時事寸評 書評コーナー

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子育て国債の発行で日本は大きく変わります

子育て国債の発行で日本は大きく変わります

将来不安に押し潰される日本

 今の日本経済は、少しは明るい兆しも見えるとはいえ、全体的にみればまだまだ景気の回復は明るさを見せていません。消費者の財布のひもは依然として固く閉じたままなのです。

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 その一方で、個人が持つ金融資産は増えており、日銀の統計によると平成28年9月末現在で前年比0.6%増の1,752兆円に達しているというのです。しかも、これらの個人金融資産のうち、いわゆるタンス預金と言われるものは78兆円あるというんです。タンス預金というのは、文字通り銀行にすら預けず、自宅で現金を持っているという状態です。
 なぜこのようなことになるのか。低金利が続いたうえ、日銀のマイナス金利の導入などの影響から、定期預金は僅かな金利しか見込めない。貯蓄性の高い金融商品も相次いで販売停止となり、個人の手元資金の行き先がなくなってしまったからです。そのうえ、将来の年金や社会保障制度への不安から、それらの現金を思い切って使う気にもなれない。そういった閉塞状態にあるのが今の日本の現状と言ってもよいでしょう。

子育て国債の発行で大転換を

 私は、既にこのコーナーで主張してきたことではありますが、重要なことなので、再度、ここで繰り返し主張させていただきます。子供の養育費(ゼロ歳児から幼稚園入園までの費用)と教育費(幼稚園や小中高校大学の費用と学習塾などの費用)を賄うため、新たにこれに特化した「教育国債」または「子育て国債」を発行していただきたい。
 言ってしまえば、これだけのことです。ただ、養育費、教育費は膨大なため、財務省がきっと目を剥くでしょう。収支のバランスを重視する財務省は、条件反射的に「プライマリーバランスを毀損する」とか、できない理由をワンサカ並べるはずです。
 しかし、そうではないのです。養育費、教育費は、投資、つまり将来への投資なのです。投資というのは、企業の投資を例に考えれば理解が早いでしょう。企業が新たに工場を建設しようとすれば、資金を調達し、用地を買収し、工場を建設します。新工場ですから新たに生産設備を備えなければなりません。従業員も募集しなければなりません。工場が稼働するまでに4,5年はかかるかもしれません。この4,5年間、収入はゼロで支出あるのみです。しかし、工場が稼働し始めれば、利益を生み出し、銀行への返済は十分に可能になります。しかもお金はグルグル回っている状態です。誰かが借り入れをしなければ、お金は回らないからです。経済が発展するためには、お金を回すことが一番大切なことなのです。

教育は長期投資です

 古来より、「子は国の宝」でした。特に最近は、そのことが強く意識されるようになりました。しかし、今の世の中、子どもは本当に「国の宝」としての扱いを受けているでしょうか。親に資力がなかったら、満足に子供に教育を受けさせることもできない、そんな時代でもあります。「貧困の連鎖」とも表現されています。「子は国の宝」などと言いながら、貧困の連鎖が続いているのです。それが現実です。子供を産み、育てるのは大変な時代なのです。だからこそ「一人っ子」が多いんです。
 投資には長期投資と短期投資があります。工場建設なら5,6年単位で可能だとしても、新幹線やリニア新幹線なら20年、30年単位での長期投資が必要になります。東京と横浜だけを新幹線で結んでもほとんど意味がありません。東京と大阪を結ぶから意味があるのです。そのためには多くの時間と費用がかかります。それだけの長期間の投資をしても、回収できる目算があるから投資をするのです。
 教育投資も全く同じです。養育費、教育費に国がお金を投資して、すべての子供を安心して育てられる環境ができれば、教育格差による負の連鎖も生じなくなります。こうして国の責任できちんと教育して、社会に送り出せば、立派な社会人となって、優良な納税者となって国に返してくれるのです。リニア新幹線とどこが異なるというのでしょう。
 満足な教育も施さず、世の中をすねて僻んで社会を呪い、あげく生活保護に頼るような生活者を激増させたら何にもならないではありませんか。そんな社会ではなく、自分を育ててくれた国に感謝できるような生活者を一人でも多く作る、それが為政者の仕事ではないでしょうか。このような長期投資が無駄なのでしょうか。

