時事寸評 書評コーナー

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読書感想文

(ウイルスによる作用なのか、自分自身の誤操作によるものなのか、不明ですが、かなりの数の書評が消えてしまいました。この欄には、その一部しか残っていません。お詫びいたします。)

書評コーナー

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戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊(川島博之)

中国は本当に崩壊するのか

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 中国の崩壊は近い、とはよく言われる言葉です。しかし私は、本当に崩壊するのか、ということについては、なかなか確信が持てないでいます。また、崩壊するとすれば、どのような形で崩壊するのか、また、本当に崩壊した場合、中国という国の政治体制はどういう形になるのか、ということについても確信が持てないでいました。崩壊後の将来像については、誰であっても、推測の域を出ません。が、本当に崩壊するのか、という点については、本書を読むことによって、確信を深めることができました。
 著者は、大学教授という立場から、多くの中国人留学生と接する機会がありました。彼らとの会話や、里帰りなど帰国時について行き、多くの農村の姿を生で見聞きしたというのです。そのほか調査旅行や会議などを含めると、20年の間に40回ほど中国各地を訪れ、滞在日数を通算すると300日近くを中国で過ごしたというのです。
 そういう経験を元にして中国の実情を書いた著書は余りないように思います。留学生として中国の大学に通ったという福島香織さんや、取材旅行で中国各地を歩いた宮崎正弘氏のような方もいます。また、中国で生まれ育った石平氏のような方もいます。これら3氏と本書の著者である川島博之氏の著書を併せ読むことによって、中国の現状と崩壊の可能性について、かなり正確に見通せるような気がします。

 著者は、自らの体験に基づき、多くの評論家が言う「中国は13億人という人口を背景に、サービス産業の振興によって今後も発展を続ける」とする主張を否定します。その根拠は、13億人のうち、9億人が住む農村部では、経済発展は不可能だと断定するのです。その9億人は、農民戸籍であり、都市戸籍とは厳然と区別されているからだと言うのです。これら農民戸籍に属する人たちは、絶対的な差別の中で生きており、政府に対して組織的に反発することはできないというのです。日本なら、約7割の人口を占める農民戸籍の人民が団結し、差別撤廃を訴えれば体制転換ができると考えますが、中国ではそれは絶対にできないというのです。
 よって、経済発展というテーマについて考える時も、農民戸籍の9億人については、消費の受け皿としてすら考えることはできない、というわけです。

汚職を生む科挙の歴史

 中国には、隋の時代から清朝まで、約1300年にわたって実施された官僚登用試験に、科挙というものがあります。倍率は1000倍から3000倍という猛烈に難しい試験です。これに合格すれば、すぐに県知事クラスに出世するというのです。それも「皇帝の代理人」としてです。世襲制ではなく、一代限りの制度です。
 ですから、権力を振るうことができるのも一代限りです。このため、科挙の合格者の任地には、その親族や知人もついて行くというのです。そしてその任地で、ここぞとばかりに集団で利権を貪り、蓄財する、というわけです。習近平によって汚職官僚として追放された薄熙来が、重慶市で短期間で4,800億円ものお金を着服できたカラクリも、中国の悪しき伝統、科挙にその根源があるというのです。

人民解放軍の実態

 日本人の眼から見ると、中国の人民解放軍は、統制がとれているように見えます。しかし、その実態は、必ずしもそうではないようです。中華人民共和国が成立するまで、軍隊は、ならず者の収容所だったというのです。だから民衆は、軍隊を恐れていたのです。兵士が民衆に乱暴狼藉を働くのが常だったのです。戦が始まると民衆は戦いよりも、進駐してきた兵士の方を恐れたというのです。このあたりの感覚は、日本人には理解不能です。多くの日本人を虐殺した通州事件なども、その延長線上で見れば、十分に理解できます。
 このような人民解放軍の実態を見れば、この軍隊がなぜ弱いのかということも分かります。歴史を遡れば、中国軍が外国の軍隊と戦って勝利したことは一度もありません。モンゴル軍に負けて元となり、満州族に征服されて清になり、その後もイギリスと戦ったアヘン戦争、日本と戦った日清戦争、そして日中戦争、そして、ベトナムとも戦いましたが、すべて敗北しているのです。敗北の歴史しかないのです。

約束不履行は中国王朝の得意技

 日本人から見ると、中国人は、最初は頭を低くして教えを乞うのに、一旦技術を習得すると、手のひらを返したように冷淡な態度を取り、恩を仇で返すようなことを平気でする、と言うように見えます。著者は、これも、中国王朝の歴史に根差すものだと言います。
 文人政治家が今から1000年も前の宋の時代に始めたものだと言うのです。中国は世界の真ん中に位置する「華」、だから中華だというわけです。周囲に住むのはみな野蛮人。東夷、西戎、南蛮、北狄などと呼び、四方にいる人を馬鹿にしてきたというのです。日本は東夷に属します。東方に住む野蛮人というわけです。そんな野蛮人との約束など守らなくてもよい、というわけです。
 こういうことを前提に考えると、中国外交官の物言い、記者会見における報道官の高飛車な物言い、尖閣諸島への領海侵犯、日中中間線付近におけるガス田掘削井に関する合意の無視、南シナ海、東シナ海における一方的な主張に基づく国際法無視、英国訪問時のエリザベス女王に対する失礼な態度など、多くの不誠意な態度などを見ていると、なるほどと理解できる部分が沢山あります。

訪中できなくなった著者

 著者は、本書を出版してから、中国への渡航は出来なくなったと、新著「習近平のデジタル文化大革命」で述べています。この「中国の崩壊」が、中国政府のブラックリストに載ったからだそうです。ブラックリストに載ったということは、本著が、中国政府にとって「一般の国民に知って欲しくない情報を提供している」ことを証明していると見ることができます。つまり、本書は、現在の中国の実情をきわめて正確に描写している何よりの証拠と捉えることができます。中国を研究している学者でも、「中国の戸籍問題」については深く追及していない、つまり、中国の凄まじいまでの格差問題に目を背けているということができます。
 本書を1人でも多くの日本人に読んで頂き、中国というものの本質を、冷静に客観的に理解して頂きたいと思います。

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日本国紀(百田尚樹)

歴史に学ぶことが多い

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 作家百田尚樹氏の著書、「日本国紀」を読みました。ハードカバーで500ページを超える分厚い本ですが、読みごたえがありました。数日かけて読みましたが、読んでいて、日本はこんなに素晴らしい国だったのか、こんなに素晴らしい先人たちがいたのか、と驚きの連続でもありました。
昔、中学、高校の頃に学んだ歴史の教科書は、無味乾燥で、暗記物という印象しか残っていません。特に、近現代の部分は、入試に出ないということもあり、ほとんど学ぶ機会さえありませんでした。
 この日本国紀は、幕末から明治維新以降についても存分に語られており、新鮮な感覚で読むことができました。著者は淡々と史実を述べながら、率直な感想も織り交ぜています。この個人的感想も、読むものをして共感させるに十分な説得力があります。著者は、歴史は、単なる「年表の解説本」であってはいけない、と言います。歴史に客観性を持たせることは不可能であり、主観が入らざるを得ず、それが歴史というものだ、と主張します。それだからこそ、私たち読者からすると、読んでいてワクワクしたり勇気づけられたりするのかもしれません。
 例えば、幕末から開国に至る国内情勢について、著者は、次のように記述しています。

 私は、日本人は世界のどの国の国民にも劣らない優秀な国民だと思っている。これまで述べてきたように、文化、モラル、芸術、政治と、どの分野でもきわめて高いレベルの民族であり、国家であると確信している。しかし、幕末における幕閣の政治レベルと国際感覚の低さだけは、悔しいながらも認めざるを得ない。
世界情勢に背を向けて、ひたすら一国平和主義を唱え、そこに日本人特有の「言霊主義」が混ざり合った結果、このようなぶざまな事態になってしまったのだ。

 この記述は、日本がアメリカ、オランダ、ロシア、イギリス、フランスと結んだいわゆる「安政の五ヶ国条約」とよばれる不平等条約について、記述した部分です。外国に領事裁判権を認めたり、関税自主権がないなど、極めて不平等な条約だったのです。文字通り、平和ボケした当時の日本人が世界の現実を受け入れることができず、このような不平等条約を結んでしまったことを評したのです。日本は、この不平等条約を是正するため、大変な苦労をすることになります。最終的に関税自主権を回復するまでに53年もの歳月を要したのです。

縦割りの弊害は日本の伝統か

 更に日本は、大東亜戦争時にもこの愚かな失敗を繰り返しています。例えば、戦時における陸軍と海軍の対立です。日本がこの戦争に踏み込んでいったのは、アメリカから石油の輸出を停められるなど、エネルギー源を絶たれたことが主因でした。宣戦布告をしなかった日本は卑怯だ、なんて言って米国民を鼓舞していますが、当時は、宣戦布告なんてこと自体ほとんどなかったのです。
 日本は、陸軍がインドネシアの石油施設を多く確保しました。が、陸軍はその石油を海軍に渡さなかったのです。陸軍は海軍ほど石油を使わないにもかかわらずです。なぜそのようなバカなことが起こったのか。陸軍と海軍の対立がひどかったからです。見るに見かねた陸軍の士官が海軍に石油を回したところ、この士官は軍から厳しい叱責を受けたというんですね。これでは勝てる戦争も勝てるわけがありません。これは、正しく、現在の縦割り行政の弊害にも脈々とつながっています。省益あって国益なしの島国根性の典型です。
 このような弊害は、阪神淡路大震災時にも見られました。猛火に包まれた阪神淡路市街の消火に駆けつけた島根や鳥取の消防車のホースが、連結部の規格(サイズ)の違いから接続できなかったのです。そんなもの全国統一の規格で作っておくなんて常識だし、消防庁の基本的業務だと思いますが、それすらできていなかったのです。
 先人たちは、国際社会に未経験でしたからやむを得ないとして、現在の縦割り行政の弊害を見ていると、戦後70年以上経過しても、まだ日本人の島国根性や巨視的な視点が乏しい、という欠点が克服されていないことを痛感させられます。

安保反対にも見られる近視眼

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 日本国紀では、安保反対闘争についても詳しく語られています。日米安保条約は昭和35年に改訂され、これによりアメリカは有事の際に日本を防衛するという義務が生じ、さらに今後は日本の土地に自由に基地を作ることができなくなったのです。更に、日本国内に内乱が生じた時にアメリカ軍が出動できるという内乱条項も撤廃されました。
 つまり、日本にとって良いことづくめだったのです。しかし、この当時、多くの大学教授や知識人、マスメディアは大反対し、大衆も国会に押し寄せ、十重二十重に取り、内乱状態に比すべき状況にありました。その数33万人にも達したのです。当時、私は高校生でしたが、デモ隊が警官隊と衝突する様を新聞報道などで見ており、安保反対の立場でした。ですから、衝突により、東大生だった樺美智子さんが亡くなった時には、政府に対し強い怒りも感じました。
 今、冷静にこの安保闘争を振り返れば、安保改定により、日本は世界一強力な軍隊を持つアメリカに守られることになったわけですから、本当は慶賀すべきことだったのです。しかし、前述したように、当時の知識人、マスコミは、反対一色だったのです。メディアは、新聞と急速に普及し始めたテレビに限られ、特に、新聞の持つ影響力は絶大でした。これらメディアは、安保反対一色だったのです。
 今は、インターネットなどにより、常に反対意見も見聞できる環境になったので、世論が極端に一方向に流れなくなったのは、安全装置として素晴らしい時代になったと思いますが、当時はそうではなかったのです。なにせ中国の文化大革命でさえ、朝日新聞の礼賛記事により、「おお、すごいな」なんて思えた時代だったのです。

誇りと感動、勇気がもらえる

 この「日本国紀」を読み終わって感じたことは、日本人としての「誇り・勇気」がもてる、素晴らしい著作である、ということでした。著者の個人的感想も随所にありますが、決して歴史を曲げた独善的なものではなく、日本人として十分に共感のもてるものばかりです。時代を遡り、自分に幼い子供がいたとしたなら、是非ともこういう教科書で歴史の授業を受けてほしいと思います。
 随所にちりばめられた「コラム」欄も素晴らしい。歴史の中に埋もれた人材がこれほど沢山いたのか、というのが率直な感想です。歴史の中に埋没した偉人たちが、目の前に生き生きと蘇ったように感じられる筆致は、さすが当代一流のストリーテラーの技と感心するばかりです。従来の教科書では全く評価されていない人物にもスポットを当て、客観的、大局的に見れば、評価に値するという視点も、十分に納得感があります。著者の筆力により、名誉回復されたのです。新鮮であると同時に、率直に嬉しく思いました。歴史は一面からのみ見るのではなく、複眼的に見る必要があるからです。
 本書は、虎の門ニュースなどでおなじみの有本香さんが編集者として全面的に協力しています。出版に至るまでの苦労など、裏話は、「月刊Hanada1月号」に著者と有本香氏の対談「日本国紀を語り尽くす」に掲載されていますので、是非そちらもご覧ください。
 それにしても、発売前から30万部、40万部の予約が殺到したというんですから、すごいです。今の時代に、400ページを超えるハードカバーの書籍が、初版本だけで40万部も売れる。日本人は、「本当の歴史書」を渇望していたということかもしれません。まだまだ日本人も捨てたものではありませんね。
 すべての国民が、日本に誇りをもてる国にするためにも、是非、本書が日本史の教科書、それが無理ならせめて副読本としてでも採用してほしいものです。

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史上最大のメガ景気がやってくる(武者陵司)KADOKAWA

著者は経済評論家

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 著者については高名な経済評論家、というより実務的な株式評論家という感覚でみていました。弁舌が爽やかで、説得力がある。Youtubeなどで拝聴していると、語った言葉をそのまま書籍として出版できるのではないかと思うくらい、滑らかに話をされます。
 著者の語る言葉の特徴は、悲観的な見方をしない、ということでしょうか。常に、前向きで、将来の日本が明るくなる、という気持ちにさせてくれるだけでも、視聴する価値があると思います。

日経平均10万円になるとの大胆予想

 本書の中で、著者は15年後の2034年には、日経平均株価は10万円を突破すると予想しています。日本のマスコミや経済紙などを見ていると、どちらかと言えば、悲観論が多いと言ってよいでしょう。超高齢社会に突入し、これから人口が減少する中、健康保険や年金など、社会保障関連の財政は逼迫し、大勢の高齢者を少ない現役世代が支える、という式の見方です。しかし、著者は、これとは全く別の認識を示しているのです。
 未来予測について、その論者を評価する場合の指標は、過去の発言内容と、その結果の照合です。著者のこれまでの実績を見ると、ほぼ全的中と言ってもよいほどに、的確に未来を予測していたことが分かります。
 例えば、①日経平均2万円を超える→的中、②リーマンショック後の米国景気のV字回復→的中、③円安基調の到来→的中、④日本企業の業績大回復→的中、などです。
 もちろん、著者は確たる根拠もなしにこうした予測をしているわけではなく、きちんとした裏付けも明確に示しています。

