議員による被災直後の現地調査は慎むべきだ
議員による被災直後の現地調査は慎むべきだ
山本太郎が能登半島地震へ見舞い行脚
ニュースを見て驚きました。れいわ新撰組代表の山本太郎議員(以下「山本議員」)が、能登半島地震の現地に乗り込み、地元の人たちを励ました、このようなニュースが流れていたからです。
しかも、山本議員は、被災者たちと和気あいあいと話し合い、非常に友好的な時間を過ごした、というような内容の記事を自ら発信しています。彼の報告の内容は次のようなものです。
この混乱状態も含めて国会議員に知ってもらいたい。あまりの政府の後手後手に、命が蔑ろにされている。電話ではなく、現場のNPOから直接話を聞くため、本日、能登半島は能登町に入った。
国会議員が、現地の実情を知るのは必要なことです。しかし、実情を知るためには、わざわざ現地、しかも被災直後に行く必要があるか、と言われれば大いに疑問です。いや、行く必要はない、というべきです。現地の実情を知らせるのは報道機関の役割であり、すでに多くの報道機関が現地入りしているからです。
そしてその現地報道によれば、多くの道路が寸断されており、雪に埋もれた亀裂に車輪を取られかねない、という実情が理解できます。当然、多くの個所で交通渋滞が発生していました。現地は、混乱のさなかにあるのです。このような混乱の中でも、敢えて車で出かけるからには、地元の人にとって、安否の確認など緊急の用件であろうことは容易に想像できます。
そういう状況の中では、他県から物見遊山のように押しかけることは大いなる迷惑になることは明らかです。
もちろん、他県からの応援部隊は必要です。人命救助に加え、道路や電気、ガス、水道などインフラを早急に復旧させ、食糧の供給をする必要があるからです。そのため、他県の自治体が水道やガス設備などの復旧のため、専門家からなる応援部隊を編成して送り出したりしています。その際も、輸送車両を極力少なくするため、予め準備した専用のマイクロバスなど、救援部隊全員が一台に乗れるよう配慮がなされています。
現地からリポート
このような中、山本議員は、現地に出かけたというのです。彼は「始発でレンタカーに空きがある駅まで移動し、能登町に到着したのは午後6時。役場の駐車場には全国から集まったNPOが片付けと翌日の準備に忙しい。雨よけのテントを組み立てていた。全国の被災地で何度も顔を合わせた人たちに混じりながら状況を聞く。」とリポートしています。
このような山本議員の行為は、有益なのでしょうか。私は国会議員の肩書をつけ、現地で作業している人たちに「状況を聞く」などという行為は、邪魔以外の何物でもないと思います。現地の状況は、文字通り猫の手も借りたい状況であることが想像されますが、そんな場所に国会議員なる者に「状況」など聞かれたら、「うるさい、向こうに行ってろ」と怒鳴りつけたくなるのではないでしょうか。
ボランティアも統率が必要
そもそも山本議員は、被災した現地で、一体、何をしようとしたのでしょうか。少なくとも一個人としてボランティア活動をしようとしたのでないことは明らかです。本人の報告を読む限り、あくまでも現地の実情を知るための現地調査のようです。
支援物資の分別や手渡し作業などを行った形跡はなく、NPOなる人たちと会話し、「積極的に何かをやれる空気づくりは、その後の街の復旧にも大きく影響する、とこれまで数十もの復興を手伝ってきたNPOの方はいう。炊事環境がある避難所であれば、これが可能になるが、そのような避難所は少ない、と指摘。」とリポートしています。
そんなことは国会議員がわざわざ現地に行かなくとも、十分に分かっていることです。
前述したように、現地では、先ず第一に倒壊した家屋から人命を救助することが最優先であり、そのためには、その場所にたどり着けるように道路の陥没や土砂崩れを応急的に復旧し、同時に、電気、ガス、水道などのインフラを復旧し、避難民に水や食糧などの供給などを急がなければなりません。現地では、さまざまな作業を同時並行的に進めなければならないのです。
