時事寸評 書評コーナー

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いますぐ「プライマリーバランス」の旗を降ろすべきです

いますぐ「プライマリーバランス」の旗を降ろすべきです

プライマリーバランスとは何?

 いきなりプライマリーバランスなんて言われても、戸惑う人がいるかも知れません。日本語では「基礎的財政収支」と言っています。これは、「国の財政支出は税収の範囲で行いましょう」ということです。税収を超え、国債発行という形で支出を増やしていくと、いつか国債の返済が滞り、国が財政破綻をしてしまう、というわけです。
 この考え方は、日経新聞をはじめ、国内の大新聞はもちろんのこと、多くの経済学者たちも支持している考え方です。「多くの経済学者」と書きましたが、大部分の経済学者も、といった方が正解かもしれません。それほど圧倒的多数の学者が信じていることでもあるのです。
 そして、国の財布を握っている財務省もまた、コテコテのプライマリーバランス信奉者といってもよいでしょう。(プライマリーバランスという用語は、度々出てくるので、以後は単に「PB」と表記します。)。要するに、学者もマスコミも財務省もすべてPB信奉者と言っても過言ではないのです。
 

国際公約ではない

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 このように、オールジャパンと言ってもよいほどにPB信奉者が多いのはなぜでしょうか。単純に、理解しやすいからです。家計に引き直せば、「収入の範囲で、お金を使う」という極めて分かりやすいロジックだからです。収入の範囲を超えて、カードローンで(=国債発行で)お金を使えば、将来、家計は破綻します。財務省及びその意を受けたマスコミもこのロジックで説明しますから、国民の納得感も十分あります。そのため財政再建のためには、「消費税の上げも仕方ないか、節約をしなくちゃ」、という気分になってしまうのです。
 このようなPB論は、小泉政権下で経済財政政策担当大臣(金融政策担当大臣も兼務)をしていた竹中平蔵氏が「PBの黒字化」を言い始めたのが最初です。「家計に例えれば」式の説明は説得力を持ち、この思想は民主党政権にも引き継がれました。民主党政権時、菅直人総理が閣議決定を経た後、主要20ヶ国・地域(G20)首脳会議で表明したため、財務省は、これを「国際公約」だと言っているわけです。
 どこの国だって、政権が変われば政策が変わるのは当たり前です。ましてや国民から見捨てられたような民主党政権が国際会議で表明したからと言って、後の政権がこれに縛られる理由など微塵もありません。それにも関わらず財務省がこの「国際公約」に拘るのは、財務省にとって都合がよい論理だからです。税収が足りない→PB黒字化が達成できない→消費税を上げなければ、将来の子供たちにツケ回しをすることになる、という論法です。

財政悪化の原因はデフレ

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 黒田日銀総裁は年2%の物価上昇目標が達成出来ず、6回にわたり目標達成時期を先送りしました。つまり、いくら金融政策を行っても物価上昇につながらないのです。黒田総裁が物価上昇を目標にするのは、経済の成長を図ることにより、経済のパイ=GDPを大きくしたいからです。GDPが大きくなれば、国民一人当たりの分配額は大きくなります。経済が成長すれば、生産が増え、雇用はもちろんのこと、国民の所得も向上するからです
 ところが、黒田バズーカにより、いくら金融を緩和しても物価上昇につながらなかったのです。なぜか。経済のデフレ状態が続いていたからです。デフレ状態というのは、賃金(所得)が増えない→賃金が増えないから消費が増えない→消費が増えないから企業の収益が増えない→企業の収益が増えないから賃金が増やせない。こういう負のスパイラルから抜け出せない状態のことです。
 黒田総裁は、このような状態を脱出するために、大幅な金融緩和を行いました。ゼロ金利どころか、マイナス金利まで金融緩和を行いました。金融機関に大量のお金を供給し、そのお金を民間に低利で貸し出すことにより、経済を活性化しようとしたのです。ところが、企業は容易に反応せず、なかなか投資をしようとしません。それどころか、内部留保により、企業内に資金をため込むばかりで、一向に投資をしないのです。

なぜ企業は投資しないのか

 企業はなぜ投資をしないのでしょうか。長期投資をするに値するだけの将来需要が見込めないと判断しているからです。中国や韓国の経済減速という外的要因もありますが、基本には日本の中長期の経済見通しに不安があるからです。
 日本は既に超高齢化社会に突入し、70歳以上の高齢者が増加する一方、若い世代の人口が減少しています。よって医療費や介護費用、年金等の社会保障費負担が増加する一方、若い世代の消費活動は伸びない。賃金も上昇しないからです。他方、国はPB黒字化の旗を掲げ、消費税10%への引き上げも既定路線です。PBの黒字化と消費増税を見込むならば、デフレ路線まっしぐらと思うのは当然です。つまり、企業の眼から見れば、今の日本で、長期投資を積極的に行おうという経済環境は全くない、と見られているのです。