将来のライフスタイル

 本書でも著者は、確たる根拠なしに株価10万円を予測しているのではありません。その根拠は本書で解説しているので、それを読んで頂くとして、ここでは、著者が見据える近未来のライフスタイルについてです。
 私たちは、不透明な未来について、楽観論、悲観論それぞれの予測を見聞きしていますが、圧倒的に悲観論が多いように思われます。それは日本の抱える少子高齢化や財政の悪化、AIなど人工知能の進展により、既存職場を追われる労働者などを想定しているからです。
 しかし、著者は、明確にこのような見方を否定しています。情報化と科学技術が進んだ先には、教育医療、専門サービス、娯楽観光など個人向けサービス分野が拡大し、新しいビジネスモデルと新しいライフスタイルがまっているというのです。未来社会においては、ゴミ収集車は自動運転になり、建設現場はロボットの活躍する職場になる、タクシーも無人で、スマホから発信する電波で数分以内に迎えに来る。さまざまな分野で労働生産が上がり、週休3日が当たり前の社会になる。
 収入もないのに遊ぶわけにはいかない、と多くの日本人は考えるでしょうが、著者は、これも大丈夫だと断言します。AI化によって、生産性が高まれば高まるほど、企業はもうかり、それによって従業員の給料は増えると言います。労働者のスキルの向上と経済成長があれば、雇用を満たしながら人々の生活を向上させることは可能だというのです。
 著者のこのような楽観論はどこから出てくるのか。その根拠について、最後に5つのポイントを提示しています。それは、是非、直接著書にてお確かめください。
 元気が出ること請け合い、とだけ言っておきましょう。

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祖国を中国に奪われたチベット人が語る侵略に気づいていない日本人(ペマ・ギャルポ)ハート出版

難民として来日

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 著者のペマ・ギャルポ氏は、私の若いころからでも知っています。それほどに日本では有名人でもあります。彼は、12歳の時、留学生として来日しました。留学生と言っても、チベットそのものが、中国によって侵略され、国そのものがなくなってしまったんですから、実質的には「難民」としての入国といってもよいでしょう。
 ペマ氏が、日本についたときは、夜。翌朝、起きてみたら、周りの看板や家に漢字がたくさん書いてあったので、「私たちは裏切られたのではないか。中国人たちが周りにいるのではないか」と本気で心配したと言います。恐ろしい思いをした人たちにとっては、常に「騙されているのではないか」と警戒心が強くなるのは当然です。カルチャーショックですね。
 カルチャーショックと言えば、健康診断時に歯の検査で、医師が一つ一つの歯をコンコンと叩いた時、ペマ氏は、本気で「どこかに売られるのではないか」と心配したというんです。チベットでは、馬を売る時に、口を開けさせ、歯をコンコンと叩いて健康状態を診るという習慣があったからです。

中国の悪質さに気づかない日本

 ペマ氏は、そのような原初体験から解き放たれ、日本での生活にも慣れ、改めて日本の現状を見ると、日本人は中国の悪辣さ、脅威が分かっていないことに気づいたと言います。
 1950年、中国は、チベットへの侵略を開始します。侵略時の名目は、「帝国主義の手から“解放”する」というものだったそうです。「解放」という言葉は共産主義者の常套句です。当時のチベットには、「帝国主義者」どころか、外国人すらほとんどいなかったのにです。侵略者にとっては、そんな実態なんてどうでもよいのです。
 その年は、朝鮮戦争開始の年でもあり、世界の目はそちらに集中していました。このため、この侵略行為は注目を集めず、国際的な支援もなかったというのです。中国のやり方は、常にこれです。つまり、火事場泥棒的に侵略を行うのが常套手段なのです。ウイグル然り、モンゴル然りです。
 南シナ海におけるサンゴ礁の埋め立ても同じです。米軍がフィリッピンのスービック基地から撤退し、軍事的な空白域が生じた途端、南沙諸島に進出し、サンゴ礁を埋め立てて人工島を作り、あっという間に軍事基地を作ってしまいました。米軍が沖縄から撤退することになれば、間違いなく、中国はあっという間に尖閣を占拠します。いや、尖閣どころか、沖縄そのものも取りに来るはずです。力の弱いところへの侵攻に、容赦はないからです。

きれいごとは侵略時の方便

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 中国は、チベット侵略に際して、予め用意していた「17か条協定」をチベット政府に突き付け、拒否すればラサまで軍事侵攻すると脅します。この17条協定には、一応、立派な文言が書いてあったのです。

「17か条協定」の主な内容

第3条 中国人民政治商会議共同綱領の民族政策に基づき、中央人民政府の統一的指導のもと、チベット人民は民族区域自治を実行する権利を有する
第4条 チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。ダライ・ラマの固有の地位及び職権にも中央は変更を加えない。各級官吏は従来通りの職に就く。
第9条 チベットの実際状況に基づき、チベット民族の言語、文字及び学校教育を逐次発展させる。
第13条 チベットに進駐する人民解放軍は、前記各項の政策を順守する。同時に取引は公正にし、人民の針一本、糸一本といえどもとらない。

 これらの条項を読むと、思わず吹き出してしまいます。チベットの現状を見れば、すべてが180度、真反対だからです。人民の針一本、糸一本とらないどころか、針一本、糸一本残らず強奪しているのが現実です。要するに、中国という国にとって、このような紙に書いた約束事など全く必要ないのです。すべてがその時の方便、便法に過ぎないからです。

国際感覚からずれた日本人の国家観

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 ペマ氏は国家観について、次のように述べています。
「もしも、本当に国家を超えた市民として世界全体をリードし、平和を実現しようというのならば、国際社会を現在の弱肉強食の、各民族、宗教間の対立に満ちた世界ではなく、もっと調和のとれた、秩序ある世界に変えていかなければならない。そのためには、日本が国家として外交、経済、軍事、全ての面で強力にならない限り、そのような道筋を作るのは不可能なのだ。」と。
 更に、「このような理想を目指すのならば、なおさら、現実の国際社会における情勢分析を正確に行わなければならない。国際法や、国旗、国歌に関する国際慣習などは、国際社会の普遍的なルールであり、それを守らずして、国際社会が日本の言うことを聞いてくれるものではない。」とも述べています。
 まさにその通りです。経済は、20年以上低迷を続け、国の防衛は米国に頼り、国旗、国歌を大事にせず、公立学校の入学、卒業式でさえ国旗、国歌を大事にしないような国に、世界をリードなどできるはずがありません。
 ペマ氏は、中国との向き合い方についても、率直な感想を述べています。「日本のように、たとえ自国の不利益になっても、条約を約束事として守ろうとし、かつ、相手国も同じような姿勢でいてくれることを信じる国は、結局馬鹿を見る。」と述べ、「このような態度では、中国のように、国際条約というものは、あくまでその時点での自国の国益に応じて勝手に決められるものと考えている国とはまともに付き合うことはできない」とも述べています。
 たしかに南シナ海における中国の不当な海洋埋め立てに対する国際司法裁判所の判決を、「紙屑」として放り投げた一事をもってしても、これは明らかです。

歴史戦で日本が負ける理由

 ペマ氏は、いわゆる中国や韓国が主張する「歴史戦」についても、次のように述べています。
 「韓国は、歴史的に常に朝鮮半島を侵略していた中国に対し、その行為を抗議したことはない。朝鮮戦争で中国の人民解放軍が介入したことにより、分断国家の状態が続いてしまったという、韓国にとって絶対に許せないはずの「歴史問題」「戦争責任」を、中国との国交交渉で強く提起したこともなければ、現在に至るまで、抗議したことも、外交問題化したこともない。なぜ日本のみが歴史問題で抗議を受けるかといえば、それは、日本が歴史問題を持ち出せば譲ると見られているからであり、事実、戦後の歴史は正直それを証明しているのだ。」。本当に、日本人自身もそう思います。

「おかげさまで」精神が世界を救う

 ペマ氏は、今の経済界についても苦言を呈し、企業はもっと「おかげさま」の精神を復活すべきであるとも述べています。
 具体的には、土光敏夫氏や松下幸之助氏といった経済人の例を挙げ、彼らは「単に自分の企業の成長だけを考えず、経済活動を国家全体の利益にすること、社員を共同体の一員として守ることを常に意識してきた。ある意味、宗教家、また、哲人政治家とも言うべきものだった」とも述べています。
 更に、著者は、日本人の心の中にある「おかげさま」の精神が人材の活用にも必要だし、国際社会にも必要だと強調しています。
 つまり、「これまでの社会は、軍事力や経済力によって安定や平和を得ようとしてきた。しかし、それだけでは世界平和は実現しないことが誰も目にも明らかになってきた。アメリカは「悪」を倒すことによって正義と平和を実現しようとしてきた。しかし、その結果は、アメリカの正義を受け入れない国や民族との果てしないテロ戦争だった。また、中国のように、力だけで他者を征服して訪れる「平和」が正しいはずもない。
 国際社会が必要とする価値観は「愛」と「慈悲」であり「おかげさま」精神である。特に「愛」よりも、仏教では大切な精神して位置付けられる「慈悲」こそが、これからの国際社会に大切なものだと信じるし、この「慈悲」は「おかげさま」精神と極めて共通するものをもっている。このような「おかげさま」精神で国連も改革すべきだし、環境問題も解決できる、と述べているのです。
 私たち日本人は、敗戦によって、多くのものを失いました。仁義礼など基本的なものだけでなく、国家というものに対する意識も薄弱になるように教育されてきました。僅かに「おかげさま」精神は残っているように思いますが、それでも、最近における「振り込め詐偽」などを見ていると、若者世代の精神の劣化を痛感せざるを得ません。
 著者は、中国という共産主義独裁国家によって、征服・蹂躙された国からやってきた人物です。そのようなつらい強烈な体験をもった人物から見た日本という国が、どうあるべきなのか。私たち日本人よりは、より客観的に日本の実情を見ることができるはずです。
 本書は、このような貴重な体験をした著者が、自らの体験に基づき、中国の属国にならないようにするにはどうすればよいのかについて考える、警世の書ということができるでしょう。1人でも多くの日本人が読んで頂けるよう願ってやみません。

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未来の年表(河合雅司)講談社現代新書

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ゆでガエル状態の日本

 今日本が少子高齢社会の真っただ中にある、ということはよく知られています。このことは日本人の「常識」であると言っても過言ではありません。では、このような少子高齢社会の行き着く先には、どのような未来が待っているのか、ということになると、多くの日本人は分かっていません。国会議員や官僚、大企業の経営者でさえ分かっていない、というのが実情でしょう。
 なぜなら、人口減少にまつわる日々の変化というものは、極めて僅かでしかないからです。昨日と今日の変化を示せと言われて答えに窮するばかりです。ましてや長期にわたる変化となれば、なおさら読みにくいものです。しかし、その変化は日々確実に進行しています。ゆでガエルと同じく、じっとしている間にも確実に温度はじわじわと上昇し、気が付いたときには命を落とすということになりかねないのです。

人口減少カレンダー

 著者は、自ら「政府や政府関係機関の公表した各種データを長年、膨大に集め、丹念に分析を試みてきた」と述べるように、きちんとしたデータに基づき、日本の未来図を示したのです。
 その結果、来るべき未来がどのような社会になるのか、ということについて、各年ごとにその現実を示してくれています。著者はそれを「人口減少カレンダー」として私たちに提示したのです。その年次ごとのカレンダーとは、次のようなものです。

2018年 国立大学が倒産の危機
2019年 IT技術者が不足し始め、技術大国の地位揺らぐ
2020年 女性の2人に1人が50歳以上に
2021年 介護離職が大量発生する
2022年 「一人暮らし社会」が本格化する
2023年 企業の人件費がピークを迎え、経営を苦しめる
2024年 3人に1人が65歳以上の「超・高齢者大国」へ
2025年 ついに東京都も人口減少へ
2026年 認知症患者が700万人規模に
2027年 輸血用血液が不足する
2030年 百貨店も銀行も老人ホームも地方から消える
2033年 全国の住宅の3戸に1戸が空き家になる
2035年 「未婚大国」が誕生する
2039年 深刻な火葬場不足に陥る
2040年 自治体の半数が消滅の危機に
2042年 高齢者人口が約4000万人とピークに
2045年 東京都民の3人に1人が高齢者に
2050年 世界的な食糧争奪戦に巻き込まれる
2065年~ 外国人が無人の国土を占拠する

 どうです。これらの項目を見ただけでも衝撃的ではないでしょうか。これらの未来予測が、「政府や政府関係機関の公表した各種データを長年、膨大に集め、丹念に分析を試みてきた」結果だというんですから、考え込まざるを得ないではありませんか。
 2033年というのは、15年後ですから、それほど遠い未来ではありません。その遠くない未来でも3戸に1戸が空き家になるというんですから驚きです。
 そういえば、今日のニュースで、リポーターが「刑務所から脱走した犯人が逃げ込んだ広島県向島は、人口1万4千人の小さな島ですが、そこを捜索するのに1089軒の空き家があるので、簡単には調べきれない」と言っていました。小さな島に既に1,000軒以上の空き家がある、という現実を踏まえて本書を読むと、より一層現、現実社会の実相が伝わってきます。

10の処方箋も提言

 更に著者は、私たちが常識だと思っている「大都市への人口集中と地方の過疎化が加速する」というテーゼは嘘だ断言します。その理由は本書を読んで頂くとして、この著書には、「常識のウソ」が数多く語られています。「老後も東京圏に住み続けるのは、介護難民に陥るリスクを覚悟するようなものだ」とか、「日本は実は水の輸入大国だった」というのもその一つでしょう。
 人口減少社会の未来像について、著者は、次のように語ります。

 人口が激減しスカスカになった国土には、税収不足で予算確保がままならず、老朽化したインフラが放置されている。若き自治体職員が不足して十分な行政サービスが行き渡らない地域がたくさん誕生し、そうした土地にさえ、ひとり暮らしの老いた高齢者がパラパラと住み続ける。

 著者は、こうした暗い未来図に対して、単に嘆いているだけではありません。このまま推移すれば、こうした暗い未来図を回避することができませんが、今からでもこれを回避するため、「10の処方箋」を提言しているのです。大きなカテゴリーは、「戦略的に縮む」「豊かさを維持する」「脱・東京一極集中」「少子化対策」の5つです。その具体的な内容については、本書をご覧いただくとして、国会においては、ここに掲げられているような処方箋について議論し、暗い未来を回避していただきたいものですが、現実はどうでしょうか。
 連日、森友、加計、防衛省日報問題など、国益を損ねるような無益な論争に時間を費やしています。日本の国会の現状や低レベルなマスコミの論調などを考えると、このような暗い未来は不可避なのかもしれません。
 ひとりでも多くの国民が、本書を熟読し、日本の置かれた現状を正しく認識すると同時に、その回避に向け、為政者やマスコミに働きかけをして行く必要があるのではないでしょうか。

■(2007年5月に刊行された本作は、刊行直後から増刷に増刷を重ねて、2017年5月10日時点で、既に46刷 累計発行部数は79万5000部に達した、とのことです。多くの日本人が関心を持ってくれているようです。本体価格:760円)

▶▶▶関連動画(Youtube)著者も出演されています
▶▶▶ラジオ番組:著者も出演されています
▶▶▶このまま行くと日本は滅びますっていう恐ろしい話(KAZUYAチャンネル)

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世界が地獄を見る時(門田隆将・石平)

