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岸田政権の「分配と成長」は正しいのではないか?

岸田政権の「分配と成長」は正しいのではないか?

迷走する岸田政権の「分配と成長」

先進各国のGDP推移

 私は、これまで岸田政権の掲げる「分配と成長」という政治目標に疑問を持っていました。多くのマスコミ、特に経済学者などからも、強い批判を浴びました。成長なくして分配などあり得ない。先に成長し、その後、その果実を分配するべきものだ。成長もしないのに分配を先に掲げるのは、物事の順序が違う、というわけです。岸田首相も、いつの間にか「成長と分配」などと言うようになりました。要するに、理論的な信念がなかったということですね。
 これまでの日本は、過去長期に亘り経済成長せず、「失われた30年」などと言われてきました。父親の初任給と息子の初任給がほぼ同じ、なんてことが普通の状態になっていたのです。過去30年、世界190か国中、一人あたりGDPの伸びない国は日本だけという惨状を呈していました。このような長期に亘る低成長の結果、日本の経済成長は、ソマリアやリビアといった常時、国内紛争を抱えている非成長国と同レベルの国家になってしまったのです。

アジアの中でもビリ

 このような低成長の原因を打破すべく、政府は直接経団連に賃上げを働きかけるなど、経済成長の動機づけをすべく努力をしてきました。が、その効果は芳しくありません。
 三橋貴明氏、藤井聡氏など多くの経済学者や政治家西田昌司、安藤裕議員などは、経済を浮揚させるため、消費税の廃止ないし引き下げを求めるなど、消費を促すための施策を講じるべきだと主張してきました。しかし、消費税の廃止や引き下げは、財務省はもちろん、自民党内でも反対論が根強く、実現することはかなり厳しいでしょう。特に、財務省寄りの岸田政権においておや、です。そういう状況の中で解決策の一つとして登場したのが、いわゆる「松田プラン」と言われるものです。この松田プランは、参政党代表の松田学氏の提唱する理論であり、私も個人的に賛同しています。松田プランの肝は、日銀の保有する国債をデジタル化することにより、経済を活性化させようとするものであり、十分検討に値する理論だと思いますが、すでにこの欄で述べているので説明を省略します。ここでは岸田首相の「分配と成長」について、述べることにします。

分配とは配当金のこと

 岸田首相は、「成長と分配」の内容について、詳細を語っていません。ですからその意図するところは国民に十分に伝わっていません。「新しい資本主義」と合わせ、何度聞いても理解不能なのです。本人の説明でも分配とは「予算の合理的配分のあり方」なのか「富裕層からより多く徴収しその原資を使って国民に分配する」という意図なのか、よく分からないのです。納得感のある説明のないまま、いつの間にか「成長と分配」などと言いだしています。要するに、 信念に基づく主張ではなかったということですね。
 私は、この分配という言葉に、意味づけをするなら、「株式配当金の分配」と考えるべきではないかと思っています。配当金の分配のあり方を適正化するという意味に捉えるなら、経済成長につなげることが可能になる可能性がある、と考えるからです。以下にその理由を説明します。
まず、現状認識として、前述したとおり、今の日本は長期低迷の状況にあります。30年という異常ともいえる長期の経済低迷です。では、その間、企業の役員や従業員の給料はどのように推移していたのでしょうか。

配当金推移

 それを示したのが、右のグラフです。
 このグラフは、資本金10億円以上の企業を対象とし、過去20年間において、1997年を100とした時の売上高、配当金、設備投資等の推移をグラフ化したものです。
 これをみれば分かるように、従業員の給与は93ですから増えるべき給料が逆に、7%も減少しているのです。役員の給与は3割増えていますが、20年間で3割ですから文字通り微増と言ってよいレベルでしょう。
 他方、傑出しているのが配当金です。配当金は20年間で何と5.7倍も増加しているのです。その間、経常利益は3.0倍伸びていますが、配当金は経常利益の伸びを上回って急速に伸びています。
 同じ期間で、設備投資はどうなっているのかと言えば、何と64ですから、36%も減少しているのです。経常利益も配当も増えているのに、設備投資は40%近くも減少している。
 このことは何を意味するのか。それは、本来、企業として行うべき従業員への給料アップや設備投資を抑え、専ら配当に回してきたということです。株主資本主義の弊害とも言うべき現象が、象徴的に表れているのです。