アベノミクスで成果は出ている

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 アベノミクスの成果について、浜矩子氏のように「ドアホノミクス」などと蔑称し、その成果を否定する左翼系の学者もいます。しかし、アベノミクスによる成果はそれなりに数字で出ているのです。
 例えば、GDPは民主党政権時の493兆円から543兆円に拡大しました。株価も同じく8,664円から21,000円を超すところまで来ました。有効求人倍率も0.50から1.01に、雇用も185万人増えました。今、大学を卒業し、内定がもらえないなんていう学生はいません。引く手あまたなのです。そろそろ高齢者も引きずり出されそうな雰囲気になってきました。
 女性の就業者数だって152万人増加し、外国人旅行者も870万人だったのが2,482万人に増えたのです。
 こうなると前記浜矩子氏は「アベノミクス完全崩壊に備えよ」とか「好景気の裏に罠がある」なんて本を出版して批判していますが、こういう経済評論家は、左翼思想で経済を語っているとしか思えません。
 いずれにしろ、安倍政権になってから、さまざまな経済の指標は大きく改善しているのです。そのことだけはしっかり踏まえておく必要があります。ただ、PB黒字化という指標が、経済発展の足枷になっている、ということなのです。

需要がなければ国が財政出動するのは当然

 このような状態が続けばどうなるか。折角アベノミクスで経済が浮揚しかかっているというのに、またまた日本経済は失速してしまいます。企業が投資をしないからだと責めたてても仕方がありません。企業は経済合理性で動きます。企業が動かないのは、経済政策に根本原因があります。企業が投資できる環境とは、長期的に需要が見込めることです。今の日本で長期的に需要が見込めるのは介護と医療など高齢者をターゲットとした産業です。これでは話になりません。
 企業が投資をせず、個人も消費しない。となれば公共部門が出動しなければ仕方がありません。公共部門とは国や自治体です。つまり税金を使う側が、それを使って長期的に需要を喚起しなければ企業の投資は促進されないのです。
 経済の発展は企業や個人が、「投資のため」お金を借りてくれるからです。お金を借りて投資をしてくれる人がいなければ、経済は発展しようがありません。これは素人でも分かる経済のイロハです。
 ですから、今は、公共部門が大胆に税金を使って投資環境を整える必要があるのです。ところが、この税金を使って投資をするためには大きな障害があります。その最大の障害は何か。繰り返しになりますが、それがPBなのです。2016年度の国と地方を合わせたPBは、約20兆円の赤字になると見込まれています。対名目国内総生産(GDP)比では、3.7%の赤字ということになります。財務省などは、このPBの赤字を、消費税の増税などによって解消したいというわけです。

PBの呪縛

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 財政健全化=PB黒字化、という財務省の固定観念、足枷がある以上、大幅な財政出動はできません。財政出動をしなければ、今のデフレ状況は解消する術がありません。蒸気機関車を動かすためには、初めに大きなエネルギーを必要とします。しかし、動き始めれば、それほど大きな力を必要としません。それと同じで、経済の好循環のためには、初期エネルギーとして公共部門が思い切った投資を行う必要があります。経済が動き始めれば、財政の出番はなくなるか、あるいは極めて少なくて済むのです。
 そこにPB黒字化論を持ち込み、消費税の増税だの財政健全化のための緊縮財政なんて言ったら、経済は益々シュリンクするのは火を見るより明らかです。消費税というのは、トーゴーサンピンと言われる税の捕捉率の格差を解消する狙いもありますが、逆累進課税の効果もあるということに注意する必要があります。所得が増えないうえに、逆累進課税というのでは、消費が冷え込むのは当然です。税金というのは、経済が冷え込んでいる中で徴収されるのと、経済の勢いがある時に徴収されるのでは、感じる痛みが全く違います。
 バブルの時代に、銀座の高級バーが賑わった時期がありました。その時の客たちは大金を払うことにより税収増にも貢献したはずです。それでも客は気づかないうちに喜んで税金を払い、税務署は苦労しなくても税収増になっていたのです。
 税金というのはそのようにしてとるものであって、わざわざ不景気にして、無理やり取り立てるものではありません。PB黒字化論というのは、文字通り不景気風をピューピュー吹かした中で税金をとる手法なのです。

