食料の安定確保こそ国の基本
食料の安定確保こそ国の基本
食とエネルギー確保は最重要の国策
「台湾有事は日本有事」とは故安倍晋三元総理の有名な言葉です。その台湾有事は、近い将来、あるのかないのか。愚かな習近平が中国共産党を支配する限り、経済は極端に落ち込み、軍事力増強にも限界があります。強権的支配に反発する国民も少なくないはずです。
したがって、客観的情勢としては、中国が軍事力で台湾に侵攻する可能性は低いと考えますが、逆に、独裁者が愚かであるからこそ、国民の不満を外に向けるという事態がないとは断言できません。直接、軍事行動を起こさないまま、つまり一発の銃弾も撃たないまま、「台湾周辺を軍艦で包囲し、干しあげ降参させる」、といった方法も可能だからです。豊臣秀吉が備中高松城を攻めたときの戦法です。
その時、日本は、台湾海峡やバシー海峡の封鎖という事態を覚悟する必要があります。これら両海峡封鎖という事態が生じたとき、日本は食料とエネルギーの確保のため、大混乱が生じることになるでしょう。オイルショック以上の緊急事態を覚悟する必要があります。オイルショックは一過性の現象でしたが、台湾封鎖という事態になれば、数年に亘る長期戦も覚悟しなければなりません。
つまり、非常時においては、いくらお金があってもほとんど無意味です。「食とエネルギー」は、「国民の生存のため」自国内で確保する覚悟が必要なのです。
食の確保をどうするか
エネルギー問題については、別の機会に述べることとし、ここでは「食の確保」にのみスポットを当てて考えてみたいと思います。
かねてから日本の農業は衰退産業と言われてきました。その原因は、農業従事者の高齢化とそれによる農業従事者の減少、それに耕作放棄地の増加などが主な原因とされています。高齢化の問題は、農業だけの問題ではなく、あらゆる産業に共通の問題でもあります。高齢者が多くなれば農業従事者が減っていくのは当然です。そして、このような人口問題に依拠する事柄は、数十年も前から分かっていたことです。なぜなら人口の推移ほど、明白に将来を推計できる統計はないからです。
耕作放棄地の増加も、農業従事者の高齢化とそれに伴う農業人口の減少を考えれば、増加することは必然だったと言えます。つまり、農業に関する問題点は、最初から予測のできた問題ばかりであり、あらかじめ適切な対策を講じておけば、対処できた問題ばかりなのです。
このことを一言で表現するならば、政府およびこれまで農業を所管してきた農林水産省の無策にこそ、その根本原因があると言っても過言ではありません。
農家は多ければよいのか
先ず、第一の問題として、農業は、農業従事者の数が多ければよいのか、という問題があります。限られた農地面積しかない日本にとって、農業従事者の数が多ければ多いほど良い、というのは誤りです。むしろ、一定の農地を耕作するには、むしろ少ない農家によって耕作する方が合理的です。一農家当たりの農地面積が増えるからです。一農家当たりの耕作可能面積が増えれば、必然的に、農業の合理化・大規模化へと進んでいかなければなりません。
つまり、日本の農業を発展させるためには、「農業従事者の数は少なければ少ないほど良い」ともいえるのです。このことから、農業従事者の高齢化と農業従事者の減少は、日本農業にとって歓迎すべきことと言うこともできるのです。
このことは、「農業大国オランダ」の例を見れば明らかです。オランダのチューリップ栽培に見られるように、農業人口の減少を経営の合理化、大規模化によって見事に乗り切ってきました。よって、農業の活性化を図るならば、農業人口の減少を嘆くのではなく、農地の大規模化や地域の気候や地理的条件などから最適な農産品を見極め、それを普及・拡大するといった施策が必要になるでしょう。
日本には海外が欲する農産品が多い
