政治家の不倫報道は行き過ぎではないのか
政治家の不倫報道は行き過ぎではないのか
フジテレビが報道
広瀬めぐみ参議院議員の不倫がフジテレビによって報じられました。彼女は、Youtubeで記者の質問に答える形で「この度は私の不徳のいたすところにより、多くの方々に多大なるご迷惑とご心配をおかけしてしまったこと、先ずは深くお詫び申し上げます」なんて述べていました。
私は後日、この報道を知りましたが、正直、違和感を禁じえませんでした。そもそも彼女は、参議院議員であり、僅か一回生の議員です。政界で特段の影響力のある議員でもありません。その女性議員が、不倫をしたと言ってテレビで報道し、涙の謝罪会見までする。いや、要求される。違和感を抱くのは当然なのではないでしょうか。
特段影響力のあるわけでもない、一介のヒラ議員の不倫報道を全国ネットのテレビ局が報道する。それが国会議員だからこそ許される、というなら、野党を含め、全国会議員は枕を高くして寝られない、ということになります。このような不倫行為を報道する意義は何なのか。報道する価値があるのか。単なる覗き趣味以外の何物でもない、と感じる私の常識感覚がおかしいのでしょうか。
不倫は犯罪なのか
そもそも日本において、不倫は犯罪なのか。いえ、犯罪ではありません。過去には、「姦通罪」という罪がありました。江戸時代から昭和22年までです。それまでは姦通罪は「両者死罪」という重罪でした。しかし、現在、この刑法は廃止されています。
現在でも、一部の国では、犯罪とする国もあります。例えば、イスラム国家では姦通は重罪とされ、死刑判決もあります。
現在の日本においては、当事者間において、民事上の責任を問うことができる不法行為と位置づけられています。不法行為をされた妻(又は夫)から、不倫の相手に対して損害賠償を請求することが可能であり、場合によっては、夫婦間での離婚の原因にもなり得ます。つまり、現在の日本においては、不倫行為は、社会に迷惑をかける行為でもなければ社会に心配をかける行為でもないのです。つまり家庭内あるいは当事者間だけの問題であり、広瀬議員が言うように、社会に迷惑をかけたわけでも、心配をかけたわけでもないのです。
そうである以上、夫(又は妻)が妻(又は夫)を責め、又は不倫をした相手に損害賠償請求をするのはともかくとして、マスコミが実名で報道し、社会に暴露すべき筋合いのものではないのです。
国会議員にプライバシーはないのか
このような不倫報道は、プライバシー侵害との関係でも問題にされるべきです。
なぜなら、日本人にはプライバシーの権利が保障されています。憲法には直接「プライバシーの権利」と明記した規定はありませんが、憲法13条に「個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉」という規定があり、個人のプライバシーも「個人の尊厳や幸福追求」と密接に関連しており、この憲法の条文がプライバシー保護に関する一般的な根拠規定とされているのです。
また、民法709条においても「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」との規定によって、個人のプライバシーは保護されると解釈されています。
不倫行為は無尽蔵にあるのでは?
ならば、今回の広瀬議員の場合、どのようにプライバシーを保護されるべきなのでしょうか。フジテレビの報道は、国会議員の不倫だからということで報道したのでしょうが、国会議員にもプライバシーの権利はあります。このような不倫報道がなされ、広く世間に知られるところになれば、家庭内で離婚騒動にもなる可能性が生じ、子供にとっても精神的に大きな打撃になるはずです。さらに、国会議員の場合、次の選挙で落選の可能性も大きくなります。
岩手県盛岡市出身の広瀬議員は上智大学外国語学部英語学科卒でありながら、司法試験に合格し弁護士になったという異色の経歴の持ち主です。小沢王国と言われた岩手県で、反小沢を掲げ当選した実績は、刮目すべきものです。夫は盛岡第一高校の同級生で職業は弁護士。夫の仕事を近くで見ていて「面白そう」と思い司法試験に挑戦。結婚の5年後に見事合格したというんですから大変な努力家でもあります。
その彼女が、不倫をしたからと言って、大手マスコミがこれを大々的に報じることが許されるのでしょうか。しかもフジテレビは、この報道が、2月29日発売の「週刊新潮」に報じられていたから、と言い訳をしているようです。一般に、週刊誌に掲載されたことが事実であるかどうかは極めて怪しい、というのは社会の常識です。週刊誌に報じられたことが正しいという前提で、「ウラ取り」もせず、大手マスコミが追随するようになったなら、政治家はもちろん、私たち大衆もたまったものではありません。少なくとも大手マスコミとしての矜持は、一体どこに行ったのでしょう。大手マスコミが週刊誌の後追いをするようでは、大手メディアの資格はありません。
税金で禄を食んでいる人間にプライバシーがないというなら、与野党を問わず追及がなされるのでなければ公平ではありません。もちろん地方議会議員だって同じ、ということになります。
しかし、私たち国民が国会議員や地方議会議員に期待するのは何か。この国や地域を、よりよく豊かで安全で住みよい国にすること、これに尽きます。松川るい議員らとパリ見物をし、エッフェル塔の前で「イエ~」なんて写真を撮っている姿は感心しません。国会議員に対する信用がガタ落ちになった今、このような行為は、海外視察に名を借りた観光旅行と見られているのです。もちろん、だからと言って彼女たちのプライバシーを侵害してよい根拠にはなりません。
過去の不倫報道は大物政治家のみ
もちろん過去には、政治家の不倫が報じられたことはあります。有名なのは、宇野宗祐首相(当時)の事件です。お座敷遊びに興じる宇野氏が芸者の指3本を握り、「自分の愛人になったらこれだけ出す」と述べたというものです。月30万円のお手当てという意味だとされています。このほか、自民党の中川秀直幹事長や山崎拓幹事長の愛人問題が取りざたされたことがありました。
しかし、これらは今回の広瀬議員の場合とはかなり異なります。中川氏のケースは、右翼団体との交際が問題とされ、秘密にすべき捜査情報が愛人を通じて漏らされたのではないか、ということで問題になった事例です。山崎氏の場合も、週刊誌が愛人問題を報道したため、同氏が怒って提訴したためニュースになったという事例です。
このように、政権党の有力政治家が絡んだ愛人問題が報じられたことはありますが、今回のように、一介のヒラ議員の不倫をストレートに報じた例は皆無に等しいと言ってもよいでしょう。唯一の例外は、宮崎謙介議員の例でしょうか。彼は、2013年に初当選。2015年に金子恵美議員と結婚。翌年、出産を控えた妻の入院中に不倫一泊旅行をしたと週刊文春が報じたのです。その後、「浮気はあるかもしれないが不倫はない!」(笑)などの迷言を吐き、逆に炎上してしまったというケースです。
私は、政治家には可能ならば、倫理的な徳性まで期待します。しかし、だからと言って、不倫をしたから政治家はすべて辞めろ、とまで言うつもりはありません。政治家の本分を真摯に追及して頂きたいだけです。今回の広瀬議員の不倫報道に関しては、フジテレビは猛省すべきだと思います。国民は、大手メディアに対し、週刊誌のような覗き趣味レベルの報道でなく、法を順守したより高いレベルの報道を期待しているのです。(R5・3・17記)
▶▶▶広瀬議員の記者会見の模様
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