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働き方改革だけで経済は活性化できない

働き方改革だけで経済は活性化できない

働き方改革とは

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 政府が今国会の最重要課題と位置づける働き方改革関連法が参院本会議で、自民、公明両党と日本維新の会、希望の党などの賛成多数で可決、成立しました。
 古来、日本人は、働くこと=喜びと認識してきました。労働=苦役と認識する欧米式発想とは異なっているのです。その発想からすると、このように働き方を法律で定め、それに従うことを強制されることには素朴な抵抗感があります。どのように仕事をするかなんて、いちいちお上に言われてするものではない、という認識が日本人にはあるのです。
 それなのに、今、この日本で、どのように働くかを法律で定め、それを守らせようとするこの「働き方改革法」なるもの、一体、その意義はどこにあるのでしょうか。
 これまでの日本社会の労働環境は、①正社員、②終身雇用、③年功序列賃金体系、を基本としてきました。賃金も、新入社員の賃金と社長の賃金はせいぜい10倍程度の差しかない、賃金格差の少ない社会でした。
 私は、このような日本型の職場環境、労働環境は、誇るべきシステムであり、可能であるならば、このシステムを守ることが望ましい、とさえ考えています。なぜなら、このような労働環境は、日本の安定した社会を維持することに貢献してきたからです。
 ただ、現実に目を移せば、世界は日本を中心に回っているわけではありません。世界の中の日本の位置が、相対的に低下しつつある、という厳しい現実も踏まえる必要があります。日本型の職場環境、労働環境が、世界経済のグローバル化の流れの中で、次第に時代遅れのシステムになりつつあるのです。

下がり続ける日本の労働生産性

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 右の表でご覧いただけますように、1995年から2000年ごろまで、日本の労働生産性は、世界一を誇っていました。しかし、その生産性も、時代とともに低下を続けてきました。最新のデータによれば、就業者1人当たりでみた2016年の日本の労働生産性は、81,777ドル(834万円 /購買力平価換算)とされています。順位は、OECD加盟35カ国中21位です。 就業1時間当たりと同様、就業者1人当たりでみても、主要先進7カ国で最も低 い水準になっているのです。長時間労働や高品質なサービスを比較的安く提供していることなどが、低い生産性の要因だとされています。
 経産省は、日本のサービス業は、サービスの質に見合った価格設定ができていないことや、マーケティング・ブランドへの投資が少ないこと、業務効率化が目的の「守りのIT投資」が主流になっていること、高付加価値化を行う経営者が少ないこと、従業員への教育投資が低い水準にとどまっていること、などが原因であると分析しています。
 いずれにしろ、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)が減少し続けている日本で、労働生産性が低下する状態を放置してよいはずがありません。
 今回の働き方改革法は、経済をより一層活性化するため、労働者の働き方を見直し、労働生産性を高めていこうというものであることは間違いありません。その意味で、改革の方向性に関して異を唱えるものではありません。

働き方改革の骨子は

 今回の働き方改革法の骨子は、次の4つにポイントがある、とされています。

働き方改革の骨子

①残業の罰則付き上限規制
 原則、月45時間、年360時間まで。最長でも年720時間、月100時間未満が限度とすること。
②脱時間給(高度プロフェッショナル)制度の創設
 年収1,075万円以上(想定)の高収入の一部専門職を労働時間の規制から外すこと。
③同一労働同一賃金の実現
 正規・非正規社員の不合理な待遇差をなくし、差が生じる場合は、企業に説明責任をおわせること。
④インターバル制度を努力義務化
 退社してから次の出社まで一定の時間を空けること。

 1番目の罰則付き残業上限規制は、働けば働くほど賃金が増え、このため残業が慢性化してきた日本の労働慣行を見直す、というところがポイントです。事実上、青天井になっている残業を、原則「月45時間、年360時間」まで、と定めたのです。最長でも年720時間、繁忙期でも月100時間未満に抑える、というものです。残業好き(?)な日本人にとって、この規制による影響は大きいと見るべきでしょう。

