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世界でエネルギー革命が起きています

世界でエネルギー革命が起きています

ローマクラブの衝撃

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 今から45年ほど前のことです。世界各国の科学者、経済人、教育者、各分野の知識人100人からなるローマクラブという組織が、「成長の限界」という報告書を出しました。その報告書によれば、「現在のまま人口の増加が続けば、石油はあと20年で枯渇する。この資源の枯渇や環境の悪化によって、100年以内に人類の成長は限界に達する。」という趣旨の内容でした。世界中の優秀な学者が集まってまとめた報告書だというので、当時は大きな話題になりました。私もそうですが、世界中の人々が、エネルギー資源の限界と成長の限界を肌で感じ、暗い未来を想像したものです。
 しかし、それから45年を経た現在、世界のエネルギー見通しはどうなっているでしょうか。現在、採取可能な原油埋蔵量は、図1でご覧のように、2016年現在で1兆7000億バレル近くにも達しているのです。しかも、この可採埋蔵量は年々上昇しているのです。あと何年もつかを示す年数は48.8年、約50年持つとされています。え?あと50年しか持たないの、という疑問は当然です。

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 でも、この可採年数、ローマクラブが報告書を発表した1972年以来、一貫して右肩上がりに上昇しているのです。つまり、本来、有限であるはずのエネルギーの埋蔵量が年々増え続けているのです。
 このことは何を意味するか。可採埋蔵量というのは、経済的概念で、石油の探索技術や掘削技術が向上し、開発コストが下がれば、石油の埋蔵量は増えていくからです。今後もその傾向に変わりはない、と見られています。

天然ガスにも大変革が

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 一方、天然ガスの世界では今、大きな革命が起こりつつあります。安くて大量の天然ガスが世界中で発見されつつあるのです。その代表的なものがシェールガスです。シェールガスというのは、頁岩(シェール)層から採取される天然ガスのことで、従来のガス田ではない場所から生産されることから、非在来型天然ガス資源と呼ばれています。
 このシェールガスは、アメリカで本格的に採取されるようになりましたが、原油価格の下落に伴い、採算が合わなくなったため、一時生産が停滞しましたが、原油価格の上昇に伴い、再び、増産に踏み切る企業が増えてきたのです。
 では、このシェールガス、どのくらい埋蔵量があるのでしょうか。資源エネルギー庁や総務省統計局の資料によれば、可採埋蔵量は約185兆㎥であり、その可採年数は約60年ということになっています。
 しかし、この天然ガスなど、非在来型のガスの可採埋蔵量に関して世界に衝撃を与えた論文が発表されました。テキサスA&M大学のステファン・ホールディッチが2006年に発表した“Tight Gas Sands”です。それによると、シェールガスが461兆㎥、タイトサンドガス(硬質砂岩層ガス)が212兆㎥など、あわせて922兆㎥という途方もない埋蔵量があるというんです。これに在来型のガスを足すと何と1,187兆㎥にも達すると言うんです。
 これを現在の生産量で割ると、可採年数は実に「400年弱」にもなる、というんですから驚きです。18年先の2035年度の需要見通しである5兆㎥で割っても237年もある、ということになります。最近になって、次々と有力機関がこれに近似した調査結果を公表していることから、このホールディッチの推測は、それほど過大なものではない、とされているんです。

イスラエルにもサウジ並みの油田が ?

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 このように、天然ガスは世界中で、次々と新発見がなされています。例えば、イスラエルです。イスラエルは国土面積20,770k㎡で、日本の四国程度の小さな国です。ところが、その小さな国に大油田があることが判明したというんです。藤井厳喜氏によれば、サウジアラビア並みの2,600億バレルの埋蔵量があるというんです。もちろん、これは陸上部だけでなく、主力はイスラエルに面した地中海に埋蔵されているというのです。イスラエルはパレスチナ解放戦線やイランなどと敵対関係にあり、中東の火薬庫の元凶と言ってもよいほどの国です。
 この情報を元に、ネットで検索をしてみると、やはり、地中海の埋蔵天然ガスをめぐっては、すでに周辺国との間で熱い論争が展開されていました。
 いずれにしろ、イスラエルにそれほどのエネルギー源があるとなれば、これからの中東のパワーバランスを大きく変えることになります。今後、中東の大きな波乱要因になることだけは間違いなさそうです。

