚生労働省の「過労死等に係る統計資料」によれば、平成25年で2,323件だそうです。毎日6人以上の労働者が過労死を原因として亡くなっているというのです。もちろんこの中には、中小企業の経営者なども含まれているでしょうから、被雇用の労働者ばかりではありませんが、少なくともこの数字の半数以上が被雇用者とみてもよいのではないでしょうか。つまり毎日3人以上の被雇用者がなくなっているというのに、東大卒で天下の大企業電通で過労死したからと言って、なぜこうも大騒ぎするのでしょうか。

残業105時間は稀にはあるのでは

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 彼女はうつ病を発症し、亡くなる前の1か月間の残業時間は105時間に達していたそうです。1か月30日で割ると、平均3.5時間という計算になります。私も現役時代、中央官庁で勤務していた経験があります。もちろん、月に100時間を超える残業をしたことも時々あります。こういう月は、土曜も日曜日も出勤していました。確かにきつかったことは確かです。
 でも、毎月ではありません。勤務にも繁閑がありますから、その他の月は、30~40時間くらいに減少していました。中央官庁では国会開会中は、質問取りと言って翌日の国会の委員会での質問を前日にとり、その内容に応じて、各課に割り振りするまで帰れないんですね。毎日夜9時、10時くらいまで待機させられるのは普通でした。1日4時間から5時間程度の残業ということでしょうか。質問が自分の課のものだとなれば、12時くらいまでかかるのは覚悟でした。質問が出れば帰りのタクシー代も支給されました。国会開会中は、60時間から100時間の残業は当たり前だったと記憶しています。
 また、政府提案の新規立法をするようなときは、月100時間超は当たり前になります。既存の法律を改正する場合でも、改正のボリュームにもよりますが、100時間前後は普通じゃないでしょうか。
 このように、それぞれ仕事の内容に応じて事情は異なりますが、いくら電通でも、1年中、毎月100時間超ということはないはずです。それがあるとすれば、完全にブラック企業です。
 現に、高橋まつりさんも、105時間の前の月は40時間だったそうですから、毎月100時間超レベルの超過勤務ではなかったはずです。

退職の自由もあったはず

 彼女が慣れない職場で、40時間から100時間程度の超過勤務をしていたとしても、私の経験からして、死ぬほど過酷なものとは思いません。百歩譲って、死ぬほどに過酷な労働と感じたのなら、なぜ転職しなかったのでしょうか。死に勝る苦しみがないとするなら、転職の苦労はそれほどのものではない筈です。なぜなら、彼女は何といっても東大卒というブランドがあります。前職が電通ということなら職歴としても問題ありません。
 しかも、今は労働者不足の時代です。再就職しようとすればいくらでもできたはずです。なぜ死を選ばなければいけなかったのでしょう。

職場で一番大事なものは雰囲気

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 私自身、40年以上サラリーマン生活をした経験から言えることは、「職場で一番大事なことは雰囲気」です。雰囲気とは、職場全体の醸し出す雰囲気、居心地のことです。会社の建物や食堂などの福利厚生施設も含まれますが、最大の要素は上司や同僚です。職場の上司や同僚とのコミュニケーションが円滑にでき、和気あいあいとした雰囲気があれば、勤務時間など少々長かろうがあまり関係ないんです。疲れ方も全く違うんです。
 職場というのは、不思議なもので、必ず相性の悪い上司や同僚がいたりするものです。「必ずいる」と断言できます。特に、上司にウマが合わない人が来ると、「毎日ため息」という状態になります。でも公務員の場合は通常2年から3年でどちらかが異動しますから、耐えるのは平均1年から最長2年で済みます。電通も似たようなものでしょう。ここを乗り越えられるかどうかが分岐点になります。高橋まつりさんは若くて経験が少ない分、ここを乗り越えられなかった可能性が高いと思います。うつ病の原因は、人間関係に由来するものが多いと思うからです。勝手な想像ですが、東大コンプレックスをもつ上司に当たり、不当ないじめ、つまりパワハラにあったなんてこともないとは言えないでしょう。

電通への見せしめだったのか

 いずれにしろ、過労死は全国でいくらでもあり、もっと過酷な環境でしかも低賃金で働いている労働者が沢山いるというのに、東大卒、憧れの電通マンが過労死したからといって、社会(少なくともマスコミ)が大騒ぎする理由は何なのでしょうか。私には、そのことに大きな違和感を感じているのです。