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 2番目の脱時間給(高度プロフェッショナル)制度は、働いた時間ではなく、成果で評価して賃金を支払う、というものです。成果が問われる仕事ですから、成果が見えるような仕事でなければいけません。為替のディーラーなど高収入の専門職を想定しているものです。能力が高く、自分に自信のある人にとっては、好ましい制度と言うべきでしょう。この脱時間給を選んでも、後日、自分の意思で、離脱できるようになっています。
 3番目の同一労働、同一賃金は、非正規社員の処遇向上が目的です。非正規社員の待遇を正規社員と「均等」か「均衡」にすることを法律で義務付けたものです。待遇差が生じる場合、企業は説明する必要がある、とされています。この同一労働同一賃金は、理念は立派ですが、日本型賃金体系(年功序列賃金)に慣れ親しんだ日本の労働者にとって、かなり厳しい目標かもしれません。これを徹底していけば、中高年労働者の賃金引き下げという事態を招く可能性があるからです。中高年になり、子供の学費や住宅ローンで追われる年代で、賃金引き下げは厳しいでしょう。教育手当や住宅手当など、別途の救済制度が必要になるかもしれません。いずれにせよ、政府は、この同一労働、同一賃金を実現するため、指針(ガイドライン)を作ることになっています。
 4番目のインターバル制度は、勤務の終業時間と翌日開始の間を、一定時間空けることにより、休息時間を確保するというものです。これまでの日本における企業の労働時間は、労働基準法により労働時間そのものの上限が規制されています。しかし、いわゆる36協定に特別条項を設けることで、労働時間の限度を解除することが可能であり、長時間労働抑制の障害にもなっていました。
 最終電車で帰ったのに、通常の出勤時間に出てくる、というのでは健康への悪影響が避けられません。作業能率も落ちようというものです。この勤務間インターバル制度は、休息時間を一定時間確保することで、生産性を高める一方で、子育てや趣味の時間に充てられるようにしようというものです。実質的に労働時間を短縮させるという狙いもあります。
 EU諸国では既に導入されている制度です。1993年に制定されたEU労働時間指令では24時間につき最低連続11時間の休息をとることが定められています。厚労省の調査によれば、日本では、導入企業は僅か1.4%にとどまっています。大手飲料メーカー「アサヒグループホールディングス」や「三菱ケミカル」など、一部の企業が既に導入を決めています。

働き方改革は必要

 今回の働き方改革の狙いは、長時間労働に依存してきた戦後日本の雇用慣行を見直し、仕事の効率化を促すということです。すなわち、日本人の働き過ぎを是正する一方、仕事を効率的に処理し、日本の低い労働生産性を先進各国並みに高める、ということです。多様な人材が能力を発揮して、活躍できる環境を作る、ということでもあります。
 生産年齢人口が減少の一途を辿る中、社会・経済の活力を維持するためには、子育てや介護と仕事を両立できる働き方が求められています。また、私のような高齢者も含め、もっともっと労働市場に参加することが必要です。
 今回の改革によって、本当に日本の労働慣行が改善され、経済が活性化するのか。この点については、日本と対極にあるとみられる米国との比較が一番分かりやすいかもしれません。

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 米国は、労働市場の柔軟性・弾力性があります。具体的に言えば、①労働者の定年制がない、②首切りは自由、従って、③労働力の再配置が容易です。このような労働市場が柔軟な社会においては、ハイテク企業など、先進的技術を必要とする産業にとって有利です。新規開発分野における人材を、容易に調達することができるからです。米国が、ハイテク分野で断然世界市場をリードしているのは、そのような労働環境が背景にあると見ることができるでしょう。
 昨今のように、技術の進歩によって、2年から3年で仕事のやり方が変わってしまうような時代においては、日本型の年功序列賃金体系、首切りができない雇用体系では、米国に大きく出遅れてしまうのは、いわば当然の成り行きということもできます。
 もちろん、日本型の労働市場にも、捨てがたい魅力があります。安定した終身雇用と、年功序列制、そのうえ首切りの制限がある社会においては、安心して業務に打ち込むことができ、所属企業への忠誠心も醸成されます。日本の高度な技術力は、こうした安定した雇用環境から生み出された産物ということもできます。
 他方、前述したように、働きすぎと労働生産性の低さ、そして多くの非正規労働者が同居する現在の労働環境にも反省が必要です。経済発展の阻害要因になるばかりでなく、労働者にとっても、負の弊害が目立つようになってきたのです。早く帰りたいのに、同僚たちが残っているから帰れない、といった付き合い残業など、余りにも世界標準とズレています。少なくとも、職場に蔓延している、このような負の弊害だけは取り除くことが必要です。

