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成年後見

成年後見

成年後見制度とは

 成年後見制度というのは、判断能力の不十分な者を保護するため、一定の要件に該当する場合に本人の行為能力を制限するとともに、本人のために法律行為を行い、又は本人による法律行為を助ける者を選任する制度、とされています。
 「成年」という名称がついていることからも分かるように、本来は成年者を対象とする成年者のための制度です。しかし、一つだけ例外があります。未成年の知的障害者が成年に達して未成年後見が終了する場合に、法定代理人がいなくなってしまうのは困るため、これを防ぐために未成年者の段階でも成年後見の対象になりうるものと解されています。

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成年後見の種類

 成年後見には、次の2種類があります。

  1. 法定後見
  2. 任意後見

法定後見''''

 法定後見は、文字通り法律の規定に基づき、後見人が定められる制度で、実際には家庭裁判所が後見人を定めることになります。この法定後見には、次の3種類があります。

  1. 後見
  2. 保佐
  3. 補助

(1)後見人
 後見の対象となる者は、精神上の障害により判断能力を欠く「常況」にある者が対象となります。このような場合には、後見人に広範な代理権及び取消権が認められています。
ただし、日常生活に関する行為は例外とされています。ここでいう日常生活に関する行為というのは、大体、数百円から数千円程度の消費レベルのものと考えられており、数万円以上の取引については、成年後見人の取り消し対象になります。
(2)保佐人
 保佐の対象となる者は、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者です。保佐人には、特定の法律行為に関する代理権並びに一定の範囲の同意権や取消権が付与されます。ただし、この場合も、後見と同様、日常生活に関する行為は例外とされています。
後見人と保佐人の違いは、後見人にはすべての法律行為の代理権が付与されているのに対して、保佐人の場合は、一定の重要な法律行為についてのみ代理権が付与されているにすぎない、というところにあります。

(3)補助者
 補助の対象になる者は、精神上の障害により判断能力が不十分な者で、後見及び保佐に該当しない者です。補助人には、特定の法律行為に関する代理権又は同意権及び取消権が付与されます。

活用実態の数量的把握

 それでは、これら後見、補佐、補助の三つの制度が実際にどの程度活用されているのかを、数量的に見てみたいと思います。
 下表は、平成22年度に、実際に受付けられた件数と、実際に裁判所によって開始決定がなされた件数を列挙したものです。
             平成22年度における実績

後見保佐補助
新規受付件数(A)7,9153,450 613
百分比66.0%28.8%5.2%
開始決定された比率(B)6,4853,079 491
B/A81.9%89.2%80.1%

 これらの数字から見えてくることは、補助の制度はほとんど活用されていない、ということです。補助の対象になる者は、判断能力が不十分というだけで外見上はほとんど分からない、という場合が多いからともいわれています。この補助制度が活用されるのは、金融機関からの要請を受けて補助人を選定する必要が生じたというような場合に多いと言われています。

任意後見''''

 任意後見というのは、委任者が受任者に対し、自分が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況に陥った時のために、自分の生活や療養看護、更には財産の管理に関する事務の全部または一部を、予め委託しておくというものです。
任意後見人は、主に、次のような事情から選任されることが多いとされています。
・自分の将来に対する不安
 子供がなく、一人暮らしのため、自分の将来が不安であるというようなケースです。
・施設入所の条件として必要
施設側としては、身元引受人がいればよいが、それもいないというような場合には、任意後見契約を締結していることを入所の条件にしているところが多いようです。
・親亡き後子供が心配
 子供が精神障害などの場合、親が生きているうちはいいが、親が亡くなった後、子供をどうすればよいだろう、というような場合に任意後見契約を締結するようなケースです。

任意後見契約公正証書の作成

 任意後見契約は公正証書によってしなければなりません。その様式も「任意後見契約に関する法律」に基づく省令によって定められています。
 つまり、委任者と受任者で勝手に契約書を作成しても任意後見契約とは認められない、ということです。

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公正証書作成に関する費用(参考)