日本には、海外の人々が欲する農産品が数多くあります。イチゴやミカン、サクランボ、リンゴ、ブドウ、梨など、日本産の農産品は海外から高く評価されています。また、日本酒や焼酎、お茶、和牛なども高い評価を受けています。お米だって、単に米として輸出しなくとも、パンや麵など幅広い料理に活用できるノングルテン食材として海外に輸出することが可能です。国産の米粉は時間が経ってもぱさぱさしないし、腹持ちもいい。小麦アレルギーの子にも良い。円安が進み、輸送費用も高騰している今こそ、日本の米粉を世界に輸出すべきです。有事の時には、その輸出分を国内消費に回せばよいだけのことです。
日本の農産品の価格競争力には、十分に自信を持ってよいのです。例えば、ミカンです。嘗てグレープフルーツが輸入されることになった時、大きなグレープフルーツが輸入されれば、日本のミカンなどひとたまりもない、と農協は猛烈に反対しました。しかし、その後の経過を見れば、ミカンは淘汰されていません。逆に、年間83万トンも輸出できるようになったのです。
このように、日本から輸出できる農産品の種類は極めて多岐にわたっています。これらの農産品を気候や地形など、地域の特性を活かしながら生産量を増やし、輸出するというのは、食糧の安全保障という観点からも有益です。
なぜなら、輸出できる余力があるということは、いざという時には、すべてを国内消費に回し、輸出を制限すればよいからです。ないものを国内消費に回すことはできないのです。
耕作放棄地の問題
第二に、耕作放棄地の増加の問題です。この耕作放棄地の面積は、埼玉県や滋賀県の面積にも相当する42万haにも達しているとされています。なぜこれほどに耕作放棄地が増えたのか。その原因は、やはり農業従事者の高齢化です。農水省が発表している農業林業センサスによると、基幹的農業従事者の平均年齢は2010年には65.8歳でしたが、2020年には67.8歳になっています。その間に農家の戸数も減っています。
要するに、農家の戸数も農業従事者も減少の一途をたどっており、その中で耕作放棄地も増加してきたのです。
このことは何を意味するのか。農地の集約化が可能な状況が生じたということです。既存の農家で大規模化を志向する農家にとってまたとないチャンスが生じたということです。ただ、農地の大規模化は、既存の農家のみに期待すべきではありません。農業を産業として経営したいという非農業従事者の参入を容易にしなければなりません。そのためには、農地の売買を極端に規制している農地法の抜本改正が必要になります。
現在の農地法は、農地の購入者を既存の農業者か農地所有者の相続人に限定するなど、余りにも旧式の法制度に縛られています。終戦後に作られた農地法が今でも残っているのです。
この農地法が、意欲と能力のある若者の参入を極端に制限しています。この旧来の法制度を抜本的に見直すのでなければ、非常時における食料不足に対応することなど到底できません。これこそ正しく政治の出番なのです。
スマート農業の活用
食糧の安全保障を確保するためには、スマート農業を推進することも必要です。スマート農業とは、ITやロボットといった先端技術を駆使した農機の活用などにより、人手がかからないようにして生産性を高める農業のことです。
ITやロボットを活用するためには、ロボットが活用しやすいように農場を作り変えるということも必要になります。せっかく最新式の農業用ロボットを導入しても、木や枝が邪魔をして作業ができないというのでは意味がありません。また狭隘な田畑では、先端技術を駆使したロボットの活用も困難です。
また、これらのロボットなど、先進的な機械も、農作物の種類に応じて改変することが必要です。しかし、この点に関しての心配はないでしょう。日本の農機具メーカーは、ある程度まとまった生産量が確保できるなら、品質の良い機械を製造する技術的能力は十分にあるからです。
国もこのスマート農業を推進するため、令和6年にスマート農業法を成立させ、全面的に支援する体制を整備しました。
植物工場を産業として発展させよ
安全保障の観点から、また自給率を高める観点からも「植物工場」の育成は重要です。植物工場は、場所や季節を選ばず、効率的に農産物を生産することが可能だからです。
植物工場は、農作物を育てるのに適した温度や湿度を管理するため、ITなど先進技術を活用することで、人の手が十分でなくとも野菜を育てられるとして、大いに注目されてきました。