株主資本主義の弊害

 株主資本主義とはなにか。これはアメリカで主流になっている「会社は株主のものであり、株主の利益を最大化するために経営されるべきである」という考えです。
 近代日本は、松下幸之助氏や本田宗一郎氏に代表されるように、「企業は従業員のものである」という思想が確立していました。従業員のものですから、社長と言えども飛び抜けた給料をもらうこともなく、食事も従業員と同じ食堂で食べるというスタイルが一般的でした。
 その後、このアメリカ流の株主資本主義が到来し、企業経営者は従業員よりも投資家である株主に貢献すべきものである、というように変わってきました。商法など法体系も、株主第一主義の思想で次々と改正がなされてきました。アメリカ式に右倣えをしてきたのです。
 その結果、株主総会において「モノ言う株主」が跋扈するようになり、低配当の経営者は株主から無能の烙印を押されるようになりました。この株主総会を乗り切るために、経営陣は極力配当を増やし、従業員の賃金や設備投資を抑えるようになったのです。従業員の賃金が抑えられれば、家計は苦しく、消費も伸びません。消費が抑制されれば、設備投資も抑制されます。
 また、設備投資が抑えられれば、雇用も抑制され、企業の成長も抑制されます。要するに、株主資本主義なる妖怪が跋扈し、日本経済の足元を掬ったのです。

日本の富が流出している

 こう考えてくると、日本経済を活性化し、再び成長の軌道に乗せていくためには何が必要なのかは明らかです。そうです。株主資本主義と決別することです。近代日本が大事にしてきた「会社は従業員のもの」との思想を復活することです。会社が従業員のものであるとの前提に立てば、企業の「利益は先ず従業員の賃金と福利厚生に」振り向けなければなりません。当然、そのためには企業も成長する必要があり、設備投資も促されます。
 そして、そのあとで更に余裕があれば、株主に対して配当金を出せばよいのです。当然、配当金は低配当にならざるを得ません。これこそが株主資本主義でなく、従業員資本主義なのです。本田宗一郎氏らが従業員らと油まみれになってホンダカブを作り、ホンダを創業したように、企業とは本来、かくあるべきものなのです。
 それでは、日本企業に投資する者はいなくなるではないか、という疑問も生じるでしょう。確かに外国人投資家は激減するかもしれません。しかし、それでいいのです。なぜなら、外国人投資家は、投資によって得たお金を自国に持ち帰るだけの存在だからです。

外国投資家

 右の図をご覧下さい。外国人投資家の日本企業への投資割合は、約30%を占め、年々その比率を高めています。しかも売買シェア―に至ってはほぼ70%台を占めているのです。日本の株式市場が巨大な外国資本に乗っ取られている状況、と言っても過言ではありません。この外国資本の巨大さは、GAFAの4社の売上高だけで日本の国家予算を上回るということからも、その大きさは容易に想像できます。グローバル化を志向する勢力にとっては、当然の成り行きと言うことですね。
 この実態から明らかなように、投資や配当を通じ、日本の富は、日本以外の国へと流れて行っているのです。日本の国民総所得(GNI)を構成する項目のうち、海外投資家への配当などを含む「支払い」はこの4年間で倍増しました。海外への利払いや配当は、国内から海外への富の流出ともいえます。その額は2016年度だけでGNIを11兆円押し下げる要因となったとされています。
 つまり、日本の貴重な富が毎年、配当金や株取引の利益という形で外国に流出してしまっているのです。株主資本主義と決別するということは、このような富の流出を止めることをも意味するのです。

岸田政権はこの「分配」を主張せよ

 岸田政権の掲げる「分配と成長」を意味あらしめるためには、この分配の意味を「企業の利益分配」と位置づけ、企業会計原則を大幅に見直すこと、と位置付けるならば、多くの国民の賛同を得られるはずです。

