時事寸評 書評コーナー

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トランプ大統領は日本の救世主となるか

トランプ大統領は日本の救世主となるか

始動したトランプ政権

 1月20日トランプ大統領が発足し、既に3週間が経過しようとしています。矢つぎ早の大統領令の発令によって、世界中が振り回されてきたと言っても過言ではありません。

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 マスコミに対してのあからさまな挑戦は、日本人の感覚から見て驚天動地です。挑戦というよりも、挑発と言った方が適切かもしれません。中東やアフリカの7ヶ国を対象とした入国制限を目的とする大統領令も多くの批判を浴びています。
 未だ1ヶ月にも満たない段階で、トランプ政権についてあれこれ論評したり、評価することは困難です。が、少なくとも、この政権が日本にとってプラスの方が多いのか、あるいはマイナスの方が多いのか、ある程度見通すことはできると思います。以下、私なりに、いくつか論評なり評価をしてみたいと思います。

アメリカ国民に失望

 先ず、トランプ政権発足直後から、トランプタワー周辺はもちろんのこと、アメリカの各州で反トランプデモが巻き起こりました。このことについては、正直失望しました。アメリカは自由と民主主義の国と信じてきたからです。

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 トランプ大統領は、自身の主義主張を率直に主張してきました。率直というよりも大胆と言った方が適切でしょう。「そこまで言って委員会」なんていうテレビ番組がありますが、乱暴な言動に、文字通り、「そこまで言っていいんかい」とも思いました。人間としての品格、識見にも、かなりの疑問符がつくのも事実です。
 ただ、自由と民主主義の国で、自分の主張を1年にもわたって「大胆に」訴え、投票によって当選した大統領を、当選した直後に「やめろやめろ」の大合唱はないでしょう。選挙という審判が下った以上は、これに従う。これが民主主義のルールです。一部では、商店のガラスを打ち壊すなどという過激な行動も見られました。余りにも行きすぎです。嫌なら、次の選挙で落とせばいいんです。それが嫌なら自分で国を離れることです。

アメリカファーストと世界の困惑

 トランプ大統領の言動は、すべて「アメリカファースト」という一語に集約されています。政治も経済も通商もすべからく自国を中心に考える。自国に有利でないことには首を突っ込まない。小池都知事の「都民ファースト」も同じです。
 この基本思想は、特段非難されることではありません。世界のどこの国でも、リーダーたるもの、自国中心に考えるのは当然だからです。ただ、アメリカという国は、圧倒的な軍事力と経済力と強い通貨ドルによって、世界を支配してきました。世界の国々も、自由と民主主義を信奉するアメリカを盟主として信奉してきたのです。世界のどこで紛争が生じても、米国を中心とする軍事力で世界の秩序は保たれてきました。
 そのアメリカが、急に内に籠り「自国だけ良ければよいのだ」、と言われても世界は困惑するばかりです。腕力の強いドラエモンのジャイアンが自分さえよければいいんだ、と言っているようなものだからです。

グローバル主義の台頭

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 トランプ大統領の基本的なスタンスは、グローバル主義への反発です。言うまでもなくこれまでの世界は、グローバリズムを世界共通の尺度、目標として動いてきました。人、物、金、サービスのすべてがグローバリズムの流れの中で動いてきたのです。
 ヨーロッパ全体を包括するEUはその典型です。また、グーグルやマイクロソフト、Facebook、マクドナルド、コカ・コーラ、スターバックスなど世界を股にかける企業はすべてグローバリズムの申し子と言ってもよいでしょう。製造業は、大胆に国から国へより安い賃金で働く労働者を求めて、移動してきました。
 アメリカは、先端的なIT分野や世界的食品企業などで大きな成功を収める一方、自動車産業をはじめとする旧来型の製造業分野においては、衰退を余儀なくされてきました。
 しかし、これは、グローバル市場を前提とする限り、当然生じることなのです。日本も自動車産業を始め多くの製造業が、生産拠点を国内から国外にシフトさせてきました。経済の原則は、よりローコストの生産地を求めて移動せざるを得ないからです。

