外務省職員は山上信吾著「日本外交の劣化」を熟読せよ
外務省職員は山上信吾著「日本外交の劣化」を熟読せよ
慰安婦問題に見る日本外交の弱さ
多くの日本人は、日本の外交政策、いや、外交力に対して大きな不満を抱いているのではないでしょうか。その不満の根源は政治家によるものなのか、外務省によるものなのか、いずれとも判定しがたいものですが、少なくとも外交力の弱さにイライラ感が募っていることは間違いありません。
例えば、慰安婦問題です。慰安婦問題とは、日本帝国陸軍が韓国済州島から泣き叫んで嫌がる女性たちを調達し、慰安婦として働かせた、というものです。これは真っ赤な嘘で、戦後38年も経過した1983年に、吉田清治という人物が刊行した「私の戦争犯罪」という著書にそのような創作劇(作り話)が記されていたのが原因となったものでした。しかし、当時の朝日新聞や毎日新聞など、日本の左翼メディアはこれを大きく取り上げたことから、国際メディアの関心を集めることになり、大きな外交問題に発展してしまったというものです。
多くの婦女子を「慰安婦狩り」と称して拉致したのであれば、済州島というさほど大きくない島なら大問題になり、終戦直後からすぐに外交問題になっていたはずです。こんな重大事を地元民が忘れるはずはないからです。しかし、地元の「済州新聞」でさえ、当時は吉田の著述を「でたらめだ」と一蹴し、「この本は日本人の悪徳ぶりを示す軽薄な商魂の産物と思われる」と憤慨していたという代物なのです。その後、日本のテレビ局が現地に赴き、各地で取材して回るも、誰も「そのような話は聞いたことがない」という反応だったのです。
つまり、被害者である地元でさえ、全く問題視されなかったことを、さも事実であったかのように、火をつける左翼メディアに大きな原因があったことは確かです。ですから最大の犯人は、左翼メディであることは間違いありません。が、日本の外交力の弱さにも原因があったと言ってよいでしょう。事実と異なることを、理路整然、敢然と否定する外交力の不足が、問題を大きくしてしまったのです。
こういう弱気な日本外交に韓国がつけ入り、「性奴隷にした」などと喧伝したのです。そもそも反日教育を行っている韓国にとって、事実なんてどうでもいいんです。非難し、お金を取れればそれでいいんです。日本政府や外交の弱腰を見抜いた韓国は、日本大使館前に慰安婦像を建て、さらに韓国国内ばかりか、米国、カナダ、豪州、中国、台湾、ドイツなど、世界各地に慰安婦像が乱立する事態となってしまったのです。本来なら、大使館前に慰安婦像を建てた時点で、ウイーン条約に違反するとして、大使を引き上げるべきでした。国交断絶も辞さない、という強い姿勢を見せるべきだったのです。
断固とした姿勢を見せなかったため、一個人の全く事実に反する「作り話」に日本中が振り回され、国際的にも屈辱的な非難を浴びることになってしまったのです。
しかも、驚いたことに、政府は「当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧等による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」とする、いわゆる「河野談話」なるものを発出したのです。内閣官房長官がこのような談話を発表したとなれば、「なかった」ことが「あった」ことになるのは必然です。
しかし、日本人の多くは、こんなことはあり得ない、余りにも馬鹿々々しいと思っていました。この談話が発表されたのは1993年、当時は、まだ戦後48年です。戦地に行っていた元軍人達も数多く生存していた時期です。彼らの多くも、憤懣やるかたなくこれらの動静を見ていたはずです。
どうしてこんな馬鹿々々しいことが起きるのか。一体、日本の外交はどうなっているのか。国民は、煮え湯を飲まされるような思いで、この問題を見つめていました。
徴用工問題も同根
このような煮え湯を飲まされるような事案は、そのほかにもたびたび起きています。徴用工問題然り、南京事件問題然り、軍艦島問題然り、佐渡金山問題然り、です。すべて歴史の事実に照らせば、韓国側の主張はおかしい。なかったことをあったことにする、という点では全く同根なのです。
これらの問題について、日本政府や外務省は、きちんと反論してこなかったばかりか、河野談話や村山談話に頼り切り、「日本政府がきちんと謝罪しています、反省しています」という姿勢を取り、毅然とした態度で反論してこなかったのです。
これでは多くの国民にイライラ感が募るのは当然です。著者も、私たちと同じ目線でイライラ感を募らせ、「外務省よ立て!」と怒っているのです。
あまりにも柔すぎる外務省