強者の論理が支配する中華思想

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 日本人にとって、中国ほど理解のできない国はありません。中国というより、中国政府と言った方が正解かもしれません。どこの国も中国を攻撃しようとか、領土を奪い取ろうとかしている国はありません。
 ところが、中国は、毎年、軍事費を10%以上も増大させ、南シナ海や台湾、そして日本の尖閣列島や沖縄まで奪い取ろうとの意欲満々です。中国に占領されたチベットやウイグル自治区における、悲惨な人権弾圧などの実態もよく知られているところです。全国に張り巡らせた監視カメラ、言論の封じ込め、暴動の強権的取り締まりなど、中国の実態は徐々に明らかになりつつあります。
 このような中国共産党の体質は、どのようにして醸成されたものなのか、日本人には理解できません。その辺の感覚について、対談者の石平氏は、次のように語ります。
「中国人にとっての唯一の宗教は民族宗教、つまりナショナリズムであり、中華思想なのである。その中身は、強くなければやられる。逆に言えば、強くなれば、何をやっても許される、ということです。」
 日本人でも「強くなければやられる」というところは理解できます。しかし、「強くなれば、何をやっても許される」という感覚は、日本人には全くありません。
 しかし、現実の中国共産党のやり方を見ていると、石平氏の説明は誠に当を得たものであることが分かります。南シナ海における国際法無視の無法な振る舞い、尖閣列島への領海侵犯行為、更には香港や台湾に対する振る舞いなど、およそ近代国家の所業とは思えないような出来事で溢れています。
 出生から北京大学卒業までを中国で過ごした石平氏は、「中国では、幼児期から「敵を殺すこと」を教えられるといいます。「われわれの子供の時代に教えられたのは、たとえば、、極悪の反動階級のオヤジを、子供がヤリで刺し殺す話でした。・・・たくさんの敵を殺すのは、それは当然の行為であって、やらなければいけないと教えられてきた」というのです。しかも、最大の敵は日本だというのです。日本人ならいくら殺してもいい、というわけです。
 今の中国では、このような教育を受け、更に、日本人を殺す場面を、臨場感あふれる抗日ドラマで毎日見ているというのです。

日本政権への食い込み

 この対談集には、中国がいかにして日本の政権与党に食い込んできたか、ということにも触れています。かねてから私も、なぜ日本の与党幹部の大物の中に親中派が多いのか不思議に思っていました。嘗て、自民党の有力者だった松村謙三氏を篭絡した手練手管なども詳細に語られています。
 今でいえば、親中派の二階俊博幹事長なども、この手練手管で篭絡された口かもしれません。
 小澤一郎なんて政治屋もいました(今もいますが、過去の人と言っても良いでしょう。)。彼も中国大好き人間で、手兵を500人ほど引き連れ、何度か中国詣でをしたことがあります。胡錦濤国家主席と一緒に写真を撮ってもらうことが、無上の喜びのようで、みんなはしゃいでいました。
 その中国で、国民は毎日、日本人を殺す映画を、この上ない娯楽として楽しんでいたのです。日本の政治家のレベルが分かろうというものではありませんか。

韜光養晦(とうこうようかい)

 中国には韜光養晦という言葉があるそうです。その意味は、「自分に力のないときには、野望を一時覆い隠して、〝ソフト”な顔で世界と向き合う」という意味だそうです。
 つまり「鋭利な爪を隠しながら、世界中から資金と技術を自国に吸い込むだけ吸い込む。そして中国経済を成長させる。しかし、それはあくまでも、手段に過ぎない。」というわけです。
 今の中国は、世界中から資金と技術を吸い込み、それを元々自国で独自開発したかのように外国に売り込む。新幹線技術などその典型です。この厚かましい厚顔無恥な国家の振る舞いも、韜光養晦という言葉を想起すればなるほどと合点がいくのです。
 そして世界中から資金と技術を腹いっぱいため込んで経済成長した中国が、今度は隠していた鋭利な爪を出し、剥き出しの覇権主義国家へと変貌し始めたのです。習近平が終身国家主席への道を確立したのは、その野望の総仕上げの段階に入った証左、といえるのかもしれません。

台湾との連携強化

 中国の実情を知れば知るほど、日本は台湾との関係を強化する必要を感じます。対談者の門田隆将氏は、日中国交正常化に際して、一方的に台湾を見捨ててしまった愚を論じています。アメリカが中国の非難をものともせず「台湾関係法」を制定し、アメリカと台湾との事実上の軍事同盟を結んだのに対して、日本は、中国との間で、せめぎあいの交渉もせずに「はいはい、台湾は中国のものです」と拙速に「一つの中国」を認めてしまった、というわけです。
 そのため、門田氏は、「日米共同で電撃的に台湾を国家として承認せよ」と提案します。「総統府があり、ザ・プレジデント・オブ・タイワンがいて、警察・軍・外交官がいる台湾は、どこから見ても中国の施政は及んでいない。れっきとした国家です。」。正にその通りです。歴史的に見ても、台湾は中国の一部であったことは一度もないのです。
 日本も、自国の安全保障を確立する上からも、台湾を含め、インド、フィリッピン、ベトナム、インドネシアといった国々との軍事的連携を強め、できれば軍事同盟関係にまで発展させるべき時代に入ったというべきでしょう。それは単に日本の利益になるばかりでなく、台湾を見捨てた贖罪ともなるのではないでしょうか。
 本書は、現代の中国のあり様、日本のこれからの将来を考えるうえで、さまざまなことを考えさせてくれる一冊です。

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トランプ登場は日本の大チャンス(日高善樹)

著者は元NHKマンで軍事の専門家

 著者の日高義樹氏は、元NHKの特派員です。現役の頃から、世界情勢、特にアメリカからの「日高義樹ワシントンリポート」は有名でした。NHKのニューヨーク支局長、ワシントン支局長などを経て退職しましたが、その後、ハーバード大学で客員教授を務めるほか、ハドソン研究所主席研究員を務めるなど、今でも世界を股に活躍しています。

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 著者が現役の頃、毎週のように放送していた「日高義樹のワシントンリポート」は、欠かさず見ていました。それだけ迫力があり、世界の軍事情勢を知るのに格好の情報源だったからです。この日高リポートの特徴は、キッシンジャーをはじめ米国の著名な政治家や学者、また軍事関係者に直接取材し、「今のアメリカが何を考え、何をしようとしているのか」、ホットな情報を、日本人に伝えてくれることでした。
 原子力空母の甲板から中継したり、司令官との対話や機密の多い指令室からのリポートなど、米国に深く食い込んでいなければ取材できないような情報が満載でした。その日高氏が著した最新刊が、本書です。

 著者は、「乱世における平和主義の危険」と題して、次のように述べています。
「アメリカはもはや日本を、特別視したり特別扱いしたりしなくなった。日本はこのトランプ政権の考え方をスプリングボードにして、国際社会における立場を確立し、日本の利権を自らの力で守らなければならなくなっている。」
「すでに述べてきたように、国際社会における利害の決定には、平和主義ではなく力が必要なのである。尖閣列島を中国が軍事力で占領しようとした場合、日本は自国の領土を守るためには戦わなければならない。アメリカが助けてくれるかどうかなどと、アメリカの顔色を窺う問題ではないのである。北朝鮮に拉致された日本人を救済する問題も全く同じである。」
著者は、アメリカは徐々に太平洋から引きつつあることは明白で、日本は自分の国は自分で守らなければならない、そういう時代に来たと断言しているのです。

核が最も安上がりで効果的な装備

 そのうえで著者は、日本の核武装論について、次のように述べています。
「アメリカが「日本には核兵器を持たせない」というところから出発したのは事実である。それは独立した日本がソビエトと手を組んだり、中国と協調したりすることを恐れていたからである。だが、そういった懸念がなくなり、日本は核兵器を持っても構わない、と言いはじめた。その背景には、核兵器が最も安上がりで効果的な軍事力であり、効果的な抑止力であるからだ」というのです。
 他方、「日本は、核兵器によって大きな犠牲を被ったことから核兵器そのものに反対しており、核兵器を保有することを拒否するだけでなく、世界中の核兵器を廃絶したいとさえ考えている」とも述べています。平均的なマスコミの論調も、そんなところでしょう。
 更に、著者は、「第二次世界大戦とは違い、世界では軍事力は抑止力であり、国の安全を守るものだと考えられている。そして最も確実で安上がりな軍事力が核兵器であることを理解している。この点についての理解が世界の国々と日本では、全く違っている。チャック・ヘーゲルやヘンリー・キッシンジャー、そしてジェームス・シュレジンジャーといったアメリカの戦略専門家は、国民の安全を守ることが国家の指導者にとって最も重要な責任であり、その責任を果たすためには核兵器が必要であると考えている。」とも述べています。
 アメリカの軍事専門家たちは、国の安全を確保するためには、核兵器は必要悪として明確に認識しているのです。
 このことがアメリカ人の間に、「日本は平和主義を掲げて軍事努力をせず、アメリカの軍事力のおかげを被って経済的な利益を貪っていると非難する声が高まっている。この非難の声が、日本は十分な軍事的負担をしていないというトランプの主張につながっている」というわけです。

周辺国の軍事情勢

 日本の周辺国の軍事情勢について、著者は、それぞれ次のように述べています。
◎北朝鮮
「北朝鮮は、すでに核保有国としての立場を固めつつあり、2017年にはアメリカが、かつて保有していたミサイル潜水艦ポラリスと同じような性能を持つ潜水艦を実戦配備しようとしている。しかも2020年にはさらに性能の優れたミサイル潜水艦を実戦配備することにしている。ミサイル潜水艦はKN11と呼ばれる固形燃料を使った最新鋭の弾道ミサイルを装備し、日本だけでなく中国、アメリカも脅かそうとしている」。
◎韓国
 「北朝鮮の軍事的な脅威に対抗して、韓国も軍事力の増強に取りかかっている。アメリカ海軍の情報によると、韓国政府は2036年までには、小型空母2隻を実戦配備しようとしている。その小型空母は3万トンクラスで、現在イタリア海軍が所有している空母とほぼ同じ性能を持っている。実戦配備が始まるのは10年後の2028年、実戦配備が完了するのは2036年と言われている。このほか韓国は、敵前上陸作戦のためのヘリコプター空母を開発する計画をたてている。このヘリコプター空母は、2039年には垂直離着陸ができる戦闘機やヘリコプター数十機を搭載することになっている。
 韓国はさらにイージス駆逐艦の増強にも力を入れている。すでに2013年9月には韓国海軍当局者が韓国国会で報告し、2023年までに7600トンクラスのKDX3型イージス艦を3隻、建造すると述べている。このイージス艦は、(中略)航空機だけでなく、ミサイルを撃ち落とす能力を持つ。竹島をめぐる紛争が紛糾した場合、日本の厄介な相手になるのは確実だ。」
 このような韓国軍の増強について、著者は、「アメリカ海軍の見方によると、海軍力のない北朝鮮を相手にしているのではなく、明らかに日本を敵として行われている」とも述べているのです。

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◎中国
 「中国は尖閣列島を含む東シナ海や南シナ海で、軍事行動を拡大強化する一方で、アメリカ第7艦隊を力で脅しつける政策を続けている。中国の習近平は中国共産党が結成されてから百年目の2021年、そして中国共産党国家ができて百年になる2049年を目標に、中国を政治的にも軍事的にも世界の超大国にしようと全力をあげている。アメリカの情報関係者は、2021年前後には中国が台湾をめぐって緊張を高め、習近平の政治的威信を高めるデモンストレーションを行う可能性が高いと述べている。」
◎ロシア
 「ロシアのプーチンは、北太平洋から日本海にかけて軍事的な影響力を拡大しようと考えており、ウラジオストクに空母と潜水艦からなる新しい艦隊を実戦配備する計画を推し進めている。」

 このような日本周辺国の軍事情勢を踏まえ、総括して著者は、次のように述べています。
「このように日本の周辺では中国、ロシア、北朝鮮、韓国といった国々が軍事力を強化し、日本に対する攻撃的な姿勢を強めている。日本が軍事的対応に迫られていることは明白である。中国は、キッシンジャーが指摘しているような国家としての威信のためだけでなく、現実問題として日本の安全を脅かすような軍事態勢を強化している。ところが、こうした状況に対して日本は日米安保条約のもと、アメリカの軍事力に守ってもらうことだけを考えている。(中略)

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 日本は長いあいだ、日米安保の枠のなかで安眠を貪ってきた。キッシンジャーが日本は独自の軍事力を持たなければならないと言っているときに、駆けつけ応援といった構想でお茶を濁そうとしているが、いまや経済大国の日本に求められているのは、そういった局地戦争への対応ではなく、地域全体を守るための積極的な安全保障体制を作ることである。」

日本に必要なのは強力な抑止戦力

 では、日本は今後、どのような軍事力を持つべきなのか。この点について、著者は、次のように述べています。

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 「日本が必要としているのは、ミサイルと核兵器の時代に中国やロシア、北朝鮮だけでなく、アメリカを含めて日本に攻撃を加える能力を持つ国々に対する強力な抑止力である。日本が持つべき抑止力は、精度の高い中距離、および長距離弾道ミサイルと超小型の核弾頭である。(中略)
 この弾道ミサイルは固形燃料によって発射されるものでなければならない。道路の上を簡単に移動したり、航空機で運んだり、あるいは船舶で運んだりできるものでなければならない。そのうえに最新鋭のGPSや内蔵型の誘導ミサイルを持ち、正確な攻撃能力を持つ精密兵器に近い兵器を持つ必要がある。当然のことながら、抑止力として最も有効なのは、日本人が忌み嫌っている超小型の核弾頭である。こうした超精密兵器の弾道ミサイルを常時発射可能な体制に置き、混乱する世界で、日本を攻撃しようとする国々を威嚇しておくことが、抑止力なのである。」
 更に、著者は、ミサイル潜水艦の必要性についても言及しています。
「抑止戦力の中で最も効果的なのは、いま北朝鮮が開発しているミサイル潜水艦である。世界で現在ミサイル潜水艦を持っているのは、アメリカ、ロシア、中国、それにイギリスとフランスである。ミサイル潜水艦を建造することは、一般に考えられているほど難しくない。」

国内での本格議論が必要

 このように、おもに軍事を中心に世界を見てきた著者の眼から見ると、日本という国がいかにお花畑のなかで暮らしているかが手に取るようにわかる、ということです。日本に住んでいる私でさえ、このままでは日本は消えてしまう、という危機感を持っています。
 連日、機関砲をもった艦船が尖閣諸島に押し掛け、領海侵犯を繰り返しているというのに、日本側は海上保安庁の巡視船がひたすら警告を発するのみ。先頃、中国海軍の軍艦が津軽海峡を横断した際にも、明らかな領海侵犯をしているのに、日本側は、警告しただけ。完全に日本をなめ切っています。
 北朝鮮のミサイルは何度も日本のEEZ内に着弾しました。その際にも、「厳重に抗議する。絶対に許されない行為だ」と強く反発しますが、それ以上に何の行動もとりません、いやとれないのです。国家主席が拉致を認めている国に対してすら、経済制裁という名の間接的影響しか行使できない国、それが日本という国なのです。
 もうそろそろ、日本は、本格的に超小型の核ミサイルの装備について、真剣に論じるべき時期に来たと思います。日本を愛する著者が、遠く日本を離れ客観的に世界情勢を俯瞰し、軍事専門家として、率直に書き下ろした本書を、1人でも多くの日本人に読んで頂きたいと思います。そして、今度こそ、日本の防衛をどうすべきかを、真剣に議論してほしいのです。(H29・7・21記)

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江戸の大誤解(水戸 計)

江戸は手の届くところ

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 江戸時代というと、はるか遠い遠い昔のような気がします。でも、今73歳の私の立場からすれば、私の祖父のお父さん、つまり曾祖父は明治元年の生まれです。つまり、祖父の祖父なら立派な江戸時代真っ最中の人間だったのです。そう考えると、江戸時代というものも、それほど古い時代ではない、とも言えます。
 本書、「江戸の大誤解」は、江戸時代に焦点を当て、水戸黄門こと、徳川光圀など、時代劇に出てくるスターなど、さまざまな人物の実像に迫り、紹介してくれます。また、キリシタン一揆で有名な島原の乱や、江戸時代最大のスキャンダルである江島生麦事件などの舞台裏も紹介してくれます。
 更に、江戸時代の庶民の生活は、実際にどのようなものだったのかなどについても、多くの事例を交えて紹介してくれています。

田沼意次は正直者だった?

