時事寸評 書評コーナー

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デジタル円の発行を急げ

デジタル円の発行を急げ

中国がデジタル人民元を開発中

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 今後の日本国の大事は何か。何といっても重要なテーマは、中国の脅威に対する防衛体制の確立です。中国という無法な覇権主義国家が世界に台頭すれば、世界は不信と怯えが蔓延する餓鬼の住む社会となります。
 中国の台頭を防ぐには軍事面と経済面での防御が必要です。軍事的な側面としては、クワッドすなわち日米豪印4か国による、非公式的な集団防衛体制をより強化する方向で進めていくべきです。今後は、ベトナムやフィリピン、インドネシアなど東南アジア諸国をも巻き込んだアジア版NATOを形成していくべきでしょう。
 私は、ここでは敢えて経済的側面からの防御について述べたいと思います。中国は、今、デジタル人民元の発行に向け、着々と準備を進めています。その狙いは何か。いうまでもなく、米国のドル支配体制からの脱却です。世界経済は、ドルの支配体制に組み込まれています。この体制内にいる以上、中国といえども、本気でアメリカと戦うことはできません。
 なぜなら、直接の軍事衝突が起きれば、アメリカは、90%以上の中国の貿易を止めることができるからです。米国は、「SWIFT」というドル決済システムの元締めだからです。中国が外国と貿易するとき、例えば、アルゼンチンから商品を輸入する際、輸入代金の支払いは人民元をドルに交換し、そのドルをアルゼンチン通貨のペソに変えて支払う必要があるからです。このドル交換システムは、世界のすべての国に共通のシステムで、日本も例外ではありません。この決済システムを握っていれば、マネーロンダリングなど、不正な送金などを監視することも可能になります。
 米中が戦争になれば、このドル決済システムから排除されてしまうので、中国は米国と直接戦うことはできないのです。現在、このドル決済システムから排除されているのはイランです。トランプ大統領による一方的な「核合意からの離脱」が原因です。イランによる核開発に対する制限に10年から15年という期限が設けられており、期限を過ぎれば、イランが核兵器の開発を進め、中東に軍拡競争の危機が迫ってくるのは“火を見るより明らかだ”というわけです。
 理由はともかく、アメリカは経済制裁として、イランがSWIFTを利用することを禁じました。このため、イランは、貿易においてドルとの交換ができないため、経済的に大きな打撃を受けているのです。
 中国は、アメリカに対抗するため、このようなアメリカ主導のドル決済システムから脱却すべく、デジタル人民元を発行しようと画策しているのです。中国がRCEPに加盟した最大の理由は、このデジタル人民元の普及拡大が目的ともいわれています。中国がデジタル人民元を発行すれば、これら加盟国に対し、貿易決済に際し、デジタル人民元の使用を求めることができるからです。TPPへの参加に意欲を示しているのも、全く同じ理由からです。
 中国は、デジタル人民元を発行すれば、「一帯一路」上にある国々に対しても、貿易決済はデジタル人民元で行うよう求めることになるでしょう。一帯一路、RCEPに続き、ユーロ各国に対してもデジタル人民元の使用を求めることになるのは必定です。もちろん、日本に対してもです。中国の強みは、何といっても14億の人口と、巨大な購買量、そして世界第二位の経済力です。
 従来のドル決済システムであるSWIFTから脱却することができれば、中国はより一層米国に対して強い立場を確保することが可能になるのです。

デジタル決済システムの利点

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 中国が進めようとしているデジタル人民元発行のメリットは何か。端的に言えば、異なる貨幣の交換レートが飛躍的に安くなる、ということです。前述したような人民元→米ドル→ペソというような変換を必要としません。直接人民元からペソに交換して支払うことが可能になります。手数料は劇的に安くなり、面倒な手続きも極めて簡易になります。双方にとって大きなメリットをもたらすのです。
 このように、デジタル通貨による決済システムは、早くて簡易で安価という三重のメリットがありますから、各国は、そのような決済システムができたなら、雪崩を打って、新システムに移行することになると予想されます。つまり、その瞬間にドルの支配体制が、一気に崩壊するということです。中国の狙いは正にそこにあります。

米国がデジタルドルを発行しない理由

 デジタル決済システムが早くて簡易で安価なシステムなら、米国自身が「デジタルドル」を発行したらよいではないか、という疑問が生じます。当然です。しかし、これは困難です。なぜなら、米国はこれまで構築したSWIFTという国際決済システムを保有し、このシステムを通じて、世界の貿易やマネーロンダリングなどの不正取引を監視するという役割を担ってきました。換言すれば、このシステムを使うことにより、世界に睨みをきかせてきたのです。しかも「平均で約7%」もの手数料が取れたのです。SWIFTを運営するだけで、世界貿易から7%づつピンハネすることができ、米国の覇権の基にもなっていたのです。
 それなのに新たにデジタルドルを発行すれば、取引の手数料はほぼゼロになり、取引の監視機能も大きく損なわれます。つまり、これまでの絶大な富と権力を放棄してしまうことになるのです。
 FBが発行しようとした「リブラ「」を必死になって抑え込んだのは、正にそのためです。FB側は、スポティファイ、ウーバー、ボーダフォンといった企業のほかNPOなど、21社が創立メンバーになっていますが、米国は、デジタル人民元が実用化されるなど、SWIFTが事実上機能不全になるまでリブラを認めることはないでしょう。この決済システムは、それほどに巨大な利権なのです。