▶▶▶高橋洋一×藤井聡「日本経済がヤバイ

日本はすでに財政再建している

 「PB黒字化」の原点は、日本の財政が危機に瀕している、というところにあります。確かに、マスコミや財務省、それに多くの経済専門家も、「日本は財政危機状態にある」という共通認識に立っています。
 この点については、既にこのコーナーで、何度か「日本の財政再建は完了している」ということを述べてきました。繰り返しになるので、その理由はここでは述べません。要するに、国の財政は、家計と比較すべきものではなく、比べるなら新日鉄とかトヨタ自動車といった日本を代表する大企業と比較すべきである、と言い続けてきました。

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 日本の大企業の決算、すなわち財務内容はすべて貸借対照表で明らかにします。50%以上の株式を保有する会社は子会社と位置づけ、決算はその子会社と連結して行います。そのような大企業は、成長の過程で、年々銀行からの借り入れを増やし、債務を拡大してきたはずです。しかし、債務が年々増大してきたからと言って、債務超過だと言われなかったはずです。年々売り上げも伸び、利益も拡大してきたからです。資金を提供する金融機関も、連結決算に基づく貸借対照表、すなわちバランスシートを見ることにより財務内容が健全であることが十分理解できたのです。
 このように、これらの大企業は、債務が拡大しても破綻企業とは言われませんでした。それなのに、これら大企業よりも大きな日本国、それも「徴税権」を有し、「紙幣の発行権限」を持ち、「国債の発行権限」もある国の財政が、単式簿記の発想で、家計と引き比べて大変だ、財政破綻だ、と言われる理由は何なのか、そのことになぜ疑問が生じないのでしょうか。
 日銀は既に発行済み国債の約40%を取得しています。つまり、子会社である日銀が発行済み国債の40%を取得しているということは、連結決算で見れば、国として既に返済したのと同じです。それなのに回収済みの国債に金利まで払っているのです。その金利を国債整理基金として管理していることの異常性に気づくべきです。
 この常識的なことがなぜ理解できないのか。私には不思議でなりません。国には、国債以外の資産も沢山ありますから、それらを加味すれば、日本の財政は、既に債務超過どころか、資産の方が多いくらいの超健全財政の国なのです。
 

外国人雇用は愚策

 蛇足ながら、ここで外国人労働者の雇用について付言します。わが国では15歳から65歳までの生産年齢人口が減少しているため、労働者が不足しています。このことはコンビニなどを見るとすぐに分かります。日本の周辺国からの若者を「外国人技能労働者」という名目で雇用しています。これは明らかに邪道、いや愚策です。
 今、労働者が不足しているからといって、こういう若年労働者を安い賃金で受け入れてしまうと、折角日本の賃金水準が上昇しようという大事な時期に、腰折れをしてしまうからです。しかも、長期的に見て、外国人労働者を大量に受け入れてしまうと、民族、宗教、言語、風俗習慣の違いから、社会的軋轢を生み、双方に大きな問題を抱え込むことになります。ヨーロッパ各国が抱える深刻な悩みを見れば一目瞭然です。相手の悪いところをはっきり指摘できない日本人と、それをする外国人、それだけでも軋轢の原因になります。そのような危険は事前に回避すべきなのです。
 人手不足だから仕方がないではないかという言い方もありますが、この場合は、労働市場の流動化と労働生産性の向上で対処しなければなりません。例えば、コンビニであれば、すでに一部の店でレジの完全自動化のシステムが稼働しています。このシステムを完成させ、全国のコンビニに普及させることにより、省力化は可能になります。