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 私は、田沼意次と聞くと、すぐに賄賂をとる金権政治家というイメージが浮かびます。教科書でもそのように習ってきたからです。この点について、著者は、江戸時代の倫理観は今とは全く違う、と言います。「江戸時代、賄賂は決して悪ではなく、むしろ物事を円滑に進めるためには、必要なものという認識だった。」というのです。そのうえ、「清廉潔白なイメージのある寛政の改革の指導者、松平定信も意次のもとにご機嫌伺いに行ったという記録が残っている」というのです。松平定信も賄賂とは無縁ではなかった、というわけです。
 また、京都の奉行所で与力を務めた神沢杜口は、田沼意次について、次のように書き残しているというのです。
「外面は親しみやすく諸大名とは親しく付き合い、自身の出世を謙遜し、下級の家来にまで親切に声をかけるなど、少しも権勢を誇るところがなかった」。こうなると、今まで学んできた意次像は何だったのか、と唸るしかありません。原典に当たることの大切さを、改めて教えられたような気がします。

参勤交代の実態

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 参勤交代と聞くと、私たちは、長い行列で優雅に静々と行われていたというイメージを持っています。しかし、その実態は、そんな優雅のものではなく、費用を抑えるため各藩は涙ぐましい努力をしていた、というのです。
 例えば、行列で使用する道具などは各宿場町でレンタルしていたというのです。国許から持っていけば、とてつもない費用がかかるからです。
 レンタルしたのは、風呂桶や便器、食器、漬物樽、夜具、碁や将棋などの娯楽品などです。諸藩の中には物品だけでなく、大名行列を構成する中間小者、つまり荷物を運ぶ役目をする者すらも、レンタルで調達するところが少なくなかったというのです。
 こういう中間小者は殿さまへの忠誠心などありませんから、チンタラと歩き格好が悪かったようです。もっとしっかり歩くように言うと、料金の割り増しを要求されると言うんです。そんな風景を思い浮かべると、思わず吹き出しそうにもなるではありませんか。実に人間味が溢れているではありませんか。
 この本を読むと、こんな面白い実相を沢山知ることができます。是非一度、お読みになってください。

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「カエルの楽園」が地獄と化す日(百田尚樹)

いわば「カエルの楽園」の続編

 先に百田尚樹氏の「カエルの楽園」を読んだことがあります。その際、今の日本の置かれた状況はそこに描かれたカエルの楽園と全く同じだと感じたのを覚えています。

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 カエルの楽園は、「カエルを信じろ」「カエルと争うな」「争うための力を持つな」という不思議な「三戒」を守って平和に暮らしているツチガエルの国が、凶暴なウシガエルたちに滅亡されられるという寓話です。言うまでもなく、ツチガエルの国は日本であり、ウシガエルの国は中国です。
 狡猾で凶暴なウシガエルたちは、一気にツチガエルの国をせん滅するような愚かな作戦はとりません。サラミ作戦と称するように、少しずつ少しずつ薄皮を一枚ずつ剥ぐようにツチガエルの国に迫ってくるのです。最初は漁民が、次いで海警が、侵略する区域も最初は接続水域から入り、次いで領海に入ってきます。最初は一隻から、次いで数隻で、というように日本側の感覚が麻痺するように徐々に侵略の度を上げてきます。その都度、日本側の反応や米軍の反応を見ながら、ジワリジワリと侵入の度を高めてくるのです。そして、現在では、領海内に海警はもちろん、軍艦までもが入ってきています。
 これと呼応するように、日本側の反日、朝日新聞や毎日新聞、それに沖縄の地元新聞である沖縄タイムスや琉球新報は、国民に危機感を持たせないように「こんなことで危機感を持ってはならない」「話し合いによって解決しなければならない」という論調を展開します。「中国軍艦」という呼び方さえ、「中国艦」と呼び、「危機ではない」と強調するのです。
 このようなマスコミの論調の結果がどういう結果を招くのか。そのことも本書では詳しく語られています。中国がチベットやウイグルで行ったのと同じことが起こるのは火を見るより明らかです。

軍事大国にしたのは日本のODA?

 周知のとおり、核兵器を保有する軍事大国、中国を攻撃しようという国など地球上どこにも存在しません。それなのに、中国は過去20年間、毎年10%以上軍事費を増強させ、周辺国を威圧する恐ろしいウシガエルの国に成長しました。その成長を支えたのは、誰あろう日本です。6兆円ものODA(政府開発援助)と経済界の支援、技術移転で、中国の経済成長と軍拡を助けたのです。
 そして丸々と成長したウシガエルは、いよいよ本来の本性を表し、核兵器をちらつかせながら周辺国を脅かし始めています。南シナ海では、国際仲裁裁判所の判決を「紙屑にすぎない」と切り捨て、侵略の意図を隠そうともしません。
 前著「カエルの楽園」では、中国による日本支配の後の状況がどうなるのか、という点については言及していませんでしたが、その続編ともいうべき本書では、日本占領後の姿も生々しく描かれています。
 中国で生まれ育ち、中国の最高学府である北京大学を卒業した石平氏は、その状況について、次のように述べています。
「毛沢東は政権をとってわずか1年の間に、反革命分子鎮圧運動で71万人を殺しました。これは共産党が業績として公表した数字です。地方の名士、財界人、有力者、国民党政権時代の代表的な人物を全部捕まえて、人民裁判で2時間で3百人の死刑を言い渡す。こうして前政権時代のエリートを肉体的に一掃しました。これが共産党のやり方です。」
 日本占領後には間違いなく、このような事態になるでしょう。最初に占領されるのは沖縄です。石平氏は、沖縄が占領された場合、間違いなくチベットのようになると、次のように述べています。

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「チベットが中国と結んだ17か条協定では、「チベット人民は民族区域自治を実行する権利を有する」「チベットの現行政治制度に対しては、中央は変更を加えない。」「(チベット)人民の針一本、糸一本といえども略奪しない」「チベットの農・牧畜・商工業を逐次発展させ、人民の生活を改善する」「チベットに関する各種の改革は、中央は強制しない」とされていました。一国二制度で、自治や自由が認められるかのように偽装するわけです。」

チベット、ウイグルと同じになる

 なるほど、と思いませんか。このような約束をしたチベットやウイグルが今どんな悲惨な状態になっているか。事実が証明しています。守られていることなど、一つもないのです。それどころか、大変な人権弾圧と虐殺、民族浄化がなされています。一人でも多くの日本人がこの実態を知るべきです。
 イギリスから香港を返還させるときに交わした約束は、「50年間現在の香港の状態、自由と民主主義を守る」とした一国二制度。20年を経た現在、今どうなっているでしょうか。既に、民主主義の根幹すらも守られていません。中国政府が選んだ複数の人物の中から選べなんて、そんな民主主義は存在しません。今後、香港も、中国本土並みの更に強烈な支配体制が敷かれることは間違いありません。
 本書を読めば、これから中国がどのような侵略を行ってくるか、私には十分に想像できますが、多くの日本人はまだそのことに気づいていないでしょう。
 百田尚樹氏は、日頃から中国の脅威について警鐘を鳴らしてきました。石平氏も、自らが中国で生まれ育ったからこそ、皮膚感覚で中国の恐ろしさ、残酷な国民性というものを十分に理解し警鐘を鳴らしているのです。
 ひとりでも多くの国民が「カエルの楽園」と「カエルの楽園が地獄と化す日」を読まれ、中国の脅威に立ち向かっていっていただきたいと思います。特に沖縄の人たちにこそ、真っ先にこの本を読んで頂きたいと願うばかりです。

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塩狩峠(三浦綾子)

氷点で有名な作家

 最近、小説をあまり読んでいないことに気づきました。経済に関するものや時事・啓蒙に関する本に偏っていたのです。そこで純文学的な小説はないかと書店で立ち読みをしながらこの本と出合いました。

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 作家の三浦綾子さんは、「氷点」で超有名になった作家です。71万部を売り上げたそうです。この小説は懸賞小説の入選作品で、日本テレビの「笑点」の題名の元になったと言われるほどの作品でした。実は、私はこの氷点を読んでいないんです。その罪滅ぼしのような気持ちもあり、三浦綾子作品を読んでみようという気になったんです。三浦作品に外れはないと確信していたからです。

深く静かに貫く愛

 この「塩狩峠」、読み始めてすぐに引き込まれてしまいました。筆力のある作家というのは、最初の1ページ目で読者を物語の世界に引き込んでしまうものなんですね。
 主人公の永野信夫と吉川ふじ子の愛の物語ですが、そんな通俗的な表現をするにはもったいないくらい奥の深い小説です。
 主人公の永野信夫は幼少時、自分には母はいないものと思っていました。母は、当時ヤソ(耶蘇)と呼ばれていたキリスト教の信徒だったのです。そのため、義母、つまり主人公の祖母に勘当され、家を出ていたんです。この祖母の影響もあり、主人公は、キリスト教には全く興味を持たずに成長しましたが、祖母の死とともに、母と同居することになります。気づけば父も信徒になり、最後には自分も熱心なキリスト教徒になっていました。それどころか、国鉄(現JR)職員として札幌に住んでいる頃には、信徒に説教をする牧師にまでなります。
 主人公は、その後、愛する吉川ふじ子と離れ旭川に転勤することになります。いわば遠距離恋愛という形です。この小説の本質はその宗教に関することではありません。主人公と吉川ふじ子の純粋な愛が基本的なテーマなのです。

悲しすぎる結末

 当時、結核は伝染性の不治の病とも言われ、忌み嫌われる病気でした。最愛のふじ子がその病に罹り、10年以上も臥せっているというのに、信夫は愛するふじ子を忘れずひたすらの愛を貫く。平成の御代ではなかなか難しいことでしょう。彼はふじ子の恢復とともに、結婚することになります。結納のため、赴任地の旭川から札幌に向かいます。その列車で、思いがけない大事故が起こり、事態は暗転します。
 その経過の描写の素晴らしさ、そして、突然主人公が命を落とし、ふじ子との別れが来るまでのドラマチックな展開とふじ子の受ける深い悲しみ。もう涙なしには読めない迫力があります。
 作中、キリスト教の教えが度々出てくるので、著者は随分キリスト教に造詣があるんだな~と思っていたら、著者自身、キリスト教徒でもあったんですね。私は、無宗教な人間ですから、これを読んだからと言ってキリスト教に感化されるようなことはありません。でも本書は決して宗教小説ではありません。一青年の愛と信仰に貫かれた生涯を通し、人間存在の意味をも考えさせてくれる自省の書でもあります。元外務省情報分析官の佐藤優氏が帯で『人間には、こんな「善」の力もある』と書いていますが、まさにその通りです。是非、ご一読いただきたいと思います。

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日本は世界一の「医療被曝」大国(近藤誠)

驚き桃の木の医療被曝の実態

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 私は、かねてより日本の医療行政や医学界というものを基本的に信用していません。なぜなら、これら所管の厚労省や学会は、真に国民の健康というものを最優先には考えていない、と感じるからです。例えば、今のお医者さんの中で、自分がガンになった時、本当に手術や抗癌剤、放射線治療を受けるかと聞いたら、多くのお医者さんは拒否すると思います。なぜなら、これらのがん治療は、してもしなくても最終的な生存率に差はなく、むしろ治療をすることによる体へのダメージが極めて大きいということを知っているからです。
 著者の近藤誠さんは、私が48歳の時(つまり今から25年前)、健康診断、人間ドッグを一切拒否することを決断するきっかけを与えてくれたお医者さんです。著者の「患者よがんと闘うな」という本は、一時有名になりました。あの本を読んで以来、私も妻も一切健康診断、人間ドッグを拒否してきました。平成28年12月現在、私は73歳、妻は70歳ですが、この歳まで歯医者以外、医者の世話になることもなく無事に過ごしてこられたのは、偏に著者のお陰と心から感謝しています。医者が自らの属する医学界に背を向けるということは背信行為であり、職場での昇進を犠牲にするなど大変な不利益を生じますから、大変な決断を必要とします。それでも、真実は知らせなければいけない、という医者として、いや人間としてやらなければいけない、という良心に駆られた結果だと思います。
 本書でも、本当に驚くべき真実が沢山語られています。以下、本書のほんのさわりだけご紹介します。

CT検査で受ける被曝量の凄まじさ

 国際放射線防護委員会(ICRP)では、一般人が浴びていいのは「年間1ミリシーベルトまで」と定めています。
 ところが多くの患者が受けるCT検査の場合、著者によれば、僅か1回の検査で約20ミリシーベルトになってしまうというんです。CT検査の場合は、更に造影剤を入れてもう1回か2回撮影することは珍しくないそうです。2回で40ミリ、3回で60ミリシーベルト、これだけの量を1回の診察時に受けているということになります。つまり、浴びてもいい年間(!)線量の60倍です。そういうことを多くの国民は、認識していないのではないでしょうか。
 私の若い頃、職場で集団検診と称して胃と胸のエックス線検査を受けました。高い確率で「要精密検査」の宣告がなされました。本番の精密検査時には、飲みにくいバリウムを飲まされ、喉のあたりを1回、「ハイもう1回飲んで」の指示でもう1回、その後正面から、右から、左から、うつ伏せからそれぞれ各1回、胃部に突起物で圧迫を加え、更に2回ほど、回転台が下がって頭に血が上るような姿勢で1回など、合計10枚前後は放射線を浴びている筈です。その当時からでも、放射線をこんなにバシャバシャ浴びてよいものか、と大いに疑問に思いながらも「職場での検査は義務」ということで已む無く検査を受けていたのです。
 こういう検査の実態は、今もほとんど変わらないのではないでしょうか。この事実を知ってもなお、日本の患者さんは真面目に「精密検査」を受け、反乱も起こさないものなのでしょうか。

福島原発事故との対比

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 福島県浪江町は避難指示解除準備区域に指定されていますが、その浪江町の空間放射線量は2015年3月12日時点で0.09マイクロシーベルト毎時だったそうです。これをシーベルトに換算すると年間0.79ミリシーベルトになります。年間1ミリシーベルトにも達していないということです。しかもこの0.79という数字は、空間線量であって、実際の被曝線量ではありません。実際の被曝線量はもっと大幅に下がるとのことです。
 この数字を医療被曝線量と比べるとどうなるか。胸部エックス線撮影が0.05ミリシーベルト、胃のバリウム検査で最低3ミリシーベルト、胸部CT検査で約10ミリシーベルトだそうです。これらをまとめて受ければ13.05ミリシーベルトということです。それもたった1回の検査で受ける被曝量です。浪江町の空間線量との差は歴然としています。
 ところが、浪江町の人たちに対する住民アンケートの結果によれば、避難指示解除が出ても「戻らない」と決めている人が48%もいるそうです。年間1ミリシーベルトにも達していない放射線量におののく一方、このような大量の放射線医療被曝線量を検査という名目であれば受け入れている日本人の感覚、これっておかしいと思わないんでしょうか。