本著「日本外交の劣化」は、日本の外交政策とその実行における問題点を鋭く指摘し、その改善策を提案しています。著者は、日本外交の現状を「劣化」と断じ、その原因を、ロビイング力の不足、対外発信力の弱さ、歴史問題への事なかれ主義、外務省の地盤沈下など、多岐にわたる要因に求めています。
著者は外務本省で経済局長を務め、豪大使を歴任するなど、外務省の本流を歩いてきた人物です。そのキャリア官僚が、外務省の実態を実名まで上げ、つぶさに語り非難しているのです。
著者は、全編にわたり、日本の外交が直面している現状と課題を明確に描き出しています。彼は、日本が国際社会で影響力を行使するためには、より効果的なロビイングと対外発信が不可欠であると強調しています。また、外交政策の決定過程における透明性の欠如や、内向き志向の強い人事制度が問題を深刻化させているとも指摘しています。
なお、本著では直接触れられていませんが、多くの国民は、靖国参拝問題でも苛立つています。国のために尊い命を捧げた御霊に対して、尊崇の念を表すのは世界どこの国も共通です。そのことを非難する中国や韓国に対して、怒りを禁じえません。
毅然と反論する国会議員が余りにも少ないのです。また、外務省もこれら両国に対して、毅然と反論する姿を見たことがありません。これら反日国は「A級戦犯が合祀されているから」なんて理屈をつけていますが、後付けの理由であることは明らかです。
そもそもA級戦犯とかB級戦犯という格付けは戦勝国が勝手につけた呼称であり、日本国家としてはそのような格付けを受け入れたことは一切ありません。それを言うなら、東京を始め、全国の主要都市を対象に、爆撃機により、非戦闘員を無差別に殺傷した行為こそA級戦犯に当たるのではないか。ましてや原爆という超ド級の破壊力のある核兵器により、瞬時に数十万人の非戦闘員を殺傷した米国の行為こそ、A級戦犯に該当するのではありませんか。
また、敗戦国の憲法原案を僅か1週間という短時日で作成し、それを受け入れるよう強要したり、7764冊に及ぶ書籍を焚書として処分したり、市民の文書通信まで開封し検閲した行為こそ国際法違反であり、A級戦犯に該当するのではありませんか。外務省は、「A級戦犯とはどのような行為を言うのか」「日本では善人も悪人も死ねば皆同じ仏になるのだ」と世界に向かって反論するくらいの元気、いや筋論があってもよいのではないでしょうか。
日本外交の現状と課題
著者は、日本の外交が直面している現状と課題を明確に描き出しています。前述したように、彼は、日本が国際社会で影響力を行使するためには、より効果的なロビイングと対外発信が不可欠であると強調しています。また、外交政策の決定過程における透明性の欠如や、内向き志向の強い人事制度が問題を深刻化させているとも指摘しています。
中国や韓国など反日国家の攻勢に対し、毅然と反発し説得できない外交力の弱さも指摘しています。慰安婦問題や徴用工問題等々、言いがかりとしか思えない問題に、毅然とした態度で反撃しないからこそ、益々増長させてしまうのだということが分かっていないのではないでしょうか。
個人間のいじめも国際間のいじめも、基本は同じです。言うべきことを言わない弱腰の国が、益々いじめの対象になるのです。
再生への道
本書では、外交官としての矜持とプロフェッショナリズムが何であるべきかについても論じられています。著者は、外交官が国家の利益を最優先に考え、時には厳しい現実と向き合いながらも、その使命に忠実であるべきだと述べています。
著者は日本外交の再生に向けた道筋を提示しています。彼は、外交政策の根本的な見直しと、外交官の資質向上を通じて、日本が国際社会での地位を回復することが可能であると説いています。この部分では、具体的な改善策として、外交官の教育と訓練の強化、歴史問題への真摯な対応、そして国際社会における日本の役割の再定義が求められています。
本書は、日本の外交政策に対する深い洞察と、それを取り巻く諸問題に対する鋭い批評を提供する一冊です。外交官としての長年の経験に基づく著者の視点は、日本外交の現状を理解し、その改善に向けた議論を深めるための重要な資料となるものです。
外務省職員は、是非本書を熟読玩味し、日本を強く世界に誇れる国になるよう、研鑽して頂きたいものです。(R6・8・22記)
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▶▶▶日本の弱腰外交三つの要因(山上信吾×石平)月刊Hanada9月号286頁
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