 公正証書を作成するための費用には、次のようなものがあります。

項目名費用備考
公証役場手数料1契約につき 11,000円4枚を超えるときは、超える一枚ごとに250円
法務局に納める印紙代2,600円
法務局への登記嘱託料1,400円 
書留郵便料約450円
公正証書の正本・謄本代1枚につき250円
弁護士等の費用別途必要

(注1)本表に定めるもののほか、任意後見契約と併せて、ほかの委任契約も締結する場合は、その分の費用が加算されます。
(注2)公証人が自宅や病院などに出張する場合は、公証役場手数料が50%加算され、更に、日当と現場までの交通費が加算されます。

委任事項

 任意後見契約においては、原則的には、委任者が委任事項を決めることができます。主に、次のような事項が委任事項とされることが多いようです。
① 財産管理に関する法律行為
 ・不動産その他重要な財産に関する管理や処分
 ・預貯金の管理・払戻しなど金融機関との取引
 ・年金や家賃など、定期的収入の受領
 ・家賃、公共料金、入院・入所費などの費用の支払い
 ・生活費の送金や日用品等の購入
 ・遺産分割、相続の放棄など相続に関する事項
 ・保険契約の締結及び保険金の受領など保険に関する事項
 ・登記済権利証、実印など重要な証書類の保管に関する事項
 ・居住用不動産の購入や処分
② 身上監護に関する法律行為
 ・介護契約、施設入所契約等福祉サービス利用契約等に関する事項
 ・医療契約、入院契約
③ 公法上の行為
 ・登記、供託の申請
 ・税金の申告
 ・要支援、介護認定の申請
 ・支援費の支給申請

委任できない事項

 次に掲げるような行為は、任意に依頼すること自体は構いませんが、任意後見契約としては、委任できない事項とされています。
① 食事介助、入浴介助、オムツの取り換え等の介護行為
② 葬儀や財産の引き継ぎなどの死後の事務
③ 遺言書の作成
 遺言書の作成は、民法に規定がありますし、そもそも任意後見契約とは関係のない事項ですので、委任することができません。
④ 自分の妻の面倒を見てもらうなど、委任者本人以外の者の後見事務

 なお、①②④の事項については、任意後見契約としては行うことができませんが、必要がある場合は、任意後見契約とは切り離して、別の契約として行うことは可能です。

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任意後見人の指定

■ 信頼できる者を指定する
 任意後見人になるべき人は、何といっても自分が信頼できる人を選任するということが重要です。ですから、一般的には親族が任意後見人になることが想定されます、親族でなく、知人や専門家がなることももちろん可能です。親族よりは、信頼の厚い知人や社会的な信頼性の高い専門家に依頼するというのも重要な選択肢と言えるでしょう。
■ 法人も可能
 任意後見人は、本来、個人的な信頼関係を基礎とするものですから、特定の人に依頼するべき者のように考えられますが、法律上は法人を任意後見人にすることも可能です。
法人は、特定の個人ではありませんが、今後は、法人を任意後見人とする契約が増える可能性はあります。なぜならば、法人は、個人と違って先に死んでしまうという心配はほとんどありません。法人という組織が存在している限り、構成員が変わっても契約関係は存続します。委任すべき契約の内容さえきちんと定めておけば、むしろ、安心感が高いと言えるかもしれません。
■ 例外
 本人に対して訴訟をしたことのある者や、不正な行為を行うなどの不適任事由のある者も任意後見人になることはできません。

複数の任意後見も可能

 複数の兄弟を任意後見人にすることや親族プラス専門家の組み合わせなど、複数人と任意後見契約を結ぶことも可能です。また、任意後見人に対して、次のような義務付けをすることも可能です。

  • 権限の単独行使の義務付け
  • 逆に、権限の共同行使の義務付け
  • 予備的な指定

 予備的な指定というのは、任意後見人に死亡や事故があった時に備え、予め予備的に他の者を指定しておくというようなケースです。ただし、このような予備的な指定を法務局は認めていませんので、登記することはできません。