グローバリズムへの反発

 しかし、ここにきて、このグローバリズムという魔物に対しては、反発も生じるようになってきました。究極まで経済合理性を追求していくと、最終的には、少数の経済的強者のみが勝ち、敗者に回った圧倒的多数の労働者が、落ちこぼれていったからです。つまり、グローバル社会においては、「勝者はより豊かに、敗者はより貧しく」なっていかざるを得ません。貧富の格差の拡大です。アメリカでは、貧富の格差が大きく、商務省の統計によると、アメリカの「貧困層」は4,600万人にも及んでいるとされています。世界最大の経済大国で、実に7人に1人が貧困層だというのです。
 ところが、恐ろしいのは、4,600万人の背後に、まだ表面化していない多くの「貧困予備軍」が控えているというのです。米国の人口は、2014年で3億1,800万人ですが、1億人以上が、既に貧困層か貧困層予備軍に入っているというのです。これほど多くの人々が、そのような状態にあるということは、社会の底流に多くの不満のマグマをため込んでいるということでもあります。
 アメリカでは、上位1%の国民がもつ資産が、下位90%が持つ資産の総量よりも多い、と言われます。米国一流企業のCEOの平均所得が、労働者の平均所得の343倍にも達しているのです。社会が病んでいる、と言っても過言ではないでしょう。
 EU諸国でも事情は似たようなものです。EU域内においては、ヒト、モノ、カネが自由に移動できるようになった結果、技術力があって生産能力の高いドイツが、一人勝ちするようになったのがその典型です。ギリシャのように、観光のみで生活しているような国は、技術・経済力に勝る国に依存せざるを得なくなったのです。経済が破たん状態だというのに、自国通貨のドラクマを発行することも許されません。イタリアやオランダも同じような境遇です。北欧のデンマークやスウェーデンからもEU離脱の声が上がり始めています。
 イギリスがEU脱退に至ったのは、移民の受け入れの強制など、国のありようまで差配されてきたEUに対する国民の不満の発露でもあったのです。

トランプの反グローバリズムは当然

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 トランプという突き抜けた人物が登場したのは、ウオール街を中心とするグローバル経済に対する、地方生活者の反乱であったと見ることができます。もうグローバリズムなんてどうでもいい。それよりも「我々庶民の暮らしを何とかしてほしい」という願いだったのです。
 ですから、トランプ大統領が、ウオール街よりも、製造業を中心とする雇用の確保に全力投球するのは当然です。そうでなければ、有権者の声に応えることができないからです。
 アメリカの失業率は、2017年1月現在(速報値)で4.8%です。完全失業率3.1%にかなり接近しているのです。この平均的な数値自体は決して悪い数字ではありません。
 しかし、各州によって、この数値には大きなブレがあります。失業率の一番高いのはネバダ州の11.01%、2位はロードアイランド州の10.57%、3位はカリフォルニア州の10.43%で、最も失業率の低いのは、ノースダコタ州の3.30%という具合です。トランプ大統領の焦眉の急は、こういった失業率の高い州での雇用回復は当然ですが、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニアといったトランプ大統領を支持した州の雇用回復が優先ということになります。
 これを実現するためには、グローバル主義を墨守していては達成不能です。グローバリズムとの決別、有無を言わせないアメリカファーストでなければ、実現できない。少なくとも彼はそう考えているのです。

矢つぎ早の大統領令も当然

 トランプ大統領は、就任以来、次々と大統領令を出しています。乱発と言っていいほどのスピード感です。
 しかし、これまで出された大統領令を見ると、いずれも選挙期間中に公約として掲げてきたものばかりです。彼の立場に立てば、選挙期間中に公約したことをそのまま実行しているだけですから、文句を言われる筋合いはありません。とにかく大統領令で実行できるものはどんどんやる。
 もちろん、大統領令を出すだけですべてが実現可能という訳ではありません。予算を伴うものは、議会の承認、裏付けがなければ実現できません。しかし、それは議会の責任であって、大統領の責任ではない。こういうしたたかな計算の下で、彼は大統領令を乱発しているのです。
 嘗ての日本の民主党のように、公約で掲げたことを一つも実行しなかった政党よりははるかにまし、と言えるでしょう。