マンモグラフィー検診にも疑問

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 著者は、マンモグラフィー検診についても警鐘を鳴らしています。スイスで女性9万人(!)を対象に、マンモグラフィー検診を受けるグループと、受けないグループに分け、比較試験を行ったんだそうです。
 その結果、各グループでの乳がんの発見数や死亡数を、その後25年間にわたって調べた結果、「マンモグラフィー検診は、乳がんの死亡率を減少させない」、と結論付けたというのです。当然、スイスではマンモグラフィー検診の廃止を勧告しました。
 ところが日本ではどうでしょう。このような比較試験さえ行っていないというのです。それどころか、有名芸能人を使って、もっと積極的に乳がん検診を受けましょう、大事な家族を守るために受診しましょう、というPRさえしているのです。有効性に関する自らの実証的なデータを持たないのに、です。医学界は、スイス人は日本人と違う特殊な人種だから参考にならない、と考えているのでしょうか。日本の医療行政、医学界、あなたはそれでも信用しますか。
 日本の医療被曝の実態、これは日本人の多くが、もっと正確に知る必要があると思います。僅か200ページの新書本です。1000円札で200円もおつりのくる本で、日本の放射線医療の実態を知ることができるんです。文字通り、自分自身や大切な家族の身を守るためにも、そして、私のように無駄なお金を使わないで済むように、是非一度お読みになることをお薦めします。

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まだGHQの洗脳に縛られている日本人(ケント・ギルバート)

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日本礼賛の著者

 私は今の日本が大好きです。世界で一番住みやすい、素晴らしい国だと思っています。朝から晩まで電気はふんだんに供給されています。蛇口をひねればいつでも清潔な水が飲めます。お風呂もスイッチ一つで沸かすことができます。トイレも温水シャワーでお尻を洗うこともできます。女性が夜ひとりで歩くこともができるほど治安もいい。

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 著者のケントギルバート氏も東京に住んでおり、東京のすばらしさをべた褒めしています。かれは、東京以外の地方についても、次のように日本のすばらしさを表現しています。

「東京以外の地域もまた面白い。北は札幌か仙台、長野、名古屋、京都、大阪、広島、福岡などの大都市はどれも美しく整備され、治安もよく、電車や地下鉄は格安で清潔。しかも、事故でもない限り、日本の鉄道が時間に遅れることは滅多にありません。以前は深刻だった都市部の交通渋滞も、近年はかなり改善されましたし、空気もきれいになりました。
 田舎に行けば、長い歴史と伝統、美しい自然ときれいな水、そして各地方によってそれぞれ異なる、個性的でおいしい郷土料理が残っています。言葉も各都道府県によってかなり違っていて、それぞれに深い歴史と人間の温かみを感じます。
 しかし、なかでももっとも素晴らしいのがこの国に住む人々です。礼儀正しく、真面目で、働き者で、思いやりのある人が圧倒的多数です。」

 日本礼賛は、この後も続きます。私も、常々、日本は本当に素晴らしい国だと思っています。現役時代に先進国や後進国も含め、外国へ10か国以上は訪れたことがありますが、いつでも日本に帰る度に「日本はいい国だ」と強く再認識したものです。

反日日本人が多いのは

 ところが、日本人のなかには、このような日本が嫌い、つまり反日の日本人がかなりの数存在する、というのも事実です。特に、報道機関にこれら反日族が多いのが気になっています。これら反日日本人には、「護憲、反政府、親中・親韓」といった共通項があります。日本政府に対しては、猛然と批判・中傷を行いますが、中国や韓国への批判は皆無と言ってもよいほどに極めて抑制的です。
 反日ですから、国歌も国旗も嫌いです。また、憲法を異常なほどに愛し、指一本触れさせようとはしないという特徴もあります。今の日本は本当に素晴らしい国だというのに、どうしてこのような反日の人間が少なからず存在することになってしまったのか。拭えぬ疑問として常に脳裏にありました。

 その疑問を解消してくれたのが、本書「まだGHQの洗脳に縛られている日本人」です。著者は、テレビなどでもお馴染みのケントギルバート氏。彼は、米国カリフォルニア州の弁護士です。トータルで40年近くも日本に住んでおり、日本人よりも日本的な生活を愛する人です。
その彼が、なぜ日本人には反日日本人が多いのか、という謎に答えてくれました。それが本書なのです。

厳しい報道管制

 著者によれば、反日日本人が量産された原因は、終戦直後の昭和20年9月に、占領軍GHQによって定められた、「日本人に与うる新聞遵則」にあるというのです。この遵則は、通称「プレス・コード」と言われ、ここに新聞社が守るべき30項目が列挙されていたのです。ここで、禁止項目の一部のみ列記してみましょう。
・GHQに対する批判
・極東国際軍事裁判に対する批判
・GHQが日本国憲法を起草したことに対する批判
・検閲制度への言及
・アメリカ合衆国への批判
・ロシアへの批判
・英国への批判
・朝鮮人への批判
・中国への批判
・その他連合国への批判
・満州における日本人の取り扱いについての批判
・ナショナリズムの宣伝
・神国日本の宣伝
・戦争犯罪人の正当化及び擁護
・占領軍軍隊に対する批判
・解禁されていない報道の公表
等々、30項目が列挙されていたのです。当時は、新聞が最大の広報媒体でしたから、GHQは新聞を厳しく監視していたのです。
 ここに列挙されていることで分かるように、終戦後の一時期、日本ではGHQによって一般国民の文書すらすべて検閲の対象とされていたのです。すべての国民の電話や手紙が盗聴や開封の対象となっていたのです。

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 2013年、憲政資料館でその検閲作業に従事していた日本人4,000名の名前や地位、給料などが明らかになりました。早稲田大学の山本武利名誉教授によって発見されたのです。開封された文書は2億通に達するということも明らかになりました。私は、検閲の作業に携わった人たちを責めるつもりは全くありません。戦後の厳しい食料事情の中、誰もがただひたすら生きることに懸命な時期だったからです。
 問題は、上記のプレス・コードが、現在の日本人に与えている影響です。GHQに対する批判、アメリカ合衆国に対する批判、朝鮮人に対する批判、中国に対する批判、GHQが憲法草案を起草したことに対する批判、こういったものがすべて批判することを禁止されていたという事実です。
 これらの決まりに反した新聞は発禁などの処分を受けます。ちなみに朝日新聞も一度、業務停止処分を受けたそうです。新聞社にとって発禁処分は、社員の生活が懸かっていますから、盲従せざるを得ません。現在の朝日新聞や毎日新聞が、反日的態度を堅持しているのは、これがトラウマになっていると考えざるを得ません。GHQの強烈な指導を墨守する習癖が身につき、それらの社員がそのまま幹部社員になっていったと考えると、現在の反日行為のすべてが素直に理解できるのです。

日本国への批判は一切お咎めなし

 賢明な読者ならお分かりだと思います。これらの項目の中には「日本政府に対する批判」や「軍部に対する批判」は入っていなかったのです。日本政府に対する批判は、いくらやってもよかったのです。今日まで続く、強硬な政府批判はこのときにその汎源があると言っても過言ではないでしょう。

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 検閲などというおぞましい事実は隠蔽され、朝鮮人に対する批判も中国に対する批判も、一切禁止されたなら、向かうべき攻撃の対象は、日本国や日本政府、日本軍ということになります。日本の報道機関が、なぜこれほどまでに反日的で親中・親韓なのかの謎が解けてきたと思いませんか。
 なぜ「20万人の女性を強制連行して性奴隷にした」などという荒唐無稽な作り話がなぜできてしまったのか、といった事情も、本書を読めば十分に理解できます。
 また、当時のルーズベルト大統領が、「いかにして日本を戦争に追い込むか」に腐心していたかといった事情も、本書によって理解することができます。
 靖国神社問題についても、民主党の菅直人元総理は、靖国参拝に対して徹底的に反対しておきながら、アメリカに行くと平気な顔でアーリントン墓地に参拝する。日本のために散華した兵士を弔わず、米兵のために弔う。こういう歪な政治家が跋扈しているのも、その汎源は、すべてこのGHQの発したWGIPプレス・コードにあるのです。このような洗脳総理を頂くことになった不幸に、日本人もそろそろ気づくべきだと思います。

もう洗脳から解放されるべき

 繰り返しますが、WGIP(War Guilt Information Program)とは、大東亜戦争後の昭和20(1945)年からサンフランシスコ講和条約発効によって、日本が主権回復を果たした昭和27まで7年の占領期間、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が占領政策として行った、戦争への罪悪感を日本人の心に植えつける宣伝計画 だったのです。つまり、すべて連合国側だけが正義で、日本側はすべて不正義で悪だったという筋書きです。
 戦勝国が敵国を占領し、支配するとすれば、このような筋書きを強要するのは、勝者の論理として理解できます。しかし、既に戦後70年です。これだけの年月が経過したにもかかわらず、依然としてこの占領政策を忠実に守っている報道機関。それって可笑しくありませんか。
 私たち日本人は、もうそろそろこのような「金縛り」から解放され、韓国や中国に盲従することなく、独自の日本国家、独自の日本国憲法を新たに作っていく、そういう時期に来ているのではないでしょうか。日本人としてのプライドが持てるようになる本書を、是非一度お読みいただくことをお勧めします。

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ウイルスの侵入で破棄されました

(ここからの文章は、ウイルスの侵入でしょうか。上記のGHQの記事を掲載している間に、何本かの書評が突如破棄されてしまいました。お詫びいたします。)

<破壊された文章・復活不能です>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

�%1�ては即退去。水は風に吹かれてまともに命中もしない。その様子を日本国民が固唾をのんで見守っていたんですからね。日本の最先端の原子力技術って、事故が起きたらこんな方法でしか対応できないのかと、本当に悲しくなったものです。
 ロボットだって、日本は「ロボット大国」と言われていたのに、原発内部を調査するロボットは、アメリカから借りなければ調査できなかったんですもんね。危機に対する対応能力の低さは、もう救いがたいレベルですね。北朝鮮が発射したミサイルが日本列島を横断して太平洋に着弾するまで追跡できなかったなんてこともありました。また、同じく北朝鮮が沖縄方面に向けて発射したミサイルも、発射後3分ほど把握できなかったなんてこともありましたね。事前に発射予告があってすらこの体たらくですから、本当の戦争になったら、何の役にも立たないということですね。

人類は相当に強い種?

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 両氏は、人間は放射能に対してかなり耐性があるのではないかという視点から、次のようなやり取りをしています。
内田 僕ら子供の頃って原水爆実験どんどんやってたわけじゃない、太平洋で。ストロンチウム90なんか日本列島に降り注いでいたわけでしょう?・・・あの頃、ストロンチウム90が降ってくるからっていうんで必死で傘差してたじゃない。雨に当たったら頭がハゲるって。
高橋 あったよね。中国の核実験のあと、「雨は危ないから傘差せ」とか。
内田 そうだよ。僕ら、子供の頃からそうやって放射性物質を浴び、人工着色料とか人工甘味料とか食べて、発がん性物質の海の中を泳いできたわけだよね。それが馬齢を重ねて60歳まで生きててさ・・・
内田 だから人類は相当に強い種だと思うよ。ネズミよりゴキブリより環境に対する適応力が高いんじゃないかな。チベットに鳥葬ってあるじゃない?今、ハゲタカが人間を食わないって知ってる?
高橋 汚染されてるから?
内田 そう、内臓には口をつけないんだって。食うと死ぬから。ハゲタカが食ったら死ぬような毒物を体内に備蓄しながら生きてるわけですよ、我々は。

 
 本当にハゲタカが人間の内臓を食わないのか、私には検証のしようもありませんが、本当だとしたらすごい話ですね。動物は、生きるための本能・直感が優れていますから、人間を食べないということは、人間が毒物で汚染されているということの証なのかもしれません。

大学短大はスリム化で全部残せ

 この両氏の対談は、本音ベースで話していますから、多くの示唆に富んだ視点から問題を提起してくれています。少子化によって学齢人口が減少する。このため、日本では生き残り競争によって、多くの大学がつぶれると言われています。
 この点について内田氏は、ずばり、18歳人口の減少率と同率で全国の大学と短大の定員数を削減するように行政指導すれば、全部がそのまま生き残れる。学生がいることによって、学生の住むアパートとか、買い物する店とか、レストランとか、地域経済に貢献し、雇用も創出されている。大学には図書館もあるし、情報設備もある。災害の時逃げ込める緑地もある。そういうものをひっくるめて考えれば、競争原理によって、潰してしまうというのではなく、全部を生き残らせる。そういう政策があってもいいではないか、と言っています。
★内田樹さんの「大学の統廃合について」の論文はこちらから→

 私たちは、競争原理の呪縛に囚われ過ぎているのかもしれません。面白い切り口がいろいろ楽しめる本だと思います。寝転びながら、気軽にお読みください。

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国が亡びるということ(佐藤優・竹中平蔵)

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日本のインテリジェンス

 私は、かねがね日本における本当のインテリジェンスは2人ではないかと思っていました。1人は外交ジャーナリストである手嶋龍一氏、そして本書の佐藤優氏です。私は、嘗て、千代田プレスクラブというところの会員に属していた関係で、佐藤優氏の話を間近で聞く機会がありました。思っていたより相当に胴周りが大きく、運動不足ではないかという印象を持った記憶があります。

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 佐藤優さんは元外務省の主任分析官として、佐藤宗男さんと行動を共にしたことから、一連の騒動に巻き込まれ、遂には逮捕・収監されるに至りました。私は、嘗て、彼の「国家の罠」を読んだことがありますが、その博覧強記ぶりに脱帽したことがあります。刑務所に収監中も書籍の差し入れを頼み、数学の勉強なども含め、毎日数冊の本を読破したそうです。収監後には自由に物を言えるようになったので、本人にとってはかえって良かったも言います。

示唆に富む分析能力

 さて、本書「国が滅びるということ」についてです。すべて対話形式で構成されていますので、軽い読み物形式になっていますが、非常に中身は濃いと思います。現状の分析と国のあり方、行く末に関し、示唆に富んだ読み物になっています。佐藤氏の知識の該博さはもちろんですが、単なる知識屋ではなく、日本と世界情勢に関する分析能力はさすがと思います。
 竹中平蔵氏は、元経済財政政策担当大臣でしたから、皆さんもよくご存じのとおりです。弁舌さわやかで説得力があります。小泉さんに信頼された理由も何となく理解できます。私は、小泉さんと竹中さんが推進した郵政改革の方向は決して間違っていなかったと思っています。「民間でできることは民間で」という基本方針も、決して間違っていません。郵政の既得権を守っていたら、日本の財政破綻の時期はもっと早まっていたと思います。郵便局が集めた貯金は財政投融資資金(財投)として、大蔵省(当時)を通じ、道路公団や本四公団、石油開発公団等々各省の所管する公共事業部門に配分され、事業が推進されていきました。建前上は利息をつけて返済することになっていましたが、返済ができないため、更に利息分まで含めて再度貸し付け、借金が雪だるま式に膨らんでいった、その構造を改革したのです。「元を断たなきゃダメ」というコマーシャルのとおり、根本のところを直す必要があったのです。亀井静香氏など、既得権を奪われた人にとっては驚天動地、怒髪天を突く状態だったことでしょう。

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TPPには参加すべき

 話が別の方向に進んでしまいました。本書に戻ります。両氏は、一刀両断、「一日も早くTPPに参加すべきである」と述べています。私も個人的には早急に参加すべきであると考えていたので、わが意を得たり、と思いました。野田総理の参加表明に対して、両氏は、「中国はうろたえロシアは驚いた」という表現をしています。
 竹中氏によれば、「中国は今、自国の大きなマーケットを背景に、アジアの国々と二国間で非常に強引な自由貿易交渉を進めつつある。今回のTPPは、それに対する一つのアンチテーゼという意味合いを持っている」というわけです。佐藤氏も逆説的に、次のように述べています。
 『TPP反対派に聞きたいのは、「ではあなたはTPPに参加せずに、つまり「日米同盟」を放棄して、中国の軍門に降るという選択肢があり得るということなんですね」と。もちろんあり得ないわけです。なぜそんな当たり前のことが分からないのか不思議でなりません』。