厳しい労働環境になる側面も

 長時間労働の恒常化は、多様な人材の活躍を阻み、生産性を低下させてきました。過労自殺などの悲劇も招きました。低賃金で不安定な非正規雇用の拡大は、消費を低迷させ、少子化の要因にもなっています。研究開発など、働く時間と成果が一致しない仕事も増えました。残業時間が長いほど高賃金になる現行制度では、効率的に働く人が不利になってしまいます。職種を限り賃金と時間を切り離すことには、一定の合理性があります。

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 また、残業時間の制限は、企業に対して、効率的な仕事のあり方を命じているのと同じです。人工知能(AI)やあらゆるものがネットにつながるIOTの活用など、より一層の省力化、業務の効率化の努力が求められることになります。残業規制を乗り越えて、同等以上の成果を出すためには避けて通れない道です。
 同一労働同一賃金の推進は、正規職員だけでなく、非正規職員にも厳しい選択を迫ることになるでしょう。企業としては、同一賃金ならば、非正規職員を大幅に増やす方向に走るかもしれません。非正規職員も、正規職員並みの給料をもらう以上、軽易な単純作業に留まる自由は許されなくなるでしょう。そのような分野は、AIやIOTが代替してくれるはずだからです。
 いずれにしろ、今回の働き方改革によって、労働環境は大きく変わる可能性があります。能力の高い労働者にとっては改善と映り、余り能力のない労働者にとっては、厳しい改革とということになるかもしれません。
 いずれにしろ、前述したとおり、日本の労働生産性が年々下落してきたことは事実です。また、世界の技術革新力のランキングでも、日本は2007年の4位から10年間で14位まで下がったという事実もあります。もはや科学技術大国としての日本の存在感は、大幅に低下してしまったのです。そういう環境の中で、日本人の労働に対する意識を、大きく変えることはやむを得ないことなのです。

経済活性化には財政出動も必要

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 今回の働き方改革は、経済の活性化に必要という大命題が含まれています。その必要性を否定するつもりはありませんが、私は、かねてから、経済の活性化のためには、先ず、アベノミクスによる3本の矢をきちんと実行することが必要であると主張してきました。
 すなわち、黒田バズーカによる金融緩和だけに頼るのではなく、必要な財政出動と民間投資を刺激する成長戦略の後押しが欠かせません。
 この財政出動と成長戦略が十分になされた時にこそ、日本は、本来の労働生産性の向上と経済発展を実現できるのです。今回の働き方改革は、財政出動と成長戦略と同時並行で進められるならば、日本の経済は、大きく発展することが可能です。
 働き方改革だけに頼る、単発花火では、日本経済の発展は望むべくもありません。せっかく働き方の改革を実行しても、消費税増税を行ったり、プライマリーバランスなどという法律万能、高学歴バカの財務官僚が振り付けた財政均衡主義を実行していたなら、経済の発展など望むべくもありません。アクセルとブレーキを同時に踏み込んで、車が前に進むはずはないのです。このような普通の日本人が普通に分かることが、今の財務省には通じません。せめて経済学部出身の事務次官が当たり前になる、そういう組織が必要です。法学部出身の官僚が日本という国の財政を担うトップになることを何とも思わない、これこそが日本の七不思議と言うべきです。
 安倍総理には、何としてでも、最低限、消費増税は見送っていただきたい。本当は、消費税凍結どころか消費減税を行うべきところですが、財務省と国家観の全くない無知蒙昧な野党の反対で、実現は困難でしょう。今回の働き方改革に肉付けをする意味からも、せめて明確に『プライマリーバランス(基礎的財政収支)の旗を降ろす」ことを宣言することが求められていると思います。(H30・7・4記)

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