日本への経済的要求は不当

 トランプ大統領は、中国や日本を為替操作国と決めつけています。「他国は通貨安に依存している。日本は何年もやってきた」などと非難しているのです。しかし、この認識が完全な誤りであることは、常識のレベルです。日本は変動相場制の国であり、為替の操作は行っていません。為替相場は各国の基礎的な経済条件に基づき、市場の自由な取引によって決まっていくものだからです。
 中国は、アメリカ財務省の為替政策報告書によれば正式には為替操作国には認定されていません。しかし、外貨預金を取り崩してまで人民元を買い支えたり、外国への人民元の持ち出しを制限するなど、人民元の流出を必死になって抑え込もうとしており、実質的には為替操作国と言ってもよいでしょう。
 この違いを米国の大統領が知らない筈がありません。日本はデフレを脱却するために、金融・財政の両面から施策を実施しているのであって、円安はその結果に過ぎないのです。しかもその円安、120円台の水準は、決して円安と言えるほどのものではありません。
 円安により、日本経済が発展すれば、日本の消費が喚起され、需要の増大につながります。その結果は、米国からの輸入増に結びつくわけですから、決して、米国経済の足を引っ張るものではありません。
 トランプ大統領が、このあたりのことを知っていながら敢えて言うのだとすれば、何か裏があります。最初に大きく吹っかけておいて、妥協点を探る。不動産屋トランプの面目躍如の行動かもしれません。
 自動車の輸出についても、米国にとってあまりに不利で、「日本は、アメリカ車の販売を不可能にするような措置をとっている」などと、主張していますが、難癖の類いと言わざるを得ません。

自動車も自由競争

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 日本車をアメリカに輸出する場合は、2.5%の関税がかかりますが、外国から完成車を日本に輸入する場合は、アメリカを含め、すべて関税はゼロです。つまり、米国車の方が条件的に有利なのです。因みに、ドイツ車も日本に輸入する場合は米国車と同じく、関税はゼロですが、日本国内におけるシェアは17%にも達しています。これは、車の品質性能が優れているということもありますが、それだけの販売努力をしているということでもあります。決して、米国車の販売を阻害し、ドイツ車を優遇しているわけではないのです。
 日本国内で販売するなら、左ハンドルを右ハンドルに変えるとか、燃費を改善したり、日本の道路事情に合わせて小型化を図るなど、改善点はいくらでもあるはずです。そういう初歩的な努力もせずに、米国車を売れないようにしているなどというのは、難癖以外の何物でもありません。

2国間協定はアメリカに有利

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 トランプ大統領は、TPPから離脱し、2国間の貿易交渉により貿易協定を締結しようとしています。2国間の貿易協定ということになれば、どうしても大国の方が有利になります。まして日本は、国の安全保障をアメリカに頼っているという弱みもあります。力負けするのは当然です。経済交渉の強弱も軍事力が背景にある、というのが世界の常識です。
 TPPが本当に日本の国益にかなうのか否かについては、議論のあるところです。12の国々が24の分野にわたって、自由貿易を拡大していこうという発想そのものは、必ずしも間違っていません。ただ、この24分野には、農業はもちろんのこと、金融や保険、公共事業などの政府調達も含まれています。外国資本が雪崩を打って国内に侵入してくる可能性もあるのです。