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効力の発生時期

 この任意後見契約が効力を生じるのは、裁判所によって任意後見監督人が選任された時から効力を生ずるものとされています(任意後見契約に関する法律第2条)。
 将来、自分がどのような状況になるか分かりませんので、この任意後見契約は、後見、保佐、補助のいずれかの要件に該当する精神状況に陥った場合でも、適用することが可能です。委任の内容についても、委任者が決めることができます。

任意後見人の報酬

 報酬は、本人の財産から支出することになります。任意後見人との報酬支払いの契約がなければ、報酬請求権は発生しませんが、一般的には、報酬の定めがなされるのが普通です。
 法定後見人の場合には、家庭裁判所に申し立てをすることにより、家庭裁判所が報酬の額を決めてくれます。その額は、1月あたり2万~3万円というケースが多いようです。
任意後見契約の場合は、委任者と受任者の話し合いで決めますので、金額的な制限はありません。
任意後見監督人の報酬は、法定後見監督人と同様、家庭裁判所が定めます。

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任意後見の実績

 この任意後見の実績は、下表のとおりです。制度発足以来10年が経過しているのに、このような状況ですから、制度の趣旨が十分に生かされているとは言い難い状況にあります。
      任意後見の活用状況(平成22年度実績)

新規受付件数613
開始決定された件数491

 制度の活用が低調に推移しているのは、さまざまな理由があるようです。今は息子との親子関係が円満だけれども、将来息子が結婚して、孫も生まれた後、今のように円満な親子関係でいるかどうか自信が持てない。だから将来を託すに値するかどうか分からないので任意後見契約は締結しない、自分も今はまだまだ元気だ、というような事情からだと思われます。

任意後見の問題点

■取消権がない
 任意後見人には取消権がありません。成年後見制度には、「自己決定権の尊重」という基本的な理念があり、任意後見人といえどもこの自己決定権を尊重しなければならないからです。任意後見契約を締結するに当たって、①「その契約内容を十分に理解する能力があり」、しかも、②「その契約を締結する意思がある」者が対象とされていますから、当然と言えば当然のことです。
 もっとも、任意後見契約締結後に、放置できないような行動が見られるような場合には、家族などが申し立てれば、家庭裁判所は「本人の利益のために特に必要があると認める時には、後見開始の審判をすることができる」とされています。要するに、任意後見契約から、強制的に法定後見に移行させることもできるということになっています。

■悪い人の餌食の可能性も
 軽度の認知症や知的障害、精神障害等の状態にあるが、ギリギリ契約締結能力はあるというようなケースがあります。そのような人に悪意を持って近づき、手足のマッサージや日常の家事の面倒を見て信頼させ、その後に多額の報酬を前提とした任意後見契約を締結させ、最後には財産全部をとってしまうという悪質な事例もあります。一人暮らしのお年寄りは、話し相手もなく、寂しく暮らしている場合も多いため、優しくされると信頼して預金通帳や実印などを渡してしまうということになるようです。
 任意後見契約は、依頼者と受任者の合意で契約ができますので、家庭裁判所でも取り消しはできません。裁判所としては、きちんとした後見監督人を選任し、後見監督人を通じて監督する以外に方法がないということになります。
これが、この制度の大きな課題とされています。

成年後見人の実務

 成年後見人の行うべき実務には、選任直後に行うべき実務と、日常的に行うべき実務とがあります。

選任直後に行うべき実務

  1. 家庭裁判所での成年後見申立書等の記録の閲覧
  2. 本人や関係者への閲覧
  3. 財産の引き継ぎ
  4. 財産目録・収支目録の作成
  5. 登記事項証明書の請求
  6. 金融機関への届出
  7. 役所等への届出
  8. 親族調査
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日常的に行うべき実務

  1. 銀行での手続き
  2. 介護サービス等の手続
  3. 役所等への手続
  4.  財産管理・身上配慮における注意点

外部リンク

■任意後見に関する法律
■後見登記に関する法律

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