養育費、教育費にどれくらいかかるのか

 そもそも今の子育て世代の親には、どのくらいのお金がかかっているのか考えてみましょう。文部科学省が発表した「子どもの学習費調査(平成24年度)」によれば、ひとりの子どもにかかる教育費(学校教育費、給食費、塾や参考書代など含む)は、幼稚園から高校まで公立の場合で約504万円ほどかかるとのことです。

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 また、日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査結果(平成26年度)」によれば、大学生の教育費総額は、国立大学(4年間)で511万円ほどかかるとのことです。
 つまり、高校まですべて公立、大学は国立の場合で教育費は1,015万円ほどかかるということです。さまざまな進路パターンがありますが、仮に幼稚園から大学まで私立で、大学は私立理系(4年間)の場合ですと、約2,465万円にもなります。ここから言えることは、子供ひとりに対する教育費はトータルで低い方で1,015万円、高い方で2,465万円ほどかかるということになります。これに養育費約1,640万円を加算すると、ひとりの子どもが誕生してから大学卒業まで、2,655~4,105万円かかるという計算になります。中位数は3,380万円ということになります。
 ひとりの子供が生まれてから大学を卒後するまでは、22年ですから、年間153万円かかるということになります。これはあくまでも平均の数字ですが、国が1人当たり年間153万円のを負担すれば、すべての子供の養育費、教育費を賄えるということになります。
 この問題を考える前提として、先ず、この数字を押さえておくことにしましょう。
 

家計収入はいくらか

 では、これらの養育費、教育費を担う家計の収入はどれくらいあるのでしょうか。
 厚生労働省が提出している平成22年国民生活基礎調査の数字を使います。同調査の結果によれば、全国全ての世帯年収平均は、549.6万円です。家計は549万円の収入をもって、子供の養育、教育費153万円を負担している、ということになります。家計収入の27%が養育費、教育費という訳です。子どもが2人いれば、その倍ということです。子供2人を育てるのがいかに厳しいかは、この数字からも読み取れます。
 ここに挙げた家計収入は平均の数字です。子育て世代は年齢が若く、その分収入も少ないはずです。従って、養育費、教育費の占める割合は27%でなく、40%前後になると考えるべきでしょう。たった一人を育てるのに、収入の40%程度が養育費、教育費で消えていくとなれば、家計にゆとりがないのは当然です。

全額国が負担したら

 年間153万円の養育費、教育費を全額国が負担したら、いくらになるのでしょうか。総理府統計局の資料によれば、未成年者の人口は、平成21年の資料で約2,308万人となっています。各年の生徒数は平均で115万人ということです。
 今後、毎年生まれてくる子供の養育費、教育費の全額をすべて国が負担することとした場合に要する費用は、151万円(年)×115万人ですから、総額で1兆7365億円となります。アバウト1.7兆円強の負担ということです。
 来年出産する子供から補助をスタートするとして、今後22年間、毎年、1.7兆円を負担し続けることになります。大変な長期投資です。毎年新たに1.7兆円の子育て国債を発行し続けるわけですから、最大となるのは22年後で37兆円ほどです。そして、以後この金額は増えることはなく、毎年、37兆円が新規発行され、国の貸借対照表から同額の37兆円が消えていく、ということです。22年以降は、無事大学を卒業した学生が、優良なサラリーマンとなって、納税者として返済する側に回るからです。

投資は負債ではない

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 当然のことですが、貸借対照表上、長期投資は、単なる負債ではありません。貸借対照表に計上するとすれば、負債であると同時に無形の固定資産でもあります。つまり、資産と負債が釣り合う関係にあるものです。リニア新幹線は、完成後に料金収入として返済されますが、この子育て資金は、すなわち健全な納税者として死ぬまで返済してくれるのです。担税能力がついているし、国に恩を感じているので無理はないのです。
 このような投資は、国の会計法で許されないのではないか、という疑問が生じますが、この点については、大蔵省OBで経済学者の高橋洋一氏(嘉悦大学教授)は、財政法上も認められるとの見解を示しています。彼は、現役時代、初めて国の貸借対照表を作成した人物として知られています。このあたりの議論は、長くなるので、別コーナーの方を参考にしてください。