TPPに含まれる懸念条項

 しかも、このTPPには、ISD条項とラチェット規定と言われるいわゆる懸念条項が含まれています。
 ISD条項とは、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができるという制度です。至極当然のように見えますが、運用上かなりの危険が生じる可能性があります。
 例えば、国民の不安を払拭するため、農水省が「遺伝子改良した食料はその旨商品に表示せよ」と指示した場合、それによって売り上げが減少したとします。この場合、アメリカ政府が米国企業に代わって国際機関に対して日本を提訴できるのです。「損失があったか否か」という事実認定だけが争点となれば、日本側の敗北は間違いないでしょう。
 また、ラチェット条項なんて言う規定もあります。ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車のことです。いったん進展した自由化よりも後退を許さないというものです。締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、再度、規制を強化することが許されないのです。
 こういったTPP協定が、本当に日本にとって、有益なのか否かについて、国民の多くは判断がつかない筈です。
 言えるのは一点です。「対中国」という視点からは意義がある、ということです。世界貿易の40%を占めるような多国間の貿易協定で、中国のような不公正な貿易国を排除できることは、基本的に望ましいと思います。軍事的に膨張をつづけ、周辺国を圧迫する中国の経済発展を阻害することができるからです。
 日本の外需依存度は僅かに15%です。つまり、日本は中国や韓国と異なり、外需依存国ではなく、内需依存国なのです。内需を拡大することにより、より一層発展できる国なのです。TPP協定がなくても、特に困るという訳ではありません。TPPは、あくまでも中国包囲網という観点からは意義があり、その意味で「必要悪」と位置付けるべき性格のものでしょう。

日本の安全保障にとってはプラス

 私が一番安堵したのは、安全保障に関する姿勢です。トランプ大統領は、選挙期間中、「世界の警察官にならない」と何度も宣言していました。当然、中国は喜び、南シナ海、東シナ海の不安定化が加速されるものと危惧されてきました。しかし、大統領就任後は、中国に対しては軍事的にも、また経済的問題でも極めて厳しい態度をとっています。
 軍事面では、南シナ海及び東シナ海における中国軍の暴虐無人な振る舞いに対して、強硬な態度を示しています。このことは、今後、中国が同地域でこれまでと同様の行動をすることに、かなりの抑制効果を持つことは間違いありません。

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 オバマ政権時ならば、尖閣諸島に上陸することは既定路線。問題はその時期はいつか、というのが焦点でした。しかし、マティス国防長官が来日し、安倍総理と稲田防衛大臣に対して、「日米同盟強化の重要性を強調し、尖閣諸島が日米安保第5条の防衛対象である」ことを明言しました。また、北朝鮮への対応とともに、中国の東シナ海や南シナ海における「力による膨張」に対する警戒感とさらなる協力を確認し合いました。
 日本にとって、これ以上に心強い言葉はありません。トランプ大統領は、選挙期間中、「日本は駐留米軍の十分な費用負担をしていない。米軍の撤退もありうる。その代わり日本の核武装も認める」なんて、強烈な発言もしていたからです。
 トランプ大統領は、根っからのビジネスマンです。安全保障政策に関しては、全くの素人です。ですから、選挙期間中の彼の安全保障に関する発言は、ビジネスマンという視点からの発言です。安全保障に関する専門家の発言ではなかったのです。彼の弱点をカバーするために任命されたのがマティス国防長官です。彼は狂犬マティスなどと呼ばれていますが、翻訳の間違いで、正しくは「猛犬」です。決して狂ってなどいないのです。
 トランプ大統領は、安全保障に関することは、マティス長官に全面的に任せており、これまでマティス長官の発言に異を唱えたことはありません。ですから来日時にマティス長官が日本の米軍駐留経費について異を唱えず、それどころか、「日本の防衛費分担は他の見本となる」という趣旨の発言をもって、すべて解決済みと考えてよいのです。
 マティス国防長官が、ヨーロッパではなく、最初に日本と韓国訪問を選んだという意味も大きいと思います。トランプ政権のアジア太平洋地域に対する安全保障への関心の高さをうかがわせるものだからです。