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日本が大きなところで間違うワケ

 TPPに関する判断は間違っていませんでしたが、多くの場面で、日本という国が「大きなところで間違う」理由について、竹中氏は、「方針の策定や問題解決を、個人の資質や技に頼っているからだ」と指摘しています。つまり、アメリカのランド研究所のように数百人単位で運営する組織だったインテリジェンス機構を持っている国と、日本のように手嶋龍一氏や佐藤優氏のように一部の優れたインテリジェンスに頼ってしまう国との違いがその原因だと指摘しているのです。
 国際社会という弱肉強食の世界の中で、情報の収集と分析は不可欠の機能です。それにも拘らず、日本にはそれがない。常に小さな安心を得ることに汲々としていて、大きな安全を得ることに目がいかない、というわけです。
 確かに、尖閣列島で中国の漁船が海上保安庁の船に激突したとき、世界の中の日本、世界の中の中国というものが十分に分析できていれば、中国の脅しに屈してみじめな解放をする必要はなかったわけです。情勢分析はできていないから、脅されれば屈するという条件反射しかできないわけです。しかも、あの時、菅総理は、「沖縄の現地の検察庁の担当者が勝手に解放したのであって、国は関与してない」などと、自らあずかり知らぬことであったという趣旨のことを述べています。よく恥ずかしくもなく言えたものです。国家の指導者に胆力がないのと、国際情勢の分析に関する組織だった機関を持たない国の違いとしか言いようがありません。
 本書では、このほか、官僚の劣化の原因、欧州や北朝鮮、そしてイランの分析、今後日本はどうしたらよいか、など、大変示唆に富む内容がいっぱい詰まっています。対談形式ですから気軽に読めますが、内容は辛口で骨太の濃い内容になっています。自分の立ち位置を再確認するためにも、是非一読することをお奨めします。

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日本の農業が必ず復活する45の理由(浅川芳裕著)

自給率発表のウソ

 私は、嘗てこの「書評コーナー」で柴田明夫さんの「食糧危機が日本を襲う」を取り上げ、「既に世界の各地で食糧の争奪戦が始まっており、食糧を自給できない日本は、明日にも食糧不足の危機が襲ってもおかしくない」との記述を紹介しました。このような危機感は、農水省の発表する「食料自給率39%」という数値を前提としています。

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 しかし、本書の著者は、食料自給率の数値そのものに、先ず疑問を呈しています。毎日大量に処分される食品工場やコンビニ、レストランでの廃棄分、ホテル、一般家庭での食べ残し分、こういった捨てられた食料は年間で1,900万トンに達しており、これは日本の食料輸入量の3分の1を相当する量なんだそうですが、これらは食料自給率のデータには、全く反映されていないんだそうです。
 しかも、全国に200万戸もいる農産物を販売していない農家が生産する大量のコメや野菜も、統計上、自給率の計算からは除外されているというんです。更に、農産物を販売している農家分についても、規格外の米60~70万トンや、畑で廃棄されている約300万トン分の野菜も一切カウントされていません。勿論、最近ブームの家庭菜園で作った農産物なども計算外です。

「摂取カロリー」ベースでは53%

 なぜこういった捨てられた食料や生産物が食料自給率の計算から除外されてしまうのか、私には全く理解することができません。国民が健康に生活するのに必要な食糧が身近な国産でどれだけ賄われているのか、という観点から自給率を計算するならば、これらの数値を除外する理由は全くないはずです。このため、著者は、厚労省が定める健康に適正な「食事摂取カロリー」を基準にして計算しなおすと、日本の食糧自給率は53%になると断言します。
 この農水省の自給率計算を前提にするならば、輸入がゼロになった場合、日本の自給率は100%になります。供給量と消費量が一致するからです。日本の経済力が弱まり、世界で食糧の買い負けが進むとどんどん自給率が高まるということになります。発展途上国では軒並み食料自給率が高いですが、それは海外から食料を買うお金がないからです。海外から食料を買える国は自給率が低く、買えない国ほど自給率は高くなる。これって変だと思いませんか?
 そもそもこんな無意味な指標を国策に使っているのは、世界で日本だけなんだそうです。しかも、カロリーベースで自給率を計算している国も日本だけだそうです。不思議の国ニッポンですむ話ではありません。

金額ベースでは70%

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 実は、農水省はカロリーベースではなく、「金額ベースの自給率」も発表しているんです。こちらの数値でよれば自給率は70%になります。国内で1,000円の食べ物を買えば、そのうち700円は国産だということです。国民の実感に近いと思いませんか。しかし、このデータは、全く広報されていないんだそうです。農水省にとって都合の悪い数字だからです。農水省の立場からすれば、自給率が高くては困るんです。危機感を煽ることができないからです。農業予算を確保し、増額するためには、食糧危機を演出する方が効果的です。ここでも役人の無駄遣いの構図が見てとれます。

国賊に等しい農水省の対応

 海外のマスコミも、農水省発表の数字を鵜呑みにし、日本の弱点として喧伝しています。本来は、世界に誇れる日本の農産物を世界に発信せず、わざわざ税金を使って、いかに国力がないかを宣伝する農水省の対応は、国辱者、国賊者と言っても過言ではありません。少なくとも、カロリーベースで39%と発表するならば、金額ベースでは70%になるということも、同時に発表すべきです。
 このように本書は、農業分野におけるニッポンの力がいかに強いものであるかを随所に示してくれる「目から鱗」本です。このほかに本書は、農家の嫁不足の実態は?日本は農業大国って本当?中国野菜は安全か?遺伝子組み換え作物は体に悪いのか?農業の自由化はなぜ必要なのか?砂漠で農業ができるって本当?といった多くの興味あるテーマでも実態を詳しく述べています。この本を読んで、私も遺伝子組み換え作物を食べてみようという気になりました。目から鱗本、是非ご一読ください。

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鋼鉄の叫び(鈴木光司著、角川書店)

すばらしい筆力

 久々に本格的な小説を読んだような気がします。こんなに素晴らしい小説家が日本にもいたんだ、という嬉しい感動を得ることができました。こんなすばらしい著者、鈴木光司氏を寡聞にして存じ上げませんでした。著者を知ったのは、U-TUBUを逍遥していた際に、「ユーストリーム ぶっちゃけトーク」という番組で、勝間勝代氏と鈴木光司が対談をしているのを何気なく聞いたことがきっかけです。

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 対談で、教育論に話が及んだ時、鈴木光司氏が、「今の教育では日本はダメになる。これではマークシート方式で点を取れる子が頭がよい子だと思ってしまう。頭がよいかどうかは、命題に対していかに論理的に物を考えることができるか、そのプロセスこそが大事なんだ。コンセプトを自分で作り、自分で解決する能力を身につけないと、大きなことを成し遂げることはできない。ゼロ戦のように、他の人間が作った飛行機を改良することはできるが、どうしたら空がとべるかという根本問題を解決することはできない。太平洋戦争に負けたのも、日本は曹長や軍曹といった下士官クラスは米軍よりも優秀だったが、将軍や大将クラスは米軍よりも遥かに劣っていた。それは陸軍兵学校や海軍兵学校で、過去の偉い人の言ったことを丸暗記させられたりしたが、大きな視野に立って物事を判断するという訓練を全くしなかったからだ。私は今の教育の欠陥を知っているから、自分の子供は自分で直接教えた。」というような発言をされたのです。

コンセプトを語れる作家

 更に、著者は「日本の作家は、自分の書いた小説のコンセプトを語ろうとしないが、自分は2時間でも3時間でも自分の小説のコンセプトを語ることができる。日本の小説家は、コンセプトは読む人がそれぞれに判断すればいいなんて言ってる。とんでもないことだ」というような発言をしていることにも信念の強さを感じることができ、興味を惹かれました。早速、アマゾンで本書「鋼鉄の叫び」を購入しました。

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 読み始めたら、これがまた実に面白い。つまらない小説はなかなか引き込まれないものですが、この本は、1ページ目からすぐに濁流の中に放り込まれたように、有無を言わさず引きつけられました。511ページに及ぶ長編大作ですが、途中で飽きるということがなく、それだけ物語の展開が絶妙で、次へ次へと読み進んでしまいます。

特攻隊員の深層に迫る

 物語は、太平洋戦争末期の特攻の時代まで遡ります。主人公雪島忠信の父和宏は3高に入学するが、突如「アカ」にかぶれたとして特高警察に逮捕されます。そして、そこで非人間として警察の厳しい拷問を受けます。その後、特攻要員として鹿屋基地に送られるが、そこでも「アカかぶれ」として厳しい処遇を受け、ついには肺浸潤を患い、死の一歩手前で長野県の山の中にある海軍病院に送致されることになります。そこで峰岸海軍中尉と運命的な出会いをします。この峰岸は豪放磊落な人柄で、熱烈な愛国者ではあるが、軍という組織のあり方、日本の行く末には強い懐疑心を持っていました。負け戦であることも自覚していました。それでも深く日本を愛するがゆえに、敢えて特攻を志願しようとするものの、担当医は「君は敗戦後の日本になくてはならない人材だ」として、絶対に認めようとしません。
 敗戦を予感していた峰岸は、特高によって理不尽に蹂躙された和宏を保護すべく医官と結託し、病気を理由に和宏に「現役免除」の資格を与え故郷に返らせます。別れの駅頭で和宏は「もうこれで会えぬかもしれぬ」と死を覚悟した中尉の言葉を聞くことになります。
 峰岸はその後、病院を抜け出し、特攻要員として九州鹿屋に赴き、隊員5名とともに沖縄の空に向け出撃します。しかし、計器の不備により、ただ一機無人島への不時着を余儀なくされます。

ノーベル賞候補にしたい

 その後の展開は、直接ご覧いただきたいと思います。この著者の息もつかせぬ場面展開は、ただ者ではない。主人公忠信の不倫の深層心理や不倫相手の菜都子の心の葛藤は、自分が不倫をしているかのような錯覚すら覚えてしまいます。それに、読み進むうちに、あっという間のどんでん返し。この感動的などんでん返しの手法は、並みの作家の力量ではありません。村上春樹がノーベル賞の候補になるなら、この鈴木光司氏も絶対にノーベル賞候補になってもおかしくない。心からそう思いますが、皆様はどうお考えになりますか。是非、御一読下さい。

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夢曳き船(山本一力著)

 山本一力という著者は、時々テレビなどにも登場していましたから、前から知っていました。穏やかな語り口に秘めた信念のような気迫が感じられ、男の魅力に溢れている作家だなと思っていました。いつかこの作家の小説を読んでみようと思っていました。

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 実際に読んでみて、期待に違うことはありませんでした。著者は20年以上も前に「あかね空」で直木賞をとっていますから、もともと実力はあるんですね。
 読み始めてすぐに、この作家は本物だと分かりました。筆致が樫の木のようにどっしり落ち着いており、変に捏ねまわしていないところが魅力的です。
 この小説は、伊勢杉という江戸の材木商が、伊勢熊野の杉千本を海路で江戸まで廻漕する、その顛末を描いた物語です。熊野の杉というのは、母屋普請に用いる用材として一級品であるというだけでなく、

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熊野の森には神様がいてそこの杉なら縁起がいいとも言われ、江戸では高値で取引されていたんだそうです。今の時代なら、杉千本を輸送する位どうということはありません。しかし、当時は馬車や牛車の時代です。途中に多くの川も渡らなければいけません。大井川のように、人間1人1人を肩車をして渡っていたそういう時代です。とても千本も纏めて輸送することなどできはしません。
 当然、海路が利用されたわけですが、一度に千本の杉を海路で輸送することがどれほど困難な作業であったのか、ある程度は想像できると思います。
 7月7日に熱田の湊を出て13日に品川の湊に到着するまでに約1週間です。途中、下田湊に投宿しますが、この湊では、賭場を開く地元の貸元の宿に世話になります。海路、野分と呼ばれる暴風雨に遭遇し、大波と強風に千本杉が激しく

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翻弄されます。筏に組んだ千本杉を切り離さなければ曳き船は沈没する。切り離せば命は助かるが、千本杉は流されてしまう。ぎりぎりの選択を迫られます。主人公の暁朗(あけろう)は、賭場を張っていた渡世人であり、船乗りの経験は全くありません。まして廻漕船の曳航など全くのド素人です。その暁朗が、千本杉は切り離さず、そのまま江戸まで廻漕するという強行策をとります。
 その結果は読んでのお楽しみということですが、江戸の世に生きた職人、賭場師、用材問屋など庶民の生活が生きいきと描かれており、それらの人々の風俗の一端を窺い知ることができる痛快娯楽小説でもあります。

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武士道(新渡戸稲造著)

 新渡戸稲造。日本人を初めて「英語で」世界に紹介した人物です。5,000円札に登場する人物といった方が分かりやすいでしょうか。もっとも、最近は5,000円札もほとんど使わなくなってしまいました。千円札と1万円札があれば、ほとんど足りてしまいますからね。
 この新渡戸稲造という人物。札幌農学校(今の北海道大学)で学んだあと、アメリカ、ドイツで農政学などを研究。帰国後は札幌農学校教授、京都帝大教授、第一高等学校長、東京帝大教授、東京女子大学長を務めるなど、教育界に身を投じただけでなく、国際連盟の設立に際して事務次長に就任するなど、国際的にも活躍された日本が世界に誇るべき逸材です。

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 この武士道という著書は、英文で書かれた後、最終的にはアメリカ人の奥様に最終校正を頼んだということを、何かの本で読んだことがあります。通読して思うことは、文章に品格がありますね。そう言えば、藤原正彦さんの著書に「国家の品格」という本もありましたね。あの著書も素晴らしかったですが、あれですよ。あの品格。どういうふうに品格があるのかということを、言葉で説明するのは大変難しいですが、身仕舞が凛として折り目正しく、かつ、該博な知識に裏打ちされた文章から滲み出てくる風格、とでも表現すべきなんでしょうか。武士道のような抽象概念を、外国人に説明するのは大変難しいことだと思います。著者自身、若かりし頃は日本刀を腰に差していたと言いますから、実体験も含まれているんでしょうね。
 サムライのもっている「仁」「義」「礼」「智」「信」「名誉」といった概念を、古今の文献を駆使して説明するのはさすがです。多くの日本人の根底にある心情や徳、更には切腹の意味など、この本を読んで初めて、少しは理解できたような気がします。
 あのエジソンやルーズベルト大統領も絶賛した「武士道」を、我々日本人自身が読んでないなんて、恥ずかしいじゃないですか。読めば必ず日本人であることに自信と誇りを持つことができると思います。是非、皆さんも一度読まれることをお奨めします。

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人がガンになるたった二つの条件(安保徹著)

著者のまえがき

「みなさんは、いまもなお増え続けるガンという病気についてどんなイメージを持っていますか?現代医学がこれだけ進歩しているにもかかわらず治せないでいるので、よほど恐ろしい病気ではないかと感じているかもしれません。
 しかし、実際はそうではないのです。意外に思われる人も多いでしょうが、ガンはとてもおありふれた病気であり、決して不治の病などではありません。ただ、多くの医者がそれを知らないでいるだけ。
 いや、ガンにかぎらず、すべての病気に同じことがいえます。本当は自分の生活を見直すことで十分に対処できるものを、医者がわざわざ難しくしてしまっている。それが現代医療の現実なのです。」

 これは、著者のまえがきです。本屋の店頭で、このまえがきを読んだだけで、すーっと引き込まれてしまいました。そして、著者の良心のようなものを、直感的に嗅ぎ取りました。一瞬、いわゆる「トンデモ本」の類ではなかろうか、という気持ちが脳裏をかすめたからです。