社員のものだ

 繰り返しますが、「企業は株主のもの」などという考え方が根本的に間違っているのです。企業は従業員の血と汗によって成り立っているのであり、お金だけを出しているに過ぎない投資家が自由に差配すべきものではないのです。
 もちろん、そうすることによって、投資家の数は大幅に減少するかもしれません。それでもいいのです。企業が「従業員第一」と考え、賃金を上げ、福利厚生を手厚くするならば、企業に対する忠誠心も湧き、企業は放っておいても成長します。成長のエネルギーが社内から醸成されるからです。その成長する企業に、投資したい投資家がいるなら投資を受け入れる。第一に優先されるべきは従業員であり、投資家ではないのです。
 このような考え方は、現行の商法等に大幅な見直しを迫ることになります。四半期ごとの決算システムも、見直す必要があるでしょう。四半期ごとの(中間)決算システムは、株主資本主義を前提とする企業会計システムです。従業員にとっては、業務が煩雑になるだけの迷惑でしかないのです。ですから四半期ごとの中間決算は、旧来の年一回だけの決算システムに戻すべきです。現在の中間決算システムでは、企業は長期を見通すことができません。本来、企業とは長期を見据え、設備投資や社員教育を行うべきものであり、3カ月ごとに収支決算し、出資者に奉仕すべき存在ではないのです。
 岸田政権は、再び日本を経済発展させるため、「分配」の意味を、「企業利益の分配」と位置づけ、商法等企業会計システムを大幅に見直すべきです。もちろん投資家からは不評を買うでしょうが、多くの国民の賛同を得られることは必定です。そして日本経済が嘗ての輝きを取り戻すなら、多くの投資家にとっても歓迎すべきことなのです。

アメリカの反発はあるか

 株主資本主義の廃止により、自由主義の盟主アメリカの不興を買うことが予想されます。現行の企業会計システム、とりわけ株主資本主義は、アメリカの企業会計システムを導入したものだからです。
 しかし、この株主資本主義に対しては、アメリカ国内でも見直しの動きが見られます。米経済団体ビジネス・ラウンドテーブルは2019年8月に、米国の経済界は株主だけでなく、従業員や地域社会などすべてのステークホルダー(利害関係者)に経済的利益をもたらす責任がある、とする声明を発表したのです。声明には、会長を務めるJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)を含め、何と180を超える主要企業のトップが署名をしているのです。
 これはアメリカ社会に蔓延した富の格差拡大という背景があるだけでなく、企業は投資家だけでなく、地域を含むすべての利害関係者を重視すべきだとする、思考が前提にあることを示しています。このような背景から、岸田政権が、断固とした姿勢でこれを表明すれば、米国の理解だけでなく、多くの国の賛同を得られるはずです。なぜなら経済的に落ち込み、低迷する日本より、より強くなる日本経済は、中国という怪物に対する安全保障の観点からも必要とされているからです。

円安も追い風になる

 日本は今円安の直撃を受けています。令和4年7月時点で円は対ドル換算で135円から140円の間にあります。過去20年間でみても最高の円安水準です。この円安について、マスコミや経済界から「悪い円安」だとの評価が多く聴かれます。確かに輸入物価の押し上げ効果により、輸入品、特にエネルギー価格の上昇により、国民は疲弊しています。賃金が増えない中での物価高、スタグフレーション状態ですから当然です。

円高について

 しかし、この円安についても、「災い転じて福となす」とすることが可能です。輸出企業は円安効果によって、より多くの輸出が可能になります。円高を嫌って中国など海外への展開を図っていた企業の国内回帰を促すことも可能です。長い目で見れば、日本にとって、海外に進出した企業の国内回帰を進める絶好のチャンスでもあるのです。国内回帰が進めば、当然、雇用にとってプラスです。雇用の機会が増え、輸出がしやすいなら、企業業績もよくなります。
 国内には勤勉で良質の労働者が沢山いるんですから、嘗てのように、輸出大国として、復活することも夢ではありません。「悪い円安」と決めつけるのではなく、発想の転換をし、この円安さえも低迷する日本経済復活の促進剤として活用すべきなのではありませんか。前述したように、強い日本経済は、国民を豊かにするだけでなく、対中国の観点から日本の安全保障に貢献します。そして、順法精神に富んだ国民による日本経済の発展は、世界平和にも大きく貢献することは間違いありません。(R4・7・27記)

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