慌てる中国

 中国は大変です。大統領選期間中、「世界の警察にならない」と何度も宣言することによって中国を喜ばせていたトランプ氏が、当選するや、矢継ぎ早やにレックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官、あるいは新設した国家通商会議のピーター・ナバロ委員長など、錚々たる対中強硬派で布陣を整えました。この陣容を見ただけでも、中国にとっては十分に衝撃的だったと思います。経済面だけでなく、軍事面でも、対中強硬派を揃えたからです。
 しかも、ニュースサイト「BusinessNewsline」の中にある「トランプ大統領、就任100日で行う政策を予想する」という記事には、次のような項目があるというんです。
◆ホワイトハウス職員と連邦職員がロビイストに転向することについて5年間の禁止期間を制定する
◆ホワイトハウス職員が外国政府のロビイストとなることについて永久禁止する
◆外国のロビイストがアメリカ国内の選挙に資金を提供することを完全禁止する

 これらの項目が何を意味するのかは明らかです。中国が金にものを言わせて政府職員を買収し、ロビイ活動を行わせることを徹底的に排除しようということです。チャイナマネーがヒラリー陣営の資金源になっていたことへの意趣返しでもあります。
 中国という国家は、インドネシアの高速鉄道の受注競争で、強引に日本から横取りしたように、権謀術数の限りを尽くして挑んでくる国家です。トランプ大統領も、そのことは十分に承知のはずで、中国による米政府へのロビイ活動を徹底的に抑え込もうとしていることがうかがえます。これによって、中国の巻き返しを防ごうとしているのです。

中国経済はボロボロ

 既によく知られていることではありますが、中国経済は、すでにボロボロの状態にあります。外貨の流失が止まらず、人民元安も止まりません。中国の外貨準備高は、約6年ぶりに3兆ドル(約336兆円)を割り込みました。外貨準備の下落の原因は、人民元安を抑え込むため、人民銀行がドルを売って、元を買う為替介入を行っているからです。人民元が安くなるということは、これを放置すると輸入物価の高騰でインフレが起きやすくなるからです。

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 中国政府は、外貨の流失を防ぐため、日本でも有名になった銀聯カードの使用限度について一日1万元、年間10万元までとする上限を設けました。また外国銀行3行に対して為替免許の停止、中国の為替拠点の銀行に対して、顧客の人民元売り、ドル買いを5万ドルに制限するなどあらゆる対策を講じています。もちろん、外国企業の買収など、資金流失にも強い制限をかけています。
 このように、何とかして、人民元安や外貨準備の減少を食い止めようとしていますが、大河のような流れはもはや押しとどめようがありません。
 こういう落ち目の時に、中国に対して厳しい姿勢をとるトランプ政権が登場したのです。先進国の中で真っ先にAIIBへの参加を表明したイギリスでは、親中派のキャメロン首相も、オズボーン財務大臣も、既に政権の座を追われました。新たに政権の座に就いたメイ首相は、EU離脱によって、アメリカとの蜜月を演出する方向に舵を切り、中国とは距離を置くようになりました。

政治体制に根本原因が

 中国の経済成長に大きなブレーキがかかってきたのは、国内にその根本原因があります。最大の原因は、いわゆる発展途上国の罠と言われるものです。国民の生活レベルが低い時代には、低賃金で働くことをいとわない人々も、生活レベルが上がってくると、それでは満足できなくなります。当然、賃金のアップを要求するようになります。その結果、それまでは自転車の洪水だった北京の街に自動車が溢れるようになりました。家の中には、三種の神器も溢れている筈です。飲食店での食事も日本とほとんど変わらない、いや、日本よりも高い、とさえ言われるようになりました。正しく生活水準の向上です。本来、そのこと自体は慶賀に堪えないことです。
 しかし、世界的視野で見れば、それほど高騰した中国で製造業を運営するメリットはありません。賃金水準が高く、労働組合の力が強くかつ激しい。また行政による不当な介入や制度の場当たり的な変更、それに役人による露骨な賄賂の要求など、日本人的感覚からすれば信じられないような社会背景があります。生産拠点をより賃金水準の低い東南アジアなどにシフトしようというモメントが働くのは理の当然です。中国への投資の魅力は大きく損なわれたのです。