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 このシステム開発を民間企業で実施するのが難しいということであれば、これこそ国が開発して民間にその技術・ノウハウを提供してもいいんです。完全自動化すれば、大幅に人手はいらなくなりますし、コンビニ経営者も少ない労働者を高い時給で雇うこともできるようになります。高い時給をもらった若者は、消費に貢献するようになり、経済の好循環に寄与します。 
 ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏が述べていたことですが、彼の運営するIPS細胞研究所の職員は全員が非正規の職員だと言います。予算が確保できないからです。日本の基礎研究にかける予算の貧弱さは、これだけでも明らかです。基礎研究は、文字通り「投資」なんですから、思い切って国債発行をして予算を投入しても構わないんです。投資はリターンが見込めるからです。
 前述した完全自動化システムのような省力化技術は、我が国の労働者の労働生産性を高め、賃金水準の向上に寄与します。国が率先してこういう分野に「投資」してもいいんです。あと10年も待たず、スーパーのレジからパートタイムのおばさんの姿が消えると約束できます。ここでも人手は余ってくるんです。その昔、電話交換手なんていう職業がありました。女性の花型職業でした。今は、一切ありません。駅の改札口で鋏をパチパチ鳴らす駅員が大量にいました。今は、めったに見かけなくなりました。銀行だって、ネットバンキングの普及により、銀行の窓口に行く必要が少なくなりました。更に、銀行業界は、情報技術(IT)を活用した新たな金融サービス(フィンテック)の普及で、競争環境は激変しています。みずほFGはすでに1万9千人の人員を削減する計画であることが明らかになりました。他の銀行も、時代の流れは同じです。
 このように、さまざまな分野で技術開発が進むことにより、労働者が余ってくる分野も少なくないのです。労働市場の流動化は不可避なのです。その他、コンビニやスーパー業界、運送業界、建設業界、農業分野など、企業や国が投資すべき分野は沢山あります。
 台風や地震が来るたびに被害をもたらす脆弱な国土、これらも、もっともっと強靭化すべきなのではありませんか。自動運転技術なども、本当は日本が世界の最先端を進むべき分野です。この技術が高度に発展すれば、運送業界に革命をもたらし、限界集落と言われる地方の高齢者の福音ともなるはずです。もちろん、アクセルとブレーキの踏み間違いなんて問題も解消します。

経済発展がないことの弊害

 PBをきちんと守り、その結果、経済の発展がない場合、どのようなことになるのでしょうか。このことについて、京都大学の藤井聡教授は、次のようなことが起きると指摘しています。

藤井聡京大教授の指摘するPB黒字化論の7つの弊害

① デフレが続き、貧困・格差社会が拡大する
② 財政が悪化する
③ 産業競争力や労働生産性が低下する
④ 地方を衰退させる
⑤ 国防・防災力が下がる
⑥ 文化が衰弱する
⑦ 日本が後進国化する

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 正にその通りだと思います。財政健全化のためのPB論が、逆に財政悪化に貢献するのです。財政悪化は、さまざまな分野で問題を噴出させます。文字通り、日本を衰退させるのです。日本の経済が衰退することは、単に経済現象だけにとどまりません。経済の衰退は、国防や防災という国の安全保障問題にも深く関わっているのです。中国や北朝鮮の脅威は今更言うまでもないでしょう。核兵器を持った両国から脅しを受け、或いは侵略を受けても、自ら国を守ることさえできなくなるのです。
 経済力のない劣等国になった日本に対して、中国は尖閣列島はもちろんのこと、沖縄をも取りに来るでしょう。北朝鮮から拉致被害者を取り戻せないばかりでなく、核で脅しを受け続けることになるでしょう。経済力がないというのは、そういうことを意味するのです。小さくまとまっていればいいなんて、呑気なことを言っている場合ではないのです。

PBを言うならGDP比こそ本道

 財務省やマスコミ、それに経済学者がこぞってPB黒字化論を支持する中で、これに抗するのは大変です。しかし、私は、敢えてこれらの人達こそ間違っていると断言します。
 既にこのコーナーでも述べてきたことではありますが、日本の財政を見るときは、PBで見るのではなく、対GDP比で見るべきだと思います。GDPすなわち国民総生産は、1年間に国内で生み出された生産物やサービスの金額の総和です。
 これが増えるということは分配すべきパイが増えることと同じです。ですから、これを基準として、使うべきお金の量を決めるべきだ、というのは非常に筋の通った話なのです。
 そもそも世界で、PBなんていう基準を採用している国はありません。前述したとおり、竹中経済財政担当大臣が言い始めた概念であって、世界的な基準ではありません。世界は、すべて「対GDP比」で財政問題を考えているのです。なぜ日本だけがこんなヘンテコな基準に拘り続けるのでしょうか。それは、国民の側、強いて言えば、マスコミ人に大いに責任があります。PBという家計でしか通用しない基準を使う財務省に対してきちんと反論しないからです。
 マスコミ人として、多くの視聴者・読者を抱えているなら、せめて「なぜ家計と対比するのか。国の財政なら、せめてトヨタや新日鉄の貸借対照表と比べるべきではないか?」、「企業に連結決算の作成を強制している財務省が、なぜ国家予算については日銀などを含めた連結決算で財務内容を評価しないのか?」と問うべきです。
 そういう問いを発せずして、漫然とPB黒字化などという概念をまき散らすマスコミや経済評論家は、財務省と同罪というべきです。(H29・10・22記 衆議院選挙投票日に)

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