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 12月29日、東京労働局の樋口雄一監督課長が、記者会見で東京地検に書類送検した理由として、次の二つを挙げていました。
 ① 過重労働による自殺という結果の重大性
 ② 社会の注目度の高さ
 これって何だか変だと思いませんか。過重労働による自殺は、年間2千件以上もあるんですよ。今更、「結果の重大性」でもないでしょう。それを言うなら、雀の涙ほどのお金で働いている中小企業の労働者の過労死の方が、よほど結果が重大で、より強い保護に値するはずです。
 2番目の「社会の注目度の高さ」というのも変です。社会が注目している案件は厳しくする、というのと同じです。これでは韓国の司法当局のような大衆迎合主義と同じではありませんか。つまり、書類送検の理由が、二つとも納得できないのです。
 私は、この自殺の件を多くの過労死事件の一つと考えていましたから、全く注目していませんでした。しかし、必要以上にマスコミが食いつき、東京労働局も嵩にかかってあちこち強制捜査などしているので、なぜだろうと不思議に思って見ていたんです。しかも、東京労働局は、組織的な違法労働が常態化しているとみて、全容解明を目指し、越年して操作を継続する、というんです。えらい張り切りようです。何だか暴力団の組織犯罪を捜査するかのような表現です。

36協定なんて訓示的なもの

 労働基準法では勤労者の労働時間を原則1日8時間、週40時間までと定めています。しかし、労使協定を結べばそれを延長し、実質的に無制限で残業を課すことができるということになっています。この協定が「36(サブロク)協定」(労基法36条ということ)と言われるものです。
 協定を結ぶことによって残業時間が無制限になっては困るというので、厚労省は基準で「1月45時間まで」の範囲で定めなければならないとしています。45時間なんて、土日を除く平日の日数で均分すれば2.2時間程度にすぎません。
 これ以上の残業が認められないというなら、多くの企業は業務が停滞してしまうでしょう。官庁だって同じです。通常残業省と言われる経済産業省や財務省あたりは、即刻、労基法違反で処罰の対象になります。暇な旧労働省でさえこれを順守するのは難しいはずです。現在の厚労省もほぼ100%労基法違反をしているはずです。民間企業を厳しく取り締まるというなら、まず率先中央官庁を根こそぎ取り締まるべきです。それをしないのは、「強い相手は取り締まらない」ということです。つまり、弱い者いじめです。電通は大物だけれど民間企業。ここをいじめても多くの大衆は快哉を叫ぶだけで文句は言わない、そこが狙い目だったのです。

サービス残業はどこの職場でも

 このように労基法は職場の実態を踏まえたものではないため、実際には守られないことが多いのです。高速道路の80キロ制限と同じで、殆どの人が守らないんです。でも捕まえようと思えば、捕まえられる。嫌な法律です。実際の残業時間と記録された残業時間が異なる、いわゆるサービス残業が生じる理由はここにあります。

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 中央官庁でも、「残業予算がないから」との一言で、総務係長あたりから「今月は1人12時間まで」というお達しがあります。実際には100時間残業しても「12時間」と素直に記載するんです。もちろん文書でなんか言いません。証拠が残るからです。今はどうなっているか分かりませんが、出勤簿は月の終わりに1か月分をまとめて記帳するから可能だったんです。誰も一言も文句など言いません。役所は予算で動いているから当然だと知っているんです。
 つまり、超過勤務時間なんて、法を守るべき役所ですらどこも守っていないんです。確かに記録を調べれば、「12時間」分の記載しかありませんから、外見上、法律違反などどこにもないことになりますが、実態は全く違います。これは民間だって似たようなものでしょう。労基法上一応定められているから、外見上、順守したような体裁だけは整える。防災訓練と同じです。役所がやれというから仕方なく、各課に人数を割り振る。「君、暇そうだから」とは言いませんが、指名された者がテレンコテレンコとついていくだけです。
 正義の味方月光仮面のような顔をして強制捜査をしている厚労省の役人だって、本当はほぼ全員が脱法行為をしているのです。だから、電通の建物に入っていく姿など見ると、私は思わず笑ってしまうんです。

電通事件のみ騒ぐ異常さ

 このように、電通の新入女性の過労死が大々的に報じられる理由には、何か裏があるような気がしてなりません。
 電通の業務内容は、一言で言えば広告代理店ですが、具体的に見るとマーケティングデザイン、コミュニケーションデザイン 、クリエーティブ、プロモーション 、デジタル/ソーシャルメディア 、データ・ソリューション 、メディア・コンテンツ、ソーシャル・ソリューション と、やたらカタカナ文字の業務内容が並んでいます。そっとブルコメのブルーシャトーなんて入れておいても分からないくらいです。
 テレビで見る有名企業のコマーシャルなんて、その多くが電通の制作だと思って間違いないでしょう(多分)。こういう企業イメージを創造する広告媒体の企業ですから、敵に回したら怖いと思います。逆に言えば、本当は電通に文句を言いたいが、怖くて言えない、という人が多いのかもしれません。

本当は旧労働省の存続のため?