あり余る個人金融資産

 前述したように、個人の金融資産は、昨年9月末現在で1,752兆円です。これらの金融資産の大部分は現金・預金で916兆円にも達するのです。これらの金融資産を持っている個人は、適当な投資先がないため、已む無く銀行に預けた状態にしている、ということです。預けられた銀行は、民間の資金需要がないため、安全資産である国債購入へと走る。日銀は「こちらに持ってくるな。民間に貸し出せ。こちらに持ってくるならマイナス金利にするぞ」といって脅している。しかし、銀行側からすれば、「民間が借りてくれないんです」と言って、泣きを入れている、これが今の日本の金融界の実情なのです。だからこそ、この「子育て国債」が生きてくるのです。

22年償還で社会貢献ができる

 この子育て国債は、22年間の長期国債として発行します。22年というのは、子供が生まれてから卒業するまでの期間として、分かりやすいからです。利息はつけません。その代わり、相続税の対象から切り離すのです。子育て国債は、養育費、教育費を賄うための資金ですから、いわば「足長おじさん」の延長のような制度です。
 人様のお役に立っている、子供たちのお役に立っている、という気持ちがあれば、無利息でも喜んで買う人は多いはずです。しかも、相続税の対象外となれば、資産の大部分を「孫のために」と思って買う人も少なくないでしょう。どうせ銀行に預けても利息はないようなものです。それなら、子供たちの役に立っている、社会貢献していると思える子育て国債の方が購買意欲が増すはずです。
 しかも、国債ですから、換金しようと思えば、いつでも換金できるのです。相続税の対象外となれば、臨終まじかの老人たちが、奪い合いで欲しがっても不思議はないでしょう。

子育て国債のいいところ

 このように、子育て国債の利点は、沢山あります。行き場のない個人金融資産1,715兆円が、「待ってました」とばかりに、買い出動する可能性があります。社会貢献が見える形で買えるなら、銀行に預金したり、タンス預金しておくよりずっとましです。そのうえ、天下堂々、相続税免除となれば、放っておく手はありません。
 また、企業が会社の内部に保有するいわゆる「内部留保」と言われる現金・預金も、平成28年9月末現在で、対前年比8.5%増の246兆円もあるとされています。この資金も、社会貢献という名目で出てくるでしょう。

出生数は劇的に改善し年金制度も安定

 このように、子育て国債は、メリットが非常に大きいのです。一番多く恩恵を受けるのは、来年出産する家庭ということになります。平均で毎年153万円の支援が受けられるんですから当然です。2人目を産めば306万円の支援が受けられるとなれば、産まなければ損、ということになります。当然、出生数は劇的に改善します。「少子化担当大臣」なんていう訳の分からない大臣、一体、これまで何をしたというのでしょう。一向に出生数の改善につながっていないではありませんか。根本のところを直さず、待機児童対策など、小手先の分野をいじっているだけだからです。
 この子育て国債の発行は、年金制度の安定にも画期的な貢献をします。子育て世代が喜んで子供を産んでくれるんですから、子供の数は増えます。子供が増えれば、将来、年金を負担する世代の人口も増えるということになります。
 現在の年金制度は、世代間扶養を前提とした「賦課方式」を採用しています。自分の年金を自分で積み立てる「積み立て方式」ではないのです。ここが多くの人が誤解している点です。「自分の積み立てたお金はどこにあるのだ」と言っても、どこにもないのです。天引きされたお金は、即、今の老人世代に年金として払われ、それで終わり、なのです。
 現在の年金制度(賦課方式)を維持するためには、子供の数を増やす以外に抜本的な解決策はないのです。

消費刺激効果も絶大

 子育て国債により支援を受けることになった子育て世代は、その分家計負担が大幅に軽減されますから、その分、消費に向かうことになります。消費意欲は、若い世代ほど旺盛です。私の妻も娘も若い頃は「デパートごと欲しい」なんて言っていた時期があります。私たちは2人とも既に70歳を超していますから、欲しいというより、「いかにして物を始末するか」を考えている世代です。消費意欲は殆どありません。
 このように、消費意欲は若い世代ほど高いのです。養育費、教育費がタダになれば、その分消費に向かうのは理の当然です。放っておいても消費は大幅に伸びます。消費が伸びれば生産も伸びます。当然、景気は刺激され、税収も大幅に伸びます。秀吉の楽市楽座の発想です。
 要するに、子育て世代の経済的負担が軽減し、社会保障など将来への不安が解消されれば、消費は大幅に伸び税収も膨らむ。よいことばかりなのです。私たち高齢者だって、いい気分になって、旅行にでも行こうかという気分になります。