もちろん、植物工場にも、さまざまは問題があるということも指摘されています。
日本施設園芸協会の調査によると、大規模施設園芸と植物工場の事業者の49%が赤字経営となっているというのです。その理由は、ノウハウが確立されていない、安定生産が難しい、販売先が開拓できない、採算が合わない、といった課題があるとされているからです。
しかし、これらの課題も、すべてのシステムがそうであるように、揺籃期には生じうる問題です。安定生産が難しい、販売先が開拓できない、採算が合わない、といった問題は、既に販路を持つ大手スーパーなどが直接植物工場を運営すれば、解決可能でしょう。
ノウハウが確立していない、と言った問題は、農林水産政策研究所、農業・食品産業技術総合研究機構など国の研究機関、それに各都道府県の農業試験場や農業研究センターなど、多くの研究機関の出番です。これらは農業を支援するために作られた機関なのではありませんか。官民が力を合わせて日本の農業の活性化に取り組むべきです。
ただ、このような環境下にあっても、農業分野における外国人労働者の雇用に関しては慎重であるべきです。多くの外国人との共存は、既にアメリカやヨーロッパなど、先進諸国がこの問題で非常に苦しんでおり、長期的に見て、社会の混乱と経済的なコストを増幅させる要因になりかねないからです。
空き家を潰し家庭菜園に転換を
総務省の調査によれば、2023年における日本の空き家は900万戸あるとされています。そのうち、賃貸や売却用、別荘用地など、使用の用途が明らかなものを除いた未利用空き家は385万戸ある、とされています。総住宅戸数の5.9%です。
このうち一戸建て住宅の戸数は、2021年現在で611,880戸です。全国で61万戸の戸建て住宅が空き家のまま放置されているのです。
この戸建て空き家を、農産物自給のために、有効に活用できないものかと思うのは、自然な発想です。
現在の法制度の下では、空き家を取り壊さず、放置しておく方が固定資産税が安いなど、経済的メリットがあるため放置されています。更地にしたほうが税金が高いのです。
ですから、空き家を更地にし、隣接地所有者に譲渡した場合には、大幅に減税することとすれば、空き家の多くで更地化が進むはずです。「隣接地」としたのは、隣接地所有者こそが最有効に土地を活用できるからです。多くの戸建て所有者は、「本当はナスやキュウリ、トマト、ゴーヤなど、面積が小さくても耕作できる土地がほしいな、と思いつつも、それが叶わないというのが現実です。その小さな夢を叶え、日本の食糧事情に貢献できるというのは素晴らしいことです。有事の際に、小さな畑でも、どれほど心強いかわかりません。
自分の所有地であれば、文字通りマメに手を入れて耕作するでしょう。畑仕事などまっぴらというなら、その土地を購入しなければいいだけのことです。有事や食料不足が生じたような場合には、これら増加した土地で、必要最小限の野菜などは収穫できるはずです。
私も、僅か3坪ほどの土地にキュウリやミニトマト、ゴーヤ、玉ねぎなどを栽培しています。キュウリやゴーヤは縦に伸びるから、狭隘地には適しているんです。玉ねぎは狭い土地には不向きですが、長期保存ができるメリットがあるので無理して作っています。市販品の半分程度の大きさにしかなりませんが、結構重宝しています。これに10坪ほどの土地が加われば、老後生活はルンルンなんですがね~(^▽^)
種の確保も重要
農産品の確保を図るためには、種の確保も重要です。日本には農産品の種子を守るため、種子法(主要農産物種子法)という法律がありました。「主要農作物であるコメや大豆、麦など野菜を除いた種子の安定的生産及び普及を促進するために制定された法律です。しかし、この法律は、既にその役割を終えたとして、2017年に廃止されてしまいました。グローバル化という時代の潮流に合わない、というわけです。
廃止当時、私は、グローバル化という概念そのものに反対する立場から、この種子法廃止には反対でした。しかし、米国や穀物メジャーの圧力によって、廃止を余儀なくされたのです。