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 しかし、著者の経歴や医学界における業績などを拝見して、この人は、医者としての基礎的な鍛錬を積んだ立派な研究者であるということが分かり、「トンデモ本」ではないと確信しました。しかも、この安保徹先生のことは、私の2月18日付けのブログでご紹介した船瀬俊介氏の講演の中でも紹介された人物であるということに思い至り、得心したのです。

ガンの原因とは

 著者は、まず、ガンは特別の病気でも何でもなく、「ごくありふれた病気の一つにすぎない」と述べています。そして、その原因については、「働きすぎや心の悩みなどによるストレスと、それによる血流障害、すなわち冷えが主な原因」と結論付けています。「体の冷え」が原因ですから、従来から言われているような発ガン物質、魚や肉のコゲ、あるいは食品添加物、タバコ、紫外線、カビなどは、直接の発ガン物質ではなく、「せいぜいガンになる引き金にすぎない」と述べています。
 発ガン物質にこだわるかぎり、結果的にガンの原因が特定できないまま、とにかく目先の症状を取り除くことに意識を向けるようになり、「手術や抗がん剤、放射線治療」に走るようになる、というわけです。原因を取り除いていないわけですから、いくら治療を施しても再発するのは当然ということになります。
 著者は、ガンというのは、一般に思われているような失敗作などではなく、ガンになる条件が整えば必ずガンになる。失敗作どころか、「成功の繰り返しによって生まれている」といった方が自然だというのです。

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 そして、著者は、「ガンは、ストレスによって低酸素、低体温の状態が日常化したとき、体の細胞がガン化して生まれるのです」と結論付けています。要するに、ガンは低酸素、低体温の環境に対する適応現象として現れるもの、ガンになる理由は、それ以上に複雑なものではないというわけです。
 このことから言えることは、「ガンになるということは、要はその人の生き方の問題」なのだというわけです。ガンは決して自分の体に悪さをする存在ではなく、生きにくい状況に適応しようとする体の知恵そのものにすぎないというのです。つまり、ガンは必死になって生き延びようとしているだけで、広い意味では、ガンを抱えた私たち自身がガンの延命を図っているとも言える、というわけです。 
 私があまりここで詳しく解説をしてしまうと、本を購入する人がいなくなっては困りますから、この辺にしたいと思います。ガンは普通の病気のひとつにすぎないという前提から、日本人に多い「高血圧」や「糖尿病」などに対する対処法なども詳しく説明しています。これらの病気で悩んでおられる方は、是非お読み頂くことをお奨めします。
 また、意外に知られていない男女の違いや、冷え性の女性が多いのはなぜか、なぜ子供はピーマンを嫌うのかなど、興味のある話題もいくつか取り上げています。

医者数に比例するガン患者増加の不思議

 これほど医療が進歩しながらガンは一向に減る気配がなく、むしろ増えています。年間60万人がガンにかかり、そのうち30万人が亡くなっていると言われています。ガンの5年生存率は4割程度で、ガンと診断されて5年以内に半数以上の人が亡くなっているという現実。医者の数も、毎年増え続けています。30数年前には約13万人でしたが、今は30万人近くもいます。他方、ガンで亡くなる人は、30数年前は約13万人。今はこれが30万人以上。不思議に思いませんか?医者の数の増加に比例してガンで亡くなる人の数も増えている。だったら、医者の数を減らせばガンになる人も減るのではないか、と言いたくなりますよね。医は忍術とはよく言ったものです。
 
 このような関係について著者は、「現代医療が発達しても病気の数が一向に減らず、むしろ増加してしまっているのは、つらさや苦しさをもたらす病気を悪とみなし、この悪をいかに排除するかという発想に立っているからです」と述べています。

 たしかに現代医療は素晴らしい技術発展を遂げてきました。画像診断技術や医療器具の進歩発展には目を見張るものがあります。しかし、その一方で、カルテや診断画像ばかり見て、患者の顔色や心の中を見ようとしない。医療がいかに進歩しようとも、人間の頭や心はそう簡単には進歩するものではありません。人間のDNAが同じであるならば、喜怒哀楽の感情は、奈良や平安の時代はおろか、原始の時代からもさほどの変化を遂げていないはずです。

 著者は、さまざまな試行錯誤を繰り返すなかで、人間というものの本質を原点に立ち返って考えることにより、ガンの本質に迫ることができたのだと思います。著者は、はしがきの中で「人類はついにガンすらも克服したのです。すべての病気を回避するための本当の答えが見つかったわけですから、この本で発表することは、「百年に一度」の大発見になると思っています。」と述べています。私も、人類の福音に寄与する発見として、間違いなくノーベル賞に値するものと確信しています。

 その結果、医者が増えれば増えるほど、病人も減る、という当たり前の結果が実現されることを願っています。是非一度、皆様にもお読み頂きたいと思います。

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ゆるく考えよう(ちきりん著、イーストプレス刊)

 表紙にいきなり「人脈づくりはたぶん無意味です」、「「所有」という時代遅れ」、「人生は早めに諦めよう」、「目標は低く持ちましょう」「10年以上のローンはダメです」などという、謹厳実直、質実剛健の気風で育った世代の人なら目を剥きそうな標題が並んでいたので、つい買ってしまいました。

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◆ 著者のちきりんという人も全く存じ上げません。著者名の横に「おちゃらけ社会派ブロガ-」と書いてありましたから、お茶らけな人なのかも知れません。だから普通なら買わないところですが、著者紹介の欄に「旧ソビエト連邦を含め、世界50カ国を旅している」と書いてあったので、買う気になったのです。
 私は「1人で世界を50カ国も旅しているような人」は、もうそれだけで一目置きます。なぜならば、自分にはそれができないし、それだけ世界を見ていることによって、自分とは異なる世界観を持っているだろうと信じるからです。

◆ 約40年ほど昔、私の若かりし頃、日本航空の提供で「兼高かおる世界の旅」とかいう題名のTV番組がありました。私は、ほぼ毎日曜日、これを楽しみに見ていました。彼女は、女一人(と言ってもスタッフはいたのですが)世界各地を飛び回り、「世界のいま」を生き生きとダイナミックに伝えてくれました。よくもまあ、女1人でこれほどまで世界各地を飛び回り、政府高官に会ったり、原住民と交流して奇習を伝えたりできるものだと驚愕し、ワクワクするような気持ちで見ていたものでした。飛行機という乗り物が、まだまだ大衆化していない時代に、世界中の人々の生活ぶり、美しい風景をふんだんに紹介してくれました。

◆ 本書の「ちきりん」という著者は、男なのか女なのか、読了後も分かりません。でもエジプトで1人で野宿したというような体験談も載っているので多分男なんでしょう。彼の意見の大部分は、私の実感からもほとんど理解できます。彼は、世界を回った実感として、「日本は素晴らしい国」であると絶賛しています。その理由として、次の7つを列挙しています。
① 日本ほど食べ物がおいしい国はありません。世界から見れば、日本は驚愕のグルメアイランドです。
② 日本では決められたことが実行されます。これはグローバルスタンダードでは信じられないようなことなのです。
③ 日本は平和で犯罪も少ない。真夜中に若い女性が一人で歩ける、世界では稀な安全な環境に私たちは住んでいます。
④ 昔は日本も他国に攻め込んだりしていましたが、ここ60年以上、そういうことをしていません。
⑤ 世界基準でいえば日本はまだまだかなり平等な国だと思います。統計的な貧困率やジニ系数はそうでもないようですが、実感としては「じゃあ、日本よりも平等な国ってどこ?」って感じです。
⑥ 日本は神を信じなくていいからすごく自由です。
⑦ 日本は、自然と四季が多彩で素晴らしい国です。圧倒的な多彩さです。

◆ このように、今の日本人は自信を失い、ダメな国だと沈滞感が横溢していますが、世界を回ってきた著者の目から見れば、日本は素晴らしい国なのです。それに加えて著者は、「日本の未来はとても明るい」と断じているのです。その理由として、次の三つを挙げています。
【1】日本にはユニークバリューがあります。「日本だけが世界で異質」という面はたくさんあり、それは「日本が世界に売り込めるユニークな価値を多く持っている」ということです。
【2】若者が昔に比べて優秀です。昔の大学は文字通り「レジャーランド」でした。一方、就職状況が厳しい今の学生は勉強もよくするし、留学して語学力も磨き、他大学や外国の学生とも交流します。行動力、英語力、視野の広さ、自分で考える力、どの点から見ても1980年頃の学生より優秀です。
【3】世界の中心になる。これからの世界の中心は「西欧」から「アジア」に変わります。これは日本にとってはとても有利です。

◆ これまで、日本異質論、無気力学生論がまかり通っていましたが、著者はこれらを見事にひっくり返しています。
 さあ、どちらの見方が真っ当なのでしょうか。興味のある方は、是非ご一読ください。
 

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公共事業が日本を救う(藤井聡)

 本書は、京都大学の土木計画学、交通工学の専門家という立場から、公共事業の重要性を説いたものです。著者の主張の要旨は、およそ次の3点に集約されるように思います。

◆ 公共事業の重要性というものを、十分に理解したうえで、そこに集中投資をして、それをテコとして日本経済の復活を図ることは決って誤った方向ではない。ただ、今の日本の政治情勢や世論の動向に照らすと、公共事業拡大と言った途端にマスコミから集中砲火を浴びるかもしれない。公共事業=悪との思想を植え付けたのは、国の財政が窮屈になり、各種の税負担が増え、その不満のはけ口として、公共事業がやり玉に挙げられたことが大きい。

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◆ 確かに、これまで公共事業の進め方には反省すべきことが多々あった。しかし、悪いシステムは改めればよい。入札制度も、一般競争入札制度を徹底して導入するなど談合の防止が出来るようシステムの見直しをすべきである。官製談合なども重罰をもって臨むべきである。公務員の天下りも全面的に禁止し、その代わり定年まで働かせればよい。今のように公共事業を悪者にしているだけでは、誰も得をする者がなく、結局、将来は、国民自身が大きな損失を被ることになる。その時になってからでは遅い。

◆ 今は、長期にわたるデフレ経済からの脱却が最も重要な政治課題である。乗数効果の一番高いとされる公共事業のために、今後、数年に亘って、既存の予算の枠外で、新たに30兆円や40兆円の国債発行をしてもこの国の経済は決して破綻しない。思いきって、これら大型の国債を増発することによって、景気を浮揚させ、その結果、税収の増加を促し、併せて日本のインフラの整備を進める。将来、景気回復が本格軌道に乗ってきたときには、これらの臨時的な措置は緩やかに旧に復すればよい。

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食糧危機が日本を襲う(柴田明夫著)

 日本では少子化が社会問題となっていますが、世界の人口は1950年の25億人から今年、2011年11月1日にはとうとう70億人を突破してしまいました。この人口増勢の勢いは、ますます弾みがつき、今後もその傾向は変わらないといわれています。そうした中で中国、インド、ブラジルなど新興国が経済発展し、これらの国では爆食と形容されるほどに需要拡大が著しく、特に肉食化が食糧不足に拍車をかけています。既に世界の各地で食糧の争奪戦が始まっており、食糧を自給できない日本は、明日にも食糧不足の危機が襲ってもおかしくない状況にあります。

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 著者は、日本は、今こそコメを中心に耕作放棄地をフル活用する方向に舵を切るべきであり、コメを日本の戦略物資にすることは不可能ではないと主張します。国内消費と輸出、備蓄、飼料、バイオエタノール等用途を多様化すれば一石何鳥もの効果を望めるというわけです。

 著者はまた、「農業は太陽系エネルギー産業である。田畑は究極のソーラーパネルであり、農産物は、濃縮されていない太陽エネルギーを最も効率よく濃縮し固定化したものだ。林業のあり方も抜本的に見直せば、水源の涵養と木材資源の確保、雇用の創出に貢献できる。」と言います。
 「21世紀における地球規模での成長の限界という巨視的な視点から日本農業に検討を加えるべきである」と主張する著者の見解に、我々日本人もそろそろ気づくべき時ではないでしょうか。

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富士山大噴火(木村政昭著、宝島社刊)

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 マグニチュード9.0の超ド級の大地震が東日本を襲い、津波と原発事故に打ちのめされている中、台風12号がカタツムリのようにゆっくりと日本東方海上に停滞し、四国から中国地方を横断して西日本に甚大な被害をもたらしました。この12号が、紀伊半島に5か所も土砂ダムという有難くない置き土産を残していったと思ったら、今度は15号がこれまた日本東方海上でいやいやをするようにとぐろを巻いて一回転し、その間に本土で待ち構えていた秋雨前線がこれまた超ド級の豪雨を日本列島にもたらしました。愛知県では100万人超もの住民に避難指示や避難勧告が出されました。その後台風は動きを速め、静岡県浜松市に上陸し、関東地方、東北地方も縦断し、各地に大雨と強風の爪痕を残しました。早速明日からは、秋野菜が急騰するのは不可避でしょう。これだけでも、「神様、私たち日本人は何か悪いことをしたのでしょうか」と神様に聞きたいくらい、日本国中大きな災害の只中にいます。

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 そんな中、今度は富士山大噴火がいよいよ秒読み段階に入ってきていると言うのです。この本を読むと本当に憂鬱になってしまいます。しかし、現実の問題である以上、避けて通るわけにはいきません。特に富士山の大噴火が起きれば、富士山周辺が最大の被害を受けますが、関東平野全域も甚大な被害を被るということを覚悟する必要があります。
 著者は、東京大学大学院理学系研究科を経て通産省工業技術院の地質調査所(現在の産業技術総合研究所)などで研究を行った海洋地震学者です。これまで三原山の噴火を正確に予知したほか、東日本大地震を2日前に自身のブログで予言するなど、その実績には定評があります。
 著者は、これまでの研究結果から富士山の噴火の時期をを2011年±4年、つまり、2007年から2015年の間と予測しています。我々国民としては、日本国中、西も東も痛めつけられているこの時期にさらに追い打ちをかけるのかと恨み節も言いたくなりますが、現実は現実として受け入れなければなりません。富士山は既に300年以上噴火しておらず、内側に大きなエネルギーを蓄積しています。
 しかも、マグニュード9.0クラスの地震が発生したとされる貞観時代の大地震と同時期に富士山も大噴火を起こしており、著者は、今回の噴火もその時期の噴火と同程度の大噴火になるのではないかと予測しているのです。
 そのような大噴火が発生したときに、関東地方にどのような被害が生じるのか、著者はそのシュミレーションも行っているのです。そのシュミレーションを読むと、本当に憂鬱になります。興味のある方は是非一読されることをお薦めします。

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知的余生の方法(渡部昇一著、新潮新書)

 渡部先生は、その昔、PGハマトンの「知的生活」という分厚い本を翻訳者として出されていました。この本が出版されたのは34年前だそうです。逆算すると、私が34歳の時ということになります。その頃私は、著者は渡部先生だと錯覚し、憧れにも似た気持ちで毎日少しずつ読ませてもらったものです。その後、渡部先生は単なる翻訳家としてではなく、英文学者など文字通り博覧強記というのでしょうか、その博識ぶりには、尊敬という域を超え、畏敬の念さえ抱いておりました。