ボランティアの出番も必要ですが、災害の直後は、ボランティアの出番ではありません。ボランティアは、災害発生後、人命救助など緊急に行うべき作業を終えた後、住民が自宅に戻るなど、ある程度状況が沈静化した後、地元自治体が必要な人数を募集し、どこの地区に何人、というように貼り付けていく必要があるのです。
ボランティアを装う不埒な者も
多くの人がボランティアと称して現地に入ってしまうと、空き家に盗みに入ったりする不埒な輩を排除することもできなくなってしまうのです。そのような割り振りは、原則、地元自治体の仕事です。山本議員は、このようなボランティア募集に応じて行ったわけではありませんから、あくまでも正義感から、一個人として現地の状況を知るために出向いたということでしょう。
しかし、このような一個人による行為は、いかに善意溢れるものであったとしても、被災者や現地自治体の担当者から見れば、迷惑行為以外の何物でもありません。
そのことは東日本大震災時の例を見れば明らかです。当時の総理は菅直人。彼は、福島原発の現地を視察すべく、現場の反対を押し切りヘリで現地に向かいました。しかし、現地は大混乱の中にあり、総理が来ても対応できない。総理が来るとなれば、それなりの対応をしなければならない。だからこそ、少し落ち着いてから来てほしい、と要望したのです。しかし、菅総理はその声を無視して、現地視察を強行したのです。現地では、総理が来たのに無視することもできず、混乱の中で対応せざるを得ませんでした。結果として、緊急の対応に遅れを生じることになったのです。
今回の山本議員の行動も、本人は「現地のためよかれ」と思って行動したのでしょうが、現地の立場に立った時、このような議員が来たからと言って何の役に立つというのでしょう。もっと言えば、このような現地調査と称する議員がわんさと押しかけたとき、現地はどうなるのでしょうか。迷惑行為以外の何物でもないことは、十分理解できるはずです。それが分からないというなら、よほどの鈍感、人の心を理解できない、「愚か者」というべきです。
炊き出しを食べるなどもってのほか
山本代表は、自分のリポートに「そんな話をしながら彼らの晩ごはんの炊き出しに誘われ凍える寒さの中、カレーをいただく。明日は当事者に話を聞き、今、何が必要かをしっかりと勉強させてもらうと意気込み、車の中で眠ります。」なんて、書いています。
そもそも、個人が勝手に現地調査に行くだけでも迷惑なのに、被災者用の炊き出しまで食べるとは何事でしょう。炊き出しは被災者のためのものであって、見学者のためのものではありません。仮に、このような現地に行くのであれば、被災者には「一切迷惑をかけない」、つまり「自己完結型」が鉄則です。交通手段から食事、寝るところ、トイレ、すべて自分で賄うべきなんです。それができない人間は、現地に行く資格などありません。いかに勧められたからと言って、炊き出しを一緒に食べるなど、論外です。そんな常識も分からないような人間に現地調査などする資格はありません。いや、そもそも今の時期に、現地調査などしてはいけないのです。山本代表の一連の行為は、客観的に見て、正しくパフォーマンス以外の何物でもありません。
仮設トイレは是非様式に
蛇足ながら、トイレに関し気になることがあります。テレビの映像を見て気づいたんですが、仮設トイレを10基ほど運び込む映像を見ました。そのトイレがすべて「和式」だったんです。このため、高齢者が「足が悪いので座れない」というコメントもありました。
折角のトイレが来たというのに、足が悪くて座れないというのは、あまりに気の毒です。私の住んでいる埼玉県幸手市のある大きな市民文化体育館も、トイレの多くが和式になっているんです。妻も後期高齢者のため、いつもこの和式トイレに不満を述べていたのを思い出しました。
役所故、予算上の都合はあるでしょうが、日本人の多く、いや、大部分はすでに洋式トイレになじんでいます。仮設のトイレだから我慢しろ、というのではなく、今後は、仮設トイレについても、全面的に様式にするよう、早急に検討して頂きたいものです。(R6・1・10記)
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