中国が急ぐ理由

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 中国が世界に先駆けてデジタル人民元の構築を急いでいる理由は、米国のドル覇権を突き崩すばかりでなく、先行者利益を得ようとしているからです。世界に先駆けてデジタル人民元を発行すれば、東南アジアはもちろん、一帯一路沿線国、RCEP加盟国、アフリカ諸国、それにユーロ加盟国などを取り込む可能性が出てきます。中国は、それだけ貿易量が多いからです。
 米国がこの中国の意図を崩せるか、というとかなり難しいでしょう。なぜなら、デジタル社会は確実に浸透しており、社会のあらゆる分野でデジタル化は避けて通れないからです。デジタル化の波は押しとどめることなどできないのです。しかも、そのシステムになれば、早く安く簡便にできることは自明です。米国がいくら強権を使っても、この時代の流れを押しとどめることはできないのです。川の水を逆流させることなど、いかに大国と言えどもできないのです。

中国のウイークポイント

 ならば、デジタル人民元の発行は中国にとって、よいことばかりなのでしょうか。決してそうではありません。デジタル人民元ができると、中国の富裕層は、こぞって自分の保有する人民元をデジタル人民元にして保有することになるでしょう。そして、デジタル化した人民元を、ボタン一つで海外に送金してしまうでしょう。中国国内に資産を置いておくよりは、海外に置くほうがはるかに安全だからです。国内においておけば、いつ難癖をつけて没収されるか分かりません。安全な海外、特にタックスヘイブンの地に送金し、中国当局の監視から逃れることになるはずです。
 ここが中国政府の大きな悩みです。米国によるドル支配体制からの脱却を優先すべきなのか、人民元の海外流出を防止することを優先すべきなのか、二者択一を迫られるからです。中国政府が、一気呵成にデジタル人民元化を進められない悩みはそこにあります。

デジタル円の出番

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 このようなことを考えれば、国際決済システムとして一番有力なのはデジタル円なのではないでしょうか。
 日本は、米国や中国の抱えるような悩みが全くないからです。富裕層は海外に資金を逃がしたいと考える必要もないし、ドル決済システム(SWIFT)から脱却しても、何も困りません。むしろ、簡易で安価で迅速な送金のシステムができるんですから、日本としては大歓迎です。しかも、デジタル円による決済システムができれば、安価ではあるけれども、確実に手数料は入ってきます。微々たる手数料でも、世界貿易の総量を考えれば、1%程度の手数料でも、大変な金額になるはずです。
 例えば、2019年の世界貿易の金額を見てみましょう。ジェトロの推計値によれば、財貿易・名目輸出ベースで、18兆5047億ドルです。これでも前年比で2.9%の減少です。約18兆ドルの1割が日本のデジタル円を利用するとしても1.8兆ドル、つまり約180兆円レベルになります。手数料1%なら1.8兆円です。デジタル円の信用力の高さを考えるなら、1割しか利用しないということはないでしょう。最低でも貿易量の2~3割がデジタル円を利用するのではないでしょうか。つまり、3.6兆円から5.4兆円が、毎年、自動的な収入となり国家予算に組み込むことが可能となり、毎年ほぼ確実にその額は伸びていくということです。

米国の反発は

 最大の懸念は、米国の反発です。米国の既得権を犯すことになるからです。しかし、日本が動かなければ、中国は積極的に進出してくることは明らかですし、ユーロもじっとしてはいないでしょう。ならば、中立的で世界的にも信用の高い日本、それも国際通貨として強い円をもつ日本が、デジタル円を発行し、それを中心とした決済システムができるほうがはるかに良いということになるでしょう。
 デジタル化と言っても、そのシステムを運営する主体は必要です。世界の共通通貨を保有し、覇権主義の野心を持たない信用の高い日本が、デジタル円を中心にデジタル化を進めるのであれば、各国は喜んで、この決済システムに乗ってくるはずです。なぜなら、世界は、これまでの振舞いから、中国という国の人権無視、国際法無視、覇権主義といった共産主義の野蛮性を十分に知っています。中国は、外国と対立すると、即座に貿易を制限したり、人質をとったり、中国に進出した企業に乱暴狼藉を働き、謝罪も賠償もしない、という体質を世界は十分に知っています。そのような国の発行するデジタル通貨など使いたくないのです。国際間の約束を守り、信用の高い日本がデジタル円を発行する意味がそこにあるのです。