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 その後、毎週日曜日に谷沢永一、竹村健一、日下公人、堺屋太一各氏とテレビ番組で対談をしていましたが、あの番組での谷沢さんの博学ぶりと穏やかな口調の日下さんの洞察力に敬服したものでした。
 本書は、渡部先生が書かれた書籍ということで、思わず買ってしまいました。ただし、タイトルは「知的生活」から「知的余生・・・」となってしまったことに、人生の侘しさ儚さを感じ少々残念という気はします。しかし、お幾つになっても渡部先生の知的生活に対する欲望が衰えることがないことは、あるテレビの自宅紹介の番組で知ることができました。自宅におかれた蔵書の膨大さ、図書館と見まごうばかりの圧倒的な蔵書の山に度肝を抜かれました。「万巻の書」とはああいうことをいうのでしょう。先生が亡くなられた後は、きっと遺族の方が地元自治体の図書館にでも寄贈され「渡部図書館」として生き残っていくのではないでしょうか。
 英文学者でもある渡部先生は、本書の中で英語の「読む能力と書く能力」について次のように書いておられます。「英米の社会のメインストリームに受け容れられるためには由緒ある英語が読めて、文法的に正しい英語が書けなければならない。これを以前の日本の良い学校ではかなりよくやっていた。だから留学して1年ぐらいは会話で苦労しても、その後はきちんとやれたのである。」と言い、更に、「ところが日本にいる時にちゃんとした英語の本も読めず、文法的に正しい英語を書けない人が留学してもだいたい英米人から見た文盲の人のまま帰国することになる」のであると会話重視の最近の風潮に警鐘を鳴らしています。
 今の日本の英語教育では、中学、高校、大学と10年間勉強しても全然英会話ができないというのは、どこかに欠陥があることは確かですね。渡部先生は、この点について、「会話は生物的な条件反射の面が大きいから、その言語が話される環境にいるのが一番効率的だ」と仰っています。とすれば、思い切って海外留学をするか、国内で外国人のお友達を作って毎日のように話をするか、同好の仲間同士で毎日30分英会話をするとか、何らかの工夫をする必要があるということなのでしょうね。

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正負の法則

(ドクター・ジョン・F・ディマティーニ著:東洋経済新報社刊) [#zdadb72d]

 本のタイトルにある通り、著者は「この世界には常に正と負の両面があって、その法則から逃れられる人はいない」といいます。逆境や試練が来たときも、その裏には必ずそれと同じだけの祝福がある、という考え方は、我々にとって大きな救いになります。しかし、幸せの絶頂にあるときも、逆に同じ大きさの不幸もあるということになり、不安にもなります。

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 著者は、「何事にも感謝する人は、そうでない人よりも、人生で恵まれることが多く、願望が実現する可能性も高くなります。これはシンプルな原則ですが、人生を変える力があります。」とも言います。こういう言葉をもっと若い時に聞いていれば、私の人生も大分変ったのではないかと思わされます。

 著者は、かつて人前で話すことがとんでもなく恐ろしく、そのような場面を回避することができないときは、下痢、咽頭痛、記憶障害、めまい、目のかゆみ、舌の隆起、胃痙攣の症状が起きたそうです。しかし、「人生と健康に関する普遍的原則」を探求する過程で、200以上のさまざまな学問分野を学び、その結果、人生に自信を持ち、精神的な重荷を減らし、人生で何をすることができるかを知ってインスピレーションを感じるための手段として「ディマティーニメッソド」を考案したとのことです。
 現在は、国際的な講演者及び教育者として世界各国を飛び回っているそうです。興味のある方は、是非ご一読ください。

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憂鬱でなければ仕事じゃない(見城徹、藤田晋共著、講談社刊)

 見城徹氏は、言わずと知れた幻冬舎の社長です。そして、藤田晋氏はIT産業のサイバーエージェントの社長です。なぜ幻冬舎の社長が講談社発行の本を出版したのか、先ず、そのことに興味をもちました。

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 幻冬舎と言えば、創業時に新聞の見開き全面に大々的な広告を打ち、度肝を抜かれたものでした。そして、最初に出版した本がミリオンセラーになった郷ひろみの「ダディ」でした。私自身は、芸能ネタ的な本には興味が湧かず、読みませんでした。売れた理由は、当時、離婚話がマスコミの知るところとなり、連日放送されていた二谷友里恵さんとの離婚の真相が語られているということが最大の売りだったように記憶しています。
 しかし、本書を読んでみて、「ダディ」が刊行されるまでに、見城氏と郷ひろみ氏との間に10年以上の付き合いがあったこと、その間には一切仕事の話はしなかったことなどが語られています。「ありきたりの仕事はしたくなかったから」だというのです。
 
 出す本が次から次へと必ず大ヒットになるこの幻冬舎の社長というのは、どんな人物なのか、前から興味を抱いていました。そして、本書を読んで、「なるほど、この社長の出版する本なら大ヒットするのは納得!」という気持ちになります。
 見城氏は幻冬舎設立当初のころを次のように回想しています。「その頃オフィスは四谷の雑居ビルの一室にあり、電話とテーブルが12月にやっと入ったばかりだった。その年末年始の休み中、僕は電車賃を節約するため代々木の自宅から徒歩で出社し、毎日、作品を書いてもらいたい書き手5人に手紙を書いた。作家、ミュージシャン、スポーツ選手、女優・・・。これを10日間続け、都合50人に手紙を出した。・・・1人につき7、8枚、もちろん何回も書き直す。食事はコンビニ弁当で済ませて、朝9時から夜中の2時まで手紙を書いていた。」というように、彼は物事を徹底的に追求するタイプの人間なのです。
 
 石原慎太郎氏に書いてもらうこととなったいきさつについても次のように書いています。『「太陽の季節」と「処刑の部屋」の全文を暗記し、初対面の時、石原さんの前で暗唱した。石原さんは、「わかった。もういい。お前とは仕事をするよ」といって苦笑した。』
 五木寛之氏との出会いについても、「25通目の手紙でやっと会うことができた」ことなど、裏事情が語られています。人間、「岩をも通す固い意志と誠意があれば何事をも成し遂げることができる」ということを実践している人物ということができるでしょう。是非1人でも多くのサラリーマン諸兄に読んでもらいたい一冊です。

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宇宙は本当に一つなのか(村山斉著)

 宇宙に対しては、誰でも夢とロマンをもっていることでしょう。私は子供の頃、冬の夜空を見上げると天の川がとぐろを巻くように大きくうねっていたことを鮮明に覚えています。それは当たり前の冬の恒例行事でした。しかし、今は真冬の夜空でさえ、天の川を見ることはできません。それだけ大気の汚染が進んだということなのでしょうか。
 その天の川というものがどういうものであったのか、大宇宙のなかではどのように位置づけられているのか、何も分かってはいませんでした。しかし、本書を読んで、なるほど!と、得心がいきました。

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 本書は、最新の天文学が到達した最先端のレベルを、分かりやすく説明してくれています。「宇宙のほとんどすべてを私たちはわかっていない」とか、「万物が原子でできているというのは間違い」、「宇宙の70%以上を占める暗黒物質が、今この瞬間にも体はもちろん、地球をもすり抜けている」、「その暗黒物質は異次元から来たのかもしれない」など、興味をそそられる内容ばかりです。
 宇宙は、今も膨張拡大を続けているということは何となく理解していましたが、宇宙が膨張するためには膨張のエネルギーが必要です。しかし、原点(ビッグバン)からスタートして膨張があるのだとすれば、原点から遠ざかれば遠ざかる程、エネルギーは減衰していくというのがこれまでの地球物理学の基本。それなのに、遠ざかって行けば行くほど、加速するというのであれば、そこに何らかのエネルギーが供給され続けることが必要ということになります。そのエネルギーとは一体何者なのか?そのエネルギーこそ、「暗黒エネルギー」と言われるものなのだそうです。更に、この暗黒エネルギーを供給する場を満たしているのが「暗黒物質」と呼ばれているものなのだそうです。暗黒エネルギーや暗黒物質は、その正体が分からないからこそ、「暗黒」と言われるのだそうです。そして、その正体こそ、現在の地球物理学者が必死になって研究し、探し当てようとしている大テーマなのだそうです。
 いずれにせよ、私たちの住む宇宙は膨張を続け、このまま宇宙が加速膨張すれば、いずれ宇宙は引き裂かれざるを得ないのだそうです。何だか、それだけでも興味が湧いてきませんか。

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日本と世界を揺り動かすものすごいこと(増田悦佐著)

 私は、これまで極力中立的な立場を維持するため、いろいろの立場で書かれた経済書を読むように努めてきました。そして、その結果、自分なりの考え方は、「今のようなデフレは克服した方がよい。むしろ、人為的にでもいいから3%程度の経済成長をするように経済政策を転換した方がよい。」という基本的な認識をもっていました。今のマスコミ界は基本的に同様の立場であり、いつの間にか私もその色に染まっていたのかもしれません。

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 現在の我が国の経済状況を俯瞰すれば、賃金は上がるどころか、逆に少しずつ目減りしている状況であり、新規学卒者雇用も気の毒なほどに低迷しています。経済成長もなく、地方経済も疲弊しています。GDPでは中国に抜かれ、インドやブラジルなどからも急追されています。国の借金も膨らみ、返済の目途も立たず、年金や福祉への将来展望も開けません。他方、為政者は、相も変わらず党利党略で大臣の失言をあげつらう政争に明け暮れています。
 そんな鬱屈した心根でいるときに、本書を読んでみると、「今の日本って意外にいいんじゃないか」という気持にさせられます。全く別の視点から日本を眺めてみると、「今のデフレ国家日本はなかなか捨てたものじゃない。余り小細工をせず、今のままでもいいのかもしれない。」という自信をもたせてくれる一冊だと思います。
 著者は、さまざまな視点から、今の「デフレ国家日本」に生きる日本人を鼓舞し、奮い立たせてくれます。以下に私がなるほどと思った論点をいくつか列挙してみることにしましょう。

◆円高で日本経済はさらに良くなる
 オイルショック当時(1973年と1978年)に比べて円が3.5倍の価値になっている。先進国はハイパーインフレになってしまうかもしれないと心配している中でこれは極めてぜいたくな悩みである。日本は円が強く、原油など輸入原材料を安く調達できるので、インフレの心配をしないですんでいる。この日本の経済の強さは、次のような指標にも表れている。「消費者の洗練度」「企業の消費者志向度」「競争優位を質に求める」「製造工程の洗練度」「企業の洗練性と技術革新への適応力」というすべての項目で日本は世界1位を誇っている。技術革新能力でもドイツに次いで2位を占めている。
 国際商品市場で原油は、山や谷はあったにしても、ほぼ一貫して上昇してきたが、円建てでの原油価格は高くなっていない。円安になれば経済がよくなる、などという言いぐさは絶対に信じてはいけない。

◆デフレスパイラルなど起こり得ない
 日本では1990年代半ばから15年ほどデフレが続いている。しかし、デフレによって生産を大幅に削減したという基幹産業もなければ、経済規模の顕著な縮小も起きていない。生産削減や経済規模の縮小にさえつながらなければ、デフレは全く脅威ではない。過剰なマネーサプライを解消するための自然な治癒過程であり、何の実害もない。
 メディアは、負のスパイラルとして、経済活動が限りなく縮小していくと喧伝しているが、とんでもないことだ。どこのマーケットを見ても技術革新が進めば商品やサービスは安くなる。そして売買量は減るどころか増えるのだ。成熟した技術、陳腐なサービスでは、値下げもできず、売買量そのものも減少する。こんな経済学のイロハレベルの価格と数量の相関関係さえ分からない議論は暴論、妄論である。

◆世界経済の変貌に一番うまく対応した先進国は日本だ
 1969年から2009年までの40年間で、先進国の中で世界経済に占めるシェアを最も減らした国ともっともよく持ちこたえた国はどこか。メディアに洗脳されている人は「一番ダメだったのは日本。アメリカやドイツは、うまくシェア低下を防いだ。」と答えるだろう。しかし、一番シェアを落としたのは、ドイツであり、35.5%も減らした。イギリスやイタリアも軒並み30%前後シェアを減らしている。アメリカはなかなか健闘しているが、それでも7%シェアを減らしている。その中で日本は僅か4%の減少にとどまっている。他の先進国と比べて格段の差がある。

◆ガリバーのいない商圏の方が消費者は得をする
 自国通貨の為替レートが40年間で4倍に上昇しても貿易収支の黒字を維持してきた日本経済の強さは、疑似独占やガリバー型寡占の育たない市場だからである。独占的な高利潤を稼ぐ企業は小さなニッチに限られていた。主要産業の寡占企業は軒並み低利益率にあえぎながらも、必死に技術開発を続けざるを得ないのだ。結果、国民経済全体として、日本企業の利益率は欧米に比べて顕著に低くなっている。だが、日本国民は企業利益率が低い分だけ、安くて品質の良い製品やサービスを買えるという恩恵に浴しているのだ。

◆今後日本製品の輸出は急拡大していく
 日本ほど世界経済の動向に右往左往しないでやっていける国はないのに、メディアの誤報のせいで、「輸出がダメになると日本経済はダメになる!」と思い込んでいる国民は少なくない。日本企業は技術的に難しく、他の国では全くできない、あるいはやればものすごくコストがかかることに率先してチャレンジしている。そういう製品や技術は世界が豊かになればなるほどマーケットが広がっていく。今、中進国や発展途上国で売れている家電製品は韓国製や中国製がほとんどである。しかし、GDPが増え、国民が豊かになるにつれて、本当にいい商品、いいサービス、最先端技術を使ったものが欲しくなる。そうなると日本製品にスイッチする。結果、日本製品の輸出は急拡大していく。

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日本は世界一の水資源・水技術大国(柴田明夫著)

 私はこれまで著者の柴田明夫氏は、食糧問題の専門家だとばかり思っていました。ところが、本書で水資源問題を取り上げているのでびっくり。躊躇なく購入してしまいました。
 嘗て、私は国土庁の水資源局の水資源政策課という部署に在籍したことがありました。当時は、水問題に関しては、マスコミ界に名を知られるような専門家は余りおらず、東大の高橋裕さんに頼り切っていたという感じでした。もちろん、柴田明夫さんの名前など聞いたこともありませんでした。当時の日本は、まだまだ「水と安全はタダ」というのが常識の時代でしたから、水というものに関心を示す人がほとんどいなかったんですね。

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 それでも当時でも、役所の中に河川局や水資源局という部局があった位ですから、役所ベースでは水資源の重要性は十分に認識されていたんです。ですから、当時の水資源局では、水の重要性を訴えていくため、「水の日・水の週間」を制定して、啓蒙を図っていこうと盛んにキャンペーンを展開したこともありました。銀座できれいなお嬢さんに派手な襷をかけてもらって、ビラの配布などをしてもらったなんてこともありましたね。
 そんな思いもあって、本書を興味を持って読ませていただきました。著者は「今や水は戦略物資である」ということを強調していますが、このような認識がもたれるようになったのはごく最近のことだと思います。今はマスコミでも、「中国人が日本の山林の水源を買い漁っている」などと、盛んに取り上げてくれますから、水の重要性の認識は、既に国民共有のものになっていると思います。

 改めて諸外国と日本とを対比したときに、いかに日本の水資源が、貴重なものであるかということに思いを致すべきだと思います。しかも、我が国の水処理の技術は世界最高の水準にあるということも頼もしい限りです。従って、この豊富で清廉な水資源と水処理技術をセットで世界を相手に水ビジネスを展開すれば、工業製品に劣らない強い競争力を持つことができるはずです。
 また、日本外交のぜい弱性が叫ばれて久しいですが、水ビジネスは強力な外交カードにも使えるはずです。今後は、あらゆる人材と資源、技術、ノウハウを動員して世界展開をしてほしい、と強く願うものです。本書は、その観点からも希望の持てる一冊でした。
 余談ながら、著者の柴田明夫氏は、本書で、栃木県と福島県の県境に近い須賀川の出身で、蛇尾川で遊んだことなども記述しています。私も栃木県北の那須の出身であり、蛇尾川は、カジカや鮒などをとった私の心のふるさとです。同郷の士として、親近感をもって読ませていただきました。
 

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