しかし、今、野党などの議員によって「ローカルフード法」が提案されています。在来種のタネが減り続ける中、地域で長年にわたり栽培されてきた地域在来品種のタネを守り、持続可能な地域の食システムを導入することで、生産者や子どもたちの命と健康を守ることを目指す」というものです。
この法案は、廃止された種子法と同根の法案であり、東京大学農学部の鈴木宣弘教授や国際ジャーナリストの堤未果氏などが賛同し、成立を支援しています。私もその実現に期待する者の一人です。
自治体条例で対抗することも可能
かねてから日本は水と安全はただ、と言われてきました。これに加えて食品も比較的安全と言われてきました。しかし最近、この食品も必ずしも安全とは言えなくなってきました。アメリカの食品メジャーによって、食品に関するさまざまな表示基準が撤廃や変更が余儀なくされてきたからです。
国の安全保障という最も根幹の部分をアメリカに依存しているため、言うことを聞かざるを得ない、という弱みがあるのです。先に挙げたグレープフルーツなども、その一例です。
遺伝子組み換えの種子や作物など、日本はこれまで輸入規制をしてきました。しかし、これもアメリカ政府の圧力により規制撤廃を強いられました。このため味噌、醤油、豆腐など日本食の基礎である大豆も9割が輸入という有様です。しかもその輸入大豆の8割は遺伝子組み換えです。
ただこの点に関しては救いもあります。条例によって遺伝子組み換え食品の栽培を規制することが可能なのです。今治市が実際にこの条例を制定し、遺伝子組み換え作物の栽培そのものを許可制にしているのです。
種子と一緒に売られる農薬についても同様の問題があります。農薬は、一度これに頼ってしまうと、ほかの農薬は使えなくなり、土地もどんどんやせ細っていくとされています。一度農薬を使うと、翌年には効果が弱くなる。よって更に強いお農薬を使わなければならなくなる。当然、その農薬もアメリカから買わなければならなくなる。抗生物質耐性と同じ原理です。
ヘンリーキッシンジャーは「食を支配すればその国の民をコントロールできる」と述べたとされています。今の日本は、正にこの状態になりつつあるのです。日本農業は、完全に「カモ」にされているのです。自国の安全を他国に依存している「ツケ」を払わされている、と言っても過言ではありません。不当な要求だと分かっていても、言外に「いざ有事の時、守ってやらないぞ」という脅しを感じてしまうのです。この意味でも、日本は、食の安全保障を確立する観点からも、国の安全保障について他国に依存しない確固とした防衛体制を確立する必要があるのではないでしょうか。食の安全保障と国の安全保障は、表裏一体、一体不可分なのです。(R6・7・22記)
<参考動画>
▶▶▶【食の危機】食料自給率38%はウソ?日本の農業政策はどこがダメ?謎の減反政策 坂口孝則×堤未果が徹底討論
▶▶▶日本の食糧自給率が低い?全ては農水省&既得権に原因が!(高橋洋一)
▶▶▶【食料自給率わずか10%】飢える日本を大激論!中国の輸出規制&大量買いで窮地
▶▶▶『待ったなし!日本の食の危機とは? ~日本の食料自給率はホントは10%!?~』ゲスト:東京大学農学部教授 鈴木宣弘氏
▶▶▶鈴木宣弘先生(東京大学大学院教授)に“食料安全保障”について教えてもらいました!
▶▶▶イシバチャンネル第百三十九弾「食料自給率」について
▶▶▶【食糧危機】日本の食が危ない?日本の食料自給率の実態とは
▶▶▶【食料危機】日本の食料自給率がなぜここまで低くなってしまったのか、その原因と国の政策についてお話しします
▶▶▶【食の危機】食料自給率38%はウソ?日本の農業政策はどこがダメ?謎の減反政策 坂口孝則×堤未果が徹底討論【ボイメン本田の激論コロシアム】
▶▶▶「牛乳の大量廃棄」「牛の薬殺」「歴史的な飼料高騰」"酪農家の85%が赤字"の状況をどう乗り切る?元・農水省の専門家2人が徹底議論。しかし意見は真っ二つに
▶▶▶山田孝之「人じゃなく地球のペースに合わせる 原点回帰から生きる意味を見つめ直す」
<参考図書>
▶▶▶ヤバい”食”潰される”農”(堤未果・藤井聡)ビジネス社
a:202 t:1 y:0