▶▶▶藤井厳喜氏の動画はこちらから→youtube動画

シェールガスは日本にもあった

 イスラエルにもあるなら「日本にも?」と思うのは当然です。確かに、日本にもシェールガス田はあります。しかも商業用のシェールガス田です。石油資源開発(JAPEX)が、秋田県内の2カ所ですでに商業生産に向けた掘削作業を開始しているんです。一つは、福米沢油田、もう一つは鮎川油ガス田です。
 鮎川油ガス田は、1995年から生産を開始し、日量40kℓの生産がなされています。福米沢油田も昨2016年12 月から、日量10kℓの原油ならびに日量2,000㎥の天然ガスの試験生産に入ったとのことです。現在も自噴採収による生産を継続しているとのことですが、環境モニタリングの結果、フラクチャリング作業による周辺地域への影響がなかったことを確認したため、実証試験そのものは完了したとのことです。
 これら2箇所の油田には「女川タイトオイル層」というシェールオイルの層が、地下1,300mから1,500mの間で確認されているとのことです。この層は、秋田県に広く分布していることから、他の場所でも開発が進められていく可能性が高いとのことです。
 日本には、このほか近海にメタンハイドレードが大量にあることが分かっています。南海トラフだけでも日本の消費量の13年分もあることが分かっています。周辺の近海すべてを含めると100年以上の埋蔵量があるとされています。
 更に、国連の調査によれば、尖閣列島周辺における日本近海に、大量の石油埋蔵量があるとの報告もあります。中国との関係で、容易に実態調査はできないでしょうが、これも一つの可能性としては残されています。

▶▶▶青山繁晴氏がメタンハイドレイドについて語る→こちらから
▶▶▶青山繁晴→3年後には資源大国?

中東への過剰依存の見直しも

 こうしたエネルギーの埋蔵量の存在が、次々と明らかになってくることにより、将来へのエネルギー不安が軽減されることは、日本にとっての朗報です。

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 特に、日本は多くのエネルギー源を中東に依存しています。嘗ては中東へのエネルギー依存度は9割を超えていました。その後、安全保障の観点から、輸入先やエネルギー源の多様化を図った結果、中東への依存度は7割弱まで低下した時期もありました。しかし、現在はまたまたエネルギー使用量の9割近くを中東に依存しています。
 このような極端な依存傾向は、一朝、事が生じると大変です。具体的には、現在、中国が南シナ海で進めている一方的な海洋埋め立てなどにより、いわゆるシーレーンが遮断された場合、日本はたちまち経済の息の根が止められてしまいます。
 その対策としても、エネルギー調達の多様化は絶対に必要なのです。幸い、シェールガスは、世界の多くの国に埋蔵されていることが分かっています。その先陣はアメリカであり、その埋蔵量は2,431兆立方フィートあるとされています。既に、全米各地で、シェールガスの採取が開始されています。
 このようにして、採取可能になった国からの輸入を増やし、他方、安全保障の観点から、ロシアからの原油をパイプラインで輸入するというのも十分検討に値します。もちろん、社会主義の国家は、何らかの政治情勢の変化があれば、戦略的にパイプラインの栓を閉じることも想定する必要がります。従って、国の安全保障の観点からは、エネルギー源の多様化、調達先の多元化など、日本にとっての最も好ましいエネルギー源の組み合わせ、ベストミックスを考えていくことが絶対に必要です。

心強い総合商社の存在

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 そこで頼りになるのが、日本の誇る総合商社です。日本の総合商社は、もっている資金力、ネットワークをフルに活用して世界各地の資源に多大な投資を行っています。これまでのエネルギー契約は、原油の価格と連動していることや長期かつ安定した供給契約を優先する必要があったため、高値掴みの契約を余儀なくされていたと言っても過言ではありません。スポット価格での契約ができなかったのです。
 しかし、世界には有り余るシェールガスが埋蔵されており、しかも、世界中で採掘可能ということになれば、これまでのような高値での長期契約を強いられることはなくなります。加えて、国内からも少量ながらシェールガスが採取でき、かつ、メタンハイドレードの採掘も可能ということになれば、日本のエネルギー需給の将来は明るいということができます。