一気に無理なら部分施行も

 ここまで述べたことを実行するのは、既存の価値体系のなかではかなり無理のあることを承知の上で提案しています。ならば、一気に実施できなくとも、漸進的に実施してもよいのです。
 例えば、当面、少額入学前の子供たち全員を対象にするという方法も考えられます。養育費のすべてを対象にするのです。現在でも出産費用は補助の対象になっているようですから、それ以外の保育園、幼稚園の費用を丸抱えるするということです。次の段階で、小学生全体に広げていく。場合によっては、2人目の子供だけを対象にするという方法も考えられるかもしれません。
 いずれにせよ、長期的な目標として、養育費、教育費は全額無償と言う方向に向かって施策を進めていってほしいと思います。

維新の党こそこれを党是とすべき

 このような施策は誰が実現できるのか。本来なら政権党である自民党ですが、今の自民党には憲法改正をはじめ安全保障政策の実現が緊急の課題です。当面は、それの実現に力を注いでいただきたいと思います。

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 代わりに民進党や共産党、社民党がこれを実現できるかと言えば、とてもできないでしょう。これまでの実績を見れば、これらの政党は、常に空理空論、敵失の揚げ足取り、パフォーマンスばかりで全く政党としての体をなしていません。
 維新の党も、大坂維新の会と言っていたと思ったら日本維新の会になり、更に維新の党になる。かと思ったら、民進党とくっつくグループと民進党とは一線を画するグループに分かれるなど、全く頼りありません。いずれにしろ民進党とくっついた方はろくなことにならないでしょう。
 離合集散を繰り返していますから、どちらの政党かはわかりませんが、自主防衛力の強化や尖閣諸島はじめ南西方面の対処等離島防衛に万全の体制を構築すること、などを綱領に掲げているようですから、その意味では現実認識の高い政党と言えるでしょう。
 その点で他の野党と一線を画しています。このような政党に、この政策を実現していただきたい、と思っています。自民党も、維新の党(?)の呼びかけがあったことを名目にすれば、「与野党で実現した」ことになりますから、「強行」したと言われずに済みます。
 維新の党は、まだ弱小政党ですが、考え方が、民進党や社民党のように空理空論の党ではなく、「是々非々の党」ですから、自民党も乗りやすいはずです。日本にも健全野党が必要です。維新の党がこういった政策を実現すれば、党勢も大いに拡大するはずです。現実的な政策を実現する健全野党の出現を、多くの国民は待っているのです。(H29・1・17記)



<後日記>

 上の記事を書いた後、1月20日に行われた衆議院本会議における安倍総理の施政方針演説にこんな行(くだり)がありました。

■誰にでもチャンスのある教育
 「邑(むら)に不学の子なく、家に不学の人なからしめん」明治日本が、学制を定め、国民教育の理想を掲げたのは、今から140年余り前のことでした。

(中略)
「学問は身を立(たつ)るの財本(もとで)ともいふべきもの」。どんなに貧しい家庭で育っても、夢をかなえることができる。そのためには、誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません。

 このように述べた後、「おわりに」の項で、次のようにも語っています。

■子や孫のため、未来を拓く。土佐湾でハマグリの養殖を始めたのは、江戸時代、土佐藩の重臣、野中兼山(ケンザン)だったと言われています。こうした言い伝えがあります。
 「美味しいハマグリを、江戸から、土佐に持ち帰る」。兼山の知らせを受け、港では大勢の人が待ち構えていました。しかし、到着するや否や、兼山は、船いっぱいのハマグリを全部海に投げ入れてしまった。ハマグリを口にできず、文句を言う人たちを前に、兼山はこう語ったと言います。
 「このハマグリは、末代までの土産である。子たち、孫たちにも、味わってもらいたい。」
 兼山のハマグリは、土佐の海に定着しました。そして350年の時を経た今も、高知の人々に大きな恵みをもたらしている。
 まさに「未来を拓く」行動でありました。
 未来は変えられる。全ては、私たちの行動にかかっています。

 けだし名言と言うべきでしょう。ならば、安倍総理には、この名言通り、「末代までの土産」である、すべての子や孫たちの未来のために、投資をしていただきたい。総理大臣ならば、未来は変えられるのです。総理の実行力に期待しています。(H29・1・22記)

 

 

 

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