構造改革のできない国

 このように、今の中国経済は、資本の流失が止まらず、人民元安も止まりません。加えて外貨準備金も減る一方と八方ふさがりなのです。
 通常、このような状態なった場合、国を挙げて企業の競争力を高める方向に大きく舵を切ります。具体的には、企業の研究開発能力を向上させる一方、人材の育成を図るなど、長期的な取り組みが必要となります。
 民主主義国においては、改革の圧力は、国民の意思が前提となります。そのような努力をしない政党は投票行動によって、淘汰されます。
 しかし、周知のとおり、中国は共産党一党独裁国家です。すべての権力は国家主席に集中し、軍事力は人民解放軍(本当は「人民弾圧軍!」)に属しています。多くの努力を研究開発に費やしても、「技術は盗むもの、真似するもの」という重篤な国民病のため、その努力が報われることはありません。改革を促すモメントが働かないのです。従って、現在のまま推移すれば、独裁国家は破たんへの道を歩まざるを得ないのです。

トランプによって破綻が加速

 中国の現状はこのようなものですから、中国という国家は早晩、破たんを免れない宿命にあるのです。今回トランプ大統領の登場によって、この破たんのスピードが大幅に加速されることは間違いありません。米中の摩擦が激化することは容易に予想できるわけですから、資本の流失も加速するからです。このような泥船に、敢えて投資する愚か者はいないのです。
 

中国はどのように対応するか

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 さて、中国の経済的破綻が免れないとして、今後、中国がどのような対応をしてくるかです。
 最も考えられるシナリオは、国民の不満を逸らせるため、軍事行動に打って出てくるということです。独裁国家においては、国民の不満を外に向けるのが古典的手法だからです。
 その証拠に、中国はトランプ大統領が登場した途端、早速、戦略ミサイル部隊「ロケット軍」のミサイル開発を活発化させています。2月9日付け読売新聞によれば、「沖縄の米軍基地や台湾を標的とする弾道ミサイルの命中精度を向上させたとみられるほか、米本土を射程に入れる多弾頭の大陸間弾道(ICBM)の発射実験が相次いでいる」と報じられています。
 アメリカの情報サイト「ワシントン・フリー・ビーコン」でも、中国軍は1月上旬、弾頭10発の搭載が可能なICBM「DF5C」の発射実験を実施した、としています。射程は1万キロ以上ですから、北米全域がカバーできるのです。このように中国は、軍事的には一歩も引かない強硬な態度で反応しているのです。

中国の自然死を待つのが得策

 このように、中国の独裁国家は、軍事力の威嚇によって、アメリカに対抗しようとしています。台湾や南シナ海、そして尖閣諸島に対して、今後、中国がどのように活動を活発化させるのか、予断を許しません。
 トランプ大統領が、敢えて、中国の主張する「核心的利益」にダメ出しをするのかどうかは未知数です。マティス国防長官の胸の内も読めません。言えることは、中国の今以上の膨張主義は許さない、ということです。つまり、中国側がこれ以上の挑発行為をしない限り、静かな睨み合いの均衡状態が続くことになるでしょう。
 この睨み合いの期間を長引かせれば、中国は内部から崩壊していくことは間違いありません。現在の資本流失や外貨準備金の減少のスピード、人民元の下落のスピードを見れば、極めて早い時期に白旗をあげる可能性があります。ソ連邦が崩壊したのと同じシナリオです。日本は、残念ながらアメリカと中国の危険なパワーバランスの狭間で生きざるを得ない、というのが日本の置かれた宿命と言わざるを得ません。
 ただ一つ言えることは、中国のこれ以上の膨張政策には、明らかにブレーキがかかることだけは間違いがないということです。そうでなければ、米軍による直接攻撃も免れないからです。それだけでも、日本にとっての福音と言うことができるでしょう。
 もちろん、我が国としては、中国の崩壊後は一体どうなるのか、具体的、実践的なシナリオを検討しておくべきだと思います。日本の人口を超える難民が押し寄せる、などという途方もない現実も、決して夢物語ではないからです。(H29・2・9記)

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