日本にとって大きなメリットが

 このように世界のエネルギー事情は、100年、200年という単位で考えるならば、極めて明るいということができます。シェールガスの可採埋蔵量が現時点で400年分もあるということは、今後新たに発見される可能性も含めれば、更に長期になる可能性も十分にあります。いや、必ずそうなるはずです。

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 このような背景を前提に、総合商社は対外的な商取引で、強気の態度で安価な天然ガスを輸入することが十分可能になったということです。価格交渉力が格段に強まったのです。これまでは、高い原油でも長期・安定的に輸入することを優先したため、高い価格で購入せざるを得なかった。供給国が限定されていたからです。しかし、これからは豊富な可採埋蔵量と多くの地域から採取可能になったことを背景に、長期・安定に拘泥せず、安価な値段での交渉が十分可能になったということです。
 また、アメリカとの関係も重要です。トランプ大統領は、これまで何度も日本との貿易不均衡に言及してきました。米商務省が今年7日に発表した2016年の貿易統計(通関ベース)によると、モノの貿易での対日赤字は689億ドル(約7兆7千億円)となり、相手国別では3年ぶりに中国に次ぐ2位に浮上しています。トランプ大統領が「不公平だ」と批判する自動車関連も対日赤字が526億ドルに増加しています。
 このような背景から、アメリカから大量のシェールガスを輸入することとすれば、日米貿易収支の大幅な改善に寄与することができます。
 もちろん、極端にCレーンに依存した日本のエネルギー問題も、安全保障という観点からも、不安要因が減少することになります。

原発や自然エネルギーとの関連

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 原発との関連についても触れておく必要があります。原発は一基建設するのに2,000億程度の費用がかかる、と言われます。廃炉にするためには、更に1,000億円程度はかかると言われます。しかも、廃炉にした後、使用済み核燃料を10万年も保存する必要がある、ということになれば、厳密に原発のコスト計算をすることは至難の業と言ってもよいでしょう。
 他方、天然ガスの場合、ガスタービンコンバインドサイクルといって、ジェットエンジンでタービンを動かす方式は、建設費が200億程度とされています。原発の10分の1です。しかもこのガスタービン方式は、ジェット噴射して使った蒸気を2回、3回と利用できるなど、極めて効率がよいとされています。そのうえ、地震などの自然災害にも強く、安全性も高いのです。
 このガスタービン方式は、三菱、日立、東芝など日本の重電メーカーの得意とする分野なので、世界に向けて技術を提供することが可能な分野でもあります。

最後に

 これまで述べたように、エネルギーをめぐる環境は大きく変わりつつあります。日本にとってフォローの風が吹きつつあるのです。

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 資源の少ない日本は、人材こそが資源という国でした。このこと自体は、今後も大きく変わることはありません。だからこそ、優秀な人材を育て、海外に打って出て、国の富を増やしてきました。非常時の円高と言われるように、円が強いということは国の力でもあります。その強い円を梃子にして、海外から安いエネルギーを確保する。そして、それを使って、国を豊かにして行く。これが日本の進むべき道でしょう。ただし、強い円は、輸出企業にとってはマイナスに作用します。工場を海外に移転されると、雇用が失われます。従って、国は、機動的な国債発行など、変動相場制下においても円の動向には、十分注意を払う必要があります。
 エネルギーの未来は明るいと言っても、未来永劫、明るいわけではありません。遠い将来、いかに豊富なエネルギー資源といえども、必ず燃え尽きる時が来ます。地球規模で見れば、エネルギーは有限だからです。効率的に使う努力は、いつの時代においても必要なのです。
 日本は、「安全保障を前提としたエネルギーのベストミックス」について十分に検討するとともに、この限られた資源をいかに有効に使っていくかについて、技術提供を含め、世界に貢献していく必要があります。(H29・9・18記)

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