時事寸評 書評コーナー

welcome to shimada's homepage

トランプ・ゼレンスキ―会談への異論

トランプ・ゼレンスキ―会談への異論

激しい応酬

 2月28日、トランプ大統領とウクライナのゼレンスキ―大統領の会談が行われました。会談の模様は日本人の多くの人が視聴したでしょう。ですから、その会談の模様はここで再現する必要はないでしょう。要するに、口角泡を飛ばす勢いで応酬がなされ、会談は決裂。予定されていた鉱物資源の採掘権に関する署名はもちろん、ランチミーティングもご破算になりました。算盤で言うところの「ご破算に願いましては~」という感じです。

トランプとゼレン

 この会談に関する一般的な見解は、自由主義陣営の頭目であるアメリカが、ロシアの「力による現状変更」を容認し、あげく、鉱物資源の利権まで寄こせと言うのは悪辣に過ぎる。侵略者はロシアであり、ロシアこそが糾弾されるべきなのだ、という意見が支配的であるように見えます。
 確かにそれは正論です。「力による現状変更」を容認するならば、今後、中国が台湾進攻を強行した場合、悪しき前例となることは明らかだからです。ですから、アメリカの本音は、ロシアの侵略行為は許しがたい。しかし、ロシアを侵略者として非難し続けた場合、このロシア・ウクライナ戦争の終結は見通せない。当然、今後も多くの犠牲者が出続けることになる。
 ならば、米欧がウクライナに加勢し、直接ロシアに対して軍事攻撃をするのか、となれば、それもありえない。他方、ノーベル平和賞受賞を欲するトランプは、戦争継続を望まないし、戦争当事者にもなりたくない。トランプとしては、平和裏に戦争を止めさせるにはどうすればよいか、ということを考えたことでしょう。

ゼレンスキ―の願いは安全保障

 一方、ゼレンスキ―の最大の願いは、国の安全保障です。停戦又は終戦後、国の安全が保障されるのでなければ、絶対に停戦、終戦には応じられません。一時的に停戦し、態勢を立て直して再度侵略してくるということも十分に想定されるからです。
 では、ウクライナが停戦をうけいれられる条件は何か。それは「NATOへの加盟実現」か「核兵器の保有」です。ロシアはこれらのいずれの条件も飲まないでしょう。
 停戦に伴い平和維持の名目で米欧軍がウクライナに駐留する案も出ていますが、ロシアは絶対に認めない。緩衝地帯が全くなくなってしまうからです。

鉱物資源協定案は解決のウルトラC

 そう考えてくると、このウクライナ戦争の解決は極めて難しいということが理解できるでしょう。しかし、このまま推移すれば、米が手を引き、NATO軍が進出してくるとなれば、第3次世界大戦の可能性も実現性を帯びてくる。核を保有した国同士の戦争です。トランプがゼレンスキ―に放った「第三次世界大戦の瀬戸際にいるんだぞ」という言葉は、そのあたりの客観情勢を理解したうえでの言葉なのです。
 そのような事態を回避するためにはどうすればよいか。トランプの提案した「米国の拠出した金額に見合う鉱物資源をよこせ」、というのは案外、理にかなっているのかもしれません。トランプ提案は、窮地に陥ったウクライナの弱みに付け込んだ、暴力団、いや「いかさま師」の所業に似て、案外筋の通った現実的な解決案なのではないか、と思えてくるのです。

愚かな存在

 なぜなら、ウクライナ国内にある鉱物資源は、国内に約8000か所あります。これらの鉱物には、マンガン、ニッケル、チタン、ウランなどのほか、鉄、金、石油、石炭、ガスなど豊富な鉱物資源が埋蔵されているとされています。
 これを米国と共同開発しようというのです。アメリカは、このウクライナ戦争で既に3,500億ドルの支援をしています。ディールを得意とするトランプの立場からすれば、「見返りをよこせ」というのは、もっともな要求でもあります。
 米・ウクライナの協定により、米とウクライナの民間企業が「共同開発」する、ということになれば、アメリカの民間事業者がウクライナ各地に出張ることになります。そう、8000か所の採掘現場にです。
 そうなったとき、ロシアは、アメリカ人労働者が各地で採掘作業している中に、ミサイルを撃ち込んだりできるでしょうか。この採掘権は、米とウクライナが政府レベルで協定を結んだものであり、実質、国営事業に近い。そこで働くアメリカの民間人にミサイルを向けることなど、米ロ戦争の覚悟がなければ、不可能です。しかも、鉱物資源開発は、10年や20年で完了するものではありません。何十年もの長期に亘って採掘されることになるでしょう。
 つまり、これこそが、実質的にウクライナ戦争を終結させ、かつ、将来にわたって、ウクライナの安全保障を確保するための有効な手段なのです。その間に、ウクライナは核開発を急ぎ、核戦力を備えることも可能でしょう。
 トランプは、実質的に戦争を終結させ、かつ、ウクライナを長期的に保護するため、今回の鉱物資源協定を結ぶべく画策したものと私は理解しています。もちろん、その本音は言いません。ロシアが警戒するからです。詐欺師、いかさま師の汚名を着ても、トランプはディールが得意な政治家なのです。和平を実現させた政治家として、ノーベル平和賞の栄誉も逃げてはいきません。ゼレンスキ―は、親の心子知らず、ということではないでしょうか。

トランプの真の狙いは中国封じ込め

 今回の米・ウクライナ会談の陰に、中国がいます。アメリカの主敵は中国です。このウクライナ戦争を放置していると、ロシアと中国の結びつきは増々強くなることが懸念されます。今、中国は台湾侵略の意図を隠しもしません。隙あらば台湾に侵攻しようと画策しています。
 その中国は、アメリカを主敵と見据え、戦力を増強してきました。アメリカの防衛戦略専門家は、台湾海域における米中の軍事力は中国がアメリカを上回っている、と分析しています。その中国がロシアとタッグを組むことは絶対に避けなければならない。トランプが必要以上にプーチンに接近し、妥協的なのは、「中ロの接近を阻止するため」と考えるのが合理的です。
 今のロシアは、軍事的にも経済的にも疲弊しています。それはあの貧乏国家、北朝鮮の兵士や軍備をも借りるくらいですから、多くの説明を要しないでしょう。
 ですから、今回の鉱物資源協定の場におけるトランプとゼレンスキ―の激しい応酬は、敵の目をかく乱するための「目くらまし作戦」と理解することができるのです。ここで両者が仲良く鉱物資源協定に署名したなら、「何か裏がある」と、その底意がばれてしまう可能性があります。副大統領のバンスがゼレンスキ―に対して「礼儀をしらない」となじって挑発したのも、大事な「演出」と考えることができるのです。
 このように、今回の協議決裂は、ゼレンスキ―はもちろん、欧州やアメリカ国民をも騙すことに成功したトランプ流の「高等戦術」と理解することができるのではないでしょうか。(R7・3・4記)

a:73 t:1 y:4

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional