トランプ相互関税の衝撃
トランプ相互関税の衝撃
世界に向け高関税を発表

4月2日、トランプ大統領が世界に向けて発表した関税一覧表には驚きました。世界ナンバーワンの超大国が、よく分からない計算方法で、185の国や地域に対して問答無用で高率の関税を課したんですから、世界中がパニックになるのも当然です。同盟国である日本に対しても、一律24%の関税の上乗せという訳です。
世界第2位の経済大国中国の関税が34%であるのは一応理解できるとして、この中国よりも高率の関税を課せられているのは、東南アジアに集中しています。ベトナム46%、タイ36%、カンボジア49%、バングラデッシュ37%、ラオス48%、ミャンマー44%といった具合です。アジア以外ではセルビア37%、マダガスカル47%、といった国々です。
これを一覧すると、中国周辺国の関税が軒並み高くなっているのが理解できます。その心は何か。ズバリ迂回輸出、抜け穴の防止です。中国周辺の国から迂回輸出をされたのでは、中国に高関税をかけても意味がない、という訳です。周辺国でないマダガスカルなども事情は同じです。同国は中国やインドからの迂回輸出の拠点とみなされていました。セルビアは、ちょっと事情が異なり1999年のコソボ紛争の際、アメリカがNATOの軍事介入を支持し、セルビアに対して空爆を行ったなどの経緯があり、アメリカに対して強い反感がある、といった事情があるようです。
いずれにしろ、今回のトランプによる一方的な関税強化は、世界を震撼させたことは間違いありません。世界の株式市場も急落しました。そして「その主敵は中国」である、ということも間違いありません。中国を貿易面で干し上げ、旧ソ連と同じように、政権を崩壊させ、国家分裂まで持ち込もうというのが、トランプの目的とみることができます。
このトランプの高関税の最終目的は、次の3つに集約できるでしょう。
①中国を国家破綻に追い込むまで徹底的に叩くこと
②アメリカに製造業を戻させ、雇用を回復すること
③米国の貿易赤字を解消すること
嘗ての日本への経済制裁と同じ構造
今回のトランプの行った相互関税政策は、かつて日本に対して発令されたプラザ合意と同じ構造とみることができます。
プラザ合意とは、レーガン政権下で日米英独仏の5か国がアメリカのプラザホテルで行った「ドル高の調整と日本の貿易黒字を削減するために行われた合意」です。要するに、日本の貿易黒字を削減するため、「円高ドル安への誘導」が合意されたのです。
為替は市場の動向で変動するものであり、中国のように国が為替介入しない限り、自由に変動するものです。従って、本来、プラザ合意によりいわば強制的に円高に誘導するというのはおかしなことです。しかしそんな正論を言っても世界ナンバー1の国は納得しません。日本はこの合意によって、円高へと誘導され、半導体などの輸出も大幅に減少することとなったのです。結果としてこの合意により、日本は「失われた30年」の長い道のりを歩むことになったのです。
現在の中国も当時の日本と同じく、ドル安人民元高に誘導できればトランプの思い通りですが、メンツの国中国はこれをはねつけます。しかも、中国は、既に近隣諸国に生産拠点を移し、多くの製品をその国からアメリカに輸出しています。従って、当時の日本のように、やすやすと合意には乗ってこないはずです。
その辺のことはトランプも読み筋であり、中国の対抗措置を前提に中国の周辺国にも高関税をかけたのです。
中国の反発は予想できた
トランプは、当初中国に34%という高率の関税を課しました。中国はこれに反発して、アメリカに同率の関税をかけると宣言しました。ここから両国間で関税の掛け合い合戦が始まります。最終的にアメリカは中国に245%という法外な関税をかけると宣言したのです。
1万円で輸出した商品に24,500円の関税です。輸入時に既に34,500円ですから、とても貿易などできるレベルではありません。
中国はメンツの国ですから、「やられたらやり返す」しかなかったのでしょう。トランプは、中国のそういう体質を熟知していますから、敢えて、関税の掛け合いになることを前提としていたと見るべきです。
一方、中国以外の国々は、いきなり反発して同率の関税などかけず、話し合いで解決しようと融和的な対応をしました。
日本も、全く同様です。日本は、国の安全保障をアメリカに依存していますから、強い態度に出ることなどできません。恭順の意を表して話し合いを提案しています。
トランプも、日本が一番「組みしやすい」と思ったのでしょう。日本をトップバッターに据え、しかも交渉の場にトランプ本人も出るという力の入れようです。ここでアメリカの思うような成果が出れば、他の国々も追随する可能性が大きいからです。
新たなTPP構想と同じ
他方、ベトナムは、全く別の提案をします。お互いの関税をゼロにしようではないかと逆提案したのです。ベトナムだけでなく、カンボジアやタイなど高関税をかけられた国々も同調してきました。
このような結果を見ると、何かが見えてきます。そうです。形を変えた「新たなTPPの構築」です。本来のTPPの目的は、加盟国間の関税を削減し、貿易を促進することを目的としています。本来ならアメリカもこれに加盟し、一緒に関税を調整すればよいのですが、トランプの標語は「Make America Great Again」ですから、このような融和的な手段ではもう一つの目的、「中国封じ込め」を達成することはできません。加盟国全員の同意がなければ、規約の変更はできないからです。
これでは中国を国家破綻に追い込み、共産党一党独裁体制の打倒という最終目的を達成することはできない。直に一国ずつ対応すれば、アメリカの言うことを聞かざるを得ない。トランプは、これが一番効率が良いと考えたのでしょう。
団体交渉よりも一個撃破の方が力量の違いにより、目的達成は実現可能性が高い。トランプは、既に運用されているTPPの枠内で交渉するよりも、個別協議の方が得るものが大きいと踏んだのです。
そのためには、先ず従順な日本をトップバッターに据えて先例とし、他国もこれに追随させる。日本との交渉にトランプが登場したのもそういう意図があったものと理解すべきです。
世界経済はどうなる。

トランプの強引な相互関税政策により、どのような現象が起きたのか。当然、各国に大きな動揺が起きました。各国ともに株価の大幅下落などの現象が生じたのです。高関税の仕掛け人であるアメリカのみが得するならば、アメリカ経済は大復活するはずでした。
ところがアメリカ自身にも、大きな悪影響が出たのです。トリプル安です。通貨、株価、債券の3つが同時に下落したのです。なぜこのような現象が生じたのか。このような強引なやり方に対して、世界がアメリカという国の国柄、経済に対して信頼を失ったのです。信頼のある国の通貨や債券ならより多く保持したいと思いますが、信頼のない国の通貨や債券、それに株などは持ちたいと思いません。
お互いに超大国であっても、アメリカの株価や通貨、債券の信頼は高いが、中国のそれはすべて低い。それは、中国という国の国柄が低いからです。周辺国を威圧し、他国の領土や領海を隙あらば奪い獲ろうという国の通貨や債券など誰もほしいと思いません。
今回の一連のトランプの行動を見ていて、大統領としての資質、品格に不安を覚えた人も少なくないはずです。高関税をかけ即時に実行すると言った舌の根も乾かないうちに、急に90日間実施を延期すると言ってみたり、FRB議長を「Too Late Man」と言って強く非難し即時辞任を求めたが、翌日にはその要求を撤回したり、中味に余りにもブレが大きすぎる。しかも、大統領といえども、FRBのパウエル議長の解任権はないのを承知しているはずなのに声高に辞任を主張する。日本に対しても、米の関税が700%だと言ったり、車の安全検査にボーリングのボールを落としてへこむかどうかの検査をしている、といった事実に基づかない主張をする。
余りにも初歩的なミスや誤解に基づく主張が多く、しかも撤回や変更を繰り返す。いかに実行力があると言っても、信頼感が薄らいでしまいます。
その結果、全米各州でトランプ反対デモが起きたり、経済指標でトリプル安の現実を突きつけられ、さすがのトランプも少し反省し、徐々にこれまでの主張を緩和し、融和的になりつつあるようにみえます。
中国に対しても、関税を半分以下に切り下げる検討をするなど、融和的な姿勢に転換しつつあるようです。トランプといえども、政権維持の基盤である支持者の信頼を裏切ることはできないのです。
現在の経済も、このトランプの融和的な姿勢を反映し、少し安心感を取り戻しつつあるように思われます。
それにしてもトランプという人物は、これまでのアメリカ大統領の中でも極めて個性(我?アク?)の強い傑物の大統領として、後世に名を留めることになるでしょう。私たちは、直接その破格(いや、ハチャメチャ?)の大統領の一挙手一投足を見ることができるのだとすれば、「春の夜のうたかたの夢」として、高みからの見物をさせてもらっている善男善女たちと考え、気長に状況を見守ろうではありませんか。(R7・4・24記)
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