それでも米国は妨害するかも

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 それでも米国は大きな既得権を失うことになるので、デジタル円の発行に反対するかもしれません。
 その場合は、直接日本政府が出るのではなく、ベンチャー企業など、変化球で出る必要があるかもしれません。デジタル化の波は留めようがありませんから、さまざまなベンチャー企業がこの分野にも入り込みつつあります。
 その中で最大注目は、竹田恒泰氏が進めているデジタル通貨の両替システム「X-コイン」です。同氏は、すでにデジタル人民元を含め、世界各国の156の通貨を両替できるシステムを運営しており、この両替システムを活用すれば、貿易決済など、デジタル通貨と同様の運用ができる可能性があります。
 いかに米国と言えども、このような個人が運営する両替システムにまで口出しをすることは難しいでしょう。
 貿易決済は、異なる通貨同士の両替が基礎になっていますから、竹田氏の運営するX-コインは、デジタル円として、貿易決済にも活用で来るのではないでしょうか。このシステムを徐々に拡大して行き、将来的には、日本国が保証する通貨決済システムとして確立すれば、国際的な信用も高まり、かつ、塵も積もれば山となる手数料収入により、日本国の富も増大することになるでしょう。
 単なる両替システムから発展するためには、既にこのコーナーで取り上げた松田学氏の政府発行のデジタル円に移行すべきだと思います。松田学氏は、財務省のOBです。ですから財務省の意向を受けてこの検討を始めたのかと思いきや、決してそうではありません。むしろ、親元に弓を引いてでも、日本の国益のため、かなり早い段階から、この検討を始めたものと私は理解しています。

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 松田氏の基本思想は、次のようなものでした。
①デジタル円は日銀が発行するものではなく、「政府が発行する法定通貨」である。
②これにより、現在、日銀が保有する赤字国債を消すことができる
③デジタル円の管理を通じて、政府は膨大な情報を一元管理することができる
④機動的にデジタル円を発行できるため、必要なところに必要な資金が供給できるようになり、経済の発展に大きく貢献する。
⑤国民にとっても、公共サービスへのアクセスが容易になる、手続きも簡素化される、本人認証も容易になる、などのメリットが生じる。もちろん、振込手数料などの費用も安くなる。
 このようないいことづくめの方式なのです。しかも、日本の信用力を生かし、毎年、確実に巨大な利益をもたらす通貨の決済システム。このような新方式こそ、新たに発足したデジタル庁が本格的に取り組むべき課題なのではないではないでしょうか。これを実現したら、菅政権への支持は、圧倒的に高まることでしょう。
 もっとも、いいことばかりではありません。このような国際決済システムが運用されることになれば、日本の銀行システムは、壊滅的は打撃を受けることは間違いありません。お金の決済が、銀行を通さず、瞬時にできてしまうんですから当然です。
 しかし、それも時の流れです。嘗ていた電話交換手や駅の改札口で切符に鋏を入れていた駅員がいなくなったのと同じ時代の変化です。大きな時代の流れに逆らうことなど、誰にもできないのです。(R3・1・11記)

▶▶▶松田学氏の動画→こちらから

▶▶▶アメリカは具体的にどのように世界中のマネーを吸い上げているのか

▶▶▶竹田恒泰:『金』始めました。~XCOIN、日本発の世界中央銀行

▶▶▶『Xコインが習近平を抜いた!? 日本発のデジタル通貨基盤になるか』ゲスト:作家 竹田恒泰氏

<後日記>

 この記事を書いた後、デジタル人民元の発行を恐れる必要はない、との記事を発見しました。令和4年月刊Hanada3月号に掲載された「デジタル人民元脅威論者たちの罠」というタイトルの記事です。著者は金融評論家と称するペンネーム「新宿会計士」という人物です。
 氏は、脅威論者は「人民元自体が国際的な資本取引における通貨としての使用に耐えうるものではないということを無視している」という点で話にならない、と述べ、更に、「デジタル人民元という便利な支払い手段が世界に普及すれば、そのこと自体が米国の金融覇権を揺るがすことになるといった単純な論調のものが非常に多い。」と述べています。
 そして、「国際的な資本市場などで、人民元そのものの使い勝手が非常に悪いという現状が変わらない限り、人民元を使って取引をしようとする機運が高まることは決してない」と断言しています。
なるほど、そうかもしれない、そうあってほしいと思います。
 氏は更に、「国際トリレンマ」という概念があって、「資本移動の自由」が絶対的に保証されていなければならず、中国はこれが実現できないからデジタル人民元が国際的に通用することにはならない、と結論づけています。
 因みに、「国際トリレンマ」とは、国際収支均衡論上、①「資本移動の自由」②金融政策の独立」③為替相場の安定」という3つの政策目標を同時に達成することは不可能である、という有名な命題だ、ということです。
 日本や米、英などは、この三つのうち、①②を達成しているため、③を捨てている。中国の場合は、③の資本移動の自由を保証しておらず、為替相場の安定を捨ててまで「資本移動の自由」を推進するとは考えられない、ということです。
 いずれにしろ、この結論には安心しました。覇権主義、自国民虐殺国家が、世界を支配するようなことだけはご免こうむりたいものです。(R4・2・22記)

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