 現在の厚労省に合体する前に労働省という役所がありました。文部省と同じく、あってもなくてもいいような役所でした。民間企業の作業時間についてあれこれ注文をつける組織ですから、民間からすれば銀ばえのようにうるさくて邪魔なだけの存在です。
 厚生省と合併されて、より一層存在感がなくなりました。このため、本件のように、時々は「形式犯」を捕まえて労働省ここにありをアピールするために、電通が血祭りに挙げられた可能性もあります。中小企業の違反を取り上げても、弱い者いじめをしているようで共感が得られないからです。形式犯なら、大企業が一番。それも超有名企業ほどよい。マスコミが騒いでくれるからです。
 前述したように、長時間労働による過労死なんていくらでもあるんです。電通位の大企業なら、役所から言われなくても、社員の時間管理くらい自社でやれます。内心は「勝手にやらせてくれよ」という気持ちでしょう。長時間労働で自殺者が多数出るようなら、ブラック企業として、就職先として人気がなくなります。そのため、企業として何らかの対策を講じるはずです。振り子のようなもので、行き過ぎがあれば自動的に修正する作用が働くんです。
 それに今は、ネットの時代です。学生だって馬鹿ではありません。単に年収の高低だけが職業選択の指標ではありません。福利厚生や諸々の勤務条件、会社の雰囲気など、さまざまな情報を分析したうえで、就職先の選定をしているんです。亡くなった高橋さんも、就職前に、先輩たちから生の声を聴いたり、ネットで調べたりしたはずです。だから仕事はかなりハードだ、ということは情報として持っていたはずです。そのうえ辞める自由さえもあったんです。

大企業には不要の就業規則

 前述したように、私は、今回問題となった労働時間に関する縛りは、大企業には不要だと思っています。大企業は、多くの労働者を雇用する立場から、他の企業と熾烈な競争を行っています。競争に勝ち抜くためには、優秀な人材が必要です。優秀な人材を獲得するためには、その人材が入社したいと思うような労働条件を提示する必要があります。その条件は、給料の高さであったり、勤務時間の短さだったり、休暇の多さだったり、福利厚生施設の充実ぶりだったり、さまざまな要素があります。
 その要素は、各社それぞれ異なっていいんです。ところが、労基法は就業規則を定めよ、その就業規則には、労働時間や給料・休憩時間・休暇など、さまざまな内容を事細かに定めておかなければならない、とされています。こんなもの、大企業であれば、自分で作ります。法律で細かなところまで定めて強制する必要などないんです。ましてや取り締まりだなんて、もってのほかです。

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 ただ、中小企業で働く労働者の場合は、ある程度法律による保護も必要でしょう。低賃金で就業規則もないまま、過酷な労働を強いられのは気の毒だからです。でもこの中小企業でさえ、過酷な労働を強制していたら、たちまち労働者は逃げてしまいます。従って、自浄作用として、中小企業の労働条件も改善されていきます。改善されるのは法律があるからではないんです。そうしなければ小さな会社は潰れてしまうからです。
 日本は、企業の自由な経済活動によって成長してきた国です。昔は、マルクスに代表されるように、資本家と労働者という対立構造があることが前提で、「資本家は常に労働者を搾取する存在である」と位置付けられていました。
 しかし、今は、大企業の労働条件もネットで閲覧できる時代になりました。勤務時間まで役所が管理してやらなければいけない、なんていう発想がそもそも時代遅れです。大企業レベルになれば、そんなもの自分で作ります。それを具体的に示せなければ、優秀な人材が集まらないからです。
 役所がやるべきことは、約束して公表したにも関わらず、それを守らなかった場合にペナルティを課すこと、それができればいいんです。尤もその機能は既存の司法でも可能ですから、労働省である必要はありません。
 こうしてみてくると、今回の一連の騒動は、旧労働省の職員が職場の存続のため、「労働局も一応仕事をしてるんだよ!」ということをアピールするための活動だったとみることもできます。何となく全体像が見えてきましたね。皆さんはどう思いますか。
 お役所のことですから、これを機に、新たに「監視をするための組織」を作るかもしれません。多分予算も増やすことでしょうね。ゴキブリと同じで、役所は、ちょっと目を離すといつの間にか丸々と太ってしまうんです。よく見